「インド最新法令情報‐(2017年5月号) デリー高裁、タタ・ドコモの合弁解消を巡る国際仲裁裁定の執行を承認」

1. はじめに

インドのデリー高等裁判所(以下「デリー高裁」という。)は、2017年4月28日、株式会社NTTドコモ(以下「ドコモ」という。)とインドの財閥タタ・グループ(以下「タタ」という。)の合弁解消を巡る国際仲裁裁定の執行を認める判決(以下「本判決」という。)を下した。これにより、ドコモは、合弁解消を決定した2014年から約3年を経て、タタとの紛争(以下「本紛争」という。)に終止符を打つこととなる。

本紛争の背景には、株式売却に関するインド特有の外資規制があり、インドにおいて現地企業との合弁事業を現に行っている又は検討している外国企業にとって、示唆に富むものといえる。本号では、本紛争の経緯、本紛争で問題となった外資規制および本判決の概要を解説したうえで、本判決の実務上の意義を検討する。

2. 本紛争の経緯

ドコモは、2009年、タタ傘下の通信会社Tata Teleservices Limited(以下「TTSL」という。)の株式26%を取得し、「タタ・ドコモ」のブランド名で、インドの通信事業に参入した。ドコモとタタの合弁契約には、2014年3月31日までにTTSLが一定の業績目標を達成できなかった場合に、ドコモがタタに対して、TTSLの株式を取得価格の50%又は公正な価格のいずれか高い方で、自ら買い取るか又は第三買受人による買取りを仲介するよう請求できる旨の、プット・オプション(株式買取請求権)に関する条項(以下「本条項」という。)が規定されていた。

その後、インドにおける通信業界の競争が激化したこともあり、TTSLは上記業績目標を達成することができなかった。そのため、ドコモは、2014年7月、タタに対して、本条項に基づきTTSLの株式を取得価格の50%で買い取るか又は第三買受人を探すよう請求した。しかし、タタは、取得価格の50%という買取請求価格は、公正な価格を上回る点においてインドの外資規制に違反するとして、当該請求を拒絶した。

ドコモは、2015年1月、ロンドン国際仲裁裁判所(London Court of International Arbitration)に仲裁を申し立て、同裁判所は、2016年6月、ドコモの請求を認容し、タタに対し、約11億7200万米ドル(約1300億円)の支払を命じる裁定(以下「本裁定」という。)を下した。当初、タタは本裁定の受入れに難色を示したが、最終的にはドコモとの間で、本裁定を履行することで合意するに至り、デリー高裁に対して、本裁定を承認するよう共同で申し立てた。しかしながら、外資規制を所轄するインド準備銀行(Reserve Bank of India。以下「RBI」という。)が、本裁定はインドの外資規制に違反するものであり、承認すべきではないとして、デリー高裁に異議を申し立てたのが、本紛争である。

3. 本紛争で問題となった外資規制

1999年インド外国為替管理法(Foreign Exchange Management Act, 1999。以下「インド外為法」という。)によれば、インド非居住者がインド居住者に対して株式を譲渡する場合、インド居住者が支払う対価は、RBIの特別な許可がない限り、公正な価格を上回ってはならないとされている。また、合弁契約において合弁事業の解消方法として利用されることが多いプット・オプションに関して、その行使に上記規制が適用されるかという点につき長らく議論されていたが、2014年のRBI通達(以下「2014年通達」という。)により、通常の株式譲渡と同様に、上記価格規制が適用されることが明らかにされた(なお、プット・オプションそのものに関するインド法上の有効性に関しても長らく議論されていたが、2014年通達により、その有効性が確認された。)。

※2014年通達の概要に関しては、インド最新法令情報(2014年5月号)を参照(http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/column-se-asia/2014/india-5-30.html

 4. 本判決の概要

冒頭で述べたとおり、デリー高裁は本判決により、本裁定の執行を承認した。本判決は、①ドコモはTTSLの株式を取得価格の50%で売却できるにとどまり、これを認めてもインドからの過度な資本流出をもたらすものではなく、本条項および本裁定は、インドの公序良俗およびインド法の基本原理に反するものではないこと、②本裁定がタタに支払を命じた金銭は(株式の譲渡代金ではなく)損害賠償金としての性質を有すること、などを理由に、本裁定はインド外為法に違反しない(すなわち、RBIの特別な許可は不要である)と結論づけた。

 5. コメント

合弁契約においては、終了事由および解消方法を明確に定めることが重要であり、これを怠ったことにより、合弁解消を巡る長期間の紛争対応を強いられるケースが後を絶たない。この点、合弁事業の解消方法の1つとして、合弁契約に違反した当事者に対して、他方当事者が保有する株式の買取義務を負わせるプット・オプションを用いることが多い。このようなプット・オプションは、合弁契約違反に対するけん制になるとともに、迅速な合弁解消を可能にするもので、合弁解消を巡る無用なトラブルを防止する手段として重視されている。

しかし、インドにおいて現地企業と外国企業が合弁事業を行う場合、上述したインド外為法上の価格規制により、プット・オプションが十分に機能しないリスクが指摘されてきた。このようなリスクは、外国企業にとって、インド企業との円滑な合弁解消の支障となるおそれがあり、インドにおいて合弁事業を行う際の障壁の1つとなっている。本判決は、合弁契約上のプット・オプションに対するインド外為法上の価格規制の効力を限定的に解釈するものであり、インドにおいて合弁事業を行う外国企業にとって、合弁からの円滑な離脱の途を確保する点において、好ましいものといえる。

ただし、本判決は、プット・オプションの行使価格が株式取得価格の50%にとどまったことや、タタがインド国外に多数の関連企業を有しており、自ら株式を取得しなくても、インド国外の第三買受人をして、インド外為法上の価格規制を直接受けない形で株式譲渡を実行させることでプット・オプションの行使に基づく義務の履行が可能であったことなど、本紛争の具体的事実関係を重視しているようであり、他の事例にも当然に妥当するものではない点には、十分な注意を要する。すなわち、プット・オプションの設計等の具体的事案次第では、依然として、プット・オプションの行使時に、公正な価格を上回ることを理由に、RBIの特別な許可が必要となる事案もありうる。

いずれにしても、本件は、インド最大財閥タタに関する事案であり、その会長の解任劇もあって、インド国内においても広く注目を集めた事案である。今後は、RBIの特別な許可が要求されるのがどのような場合であるかにつき、ガイドライン等において明確になることが期待される。

以上

TMI総合法律事務所 インドデスク

平野正弥/白井紀充/奥村文彦

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