「インド最新法令情報‐(2017年8月号) インド競争委員会、ヒュンダイに約15億円の課徴金納付命令」

1. はじめに

インド競争委員会(Competition Commission of India, CCI。以下「競争委員会」という。)は、2017年6月14日、韓国の自動車メーカーである現代自動車の現地法人Hyundai Motor India Limited(以下「ヒュンダイ」という。)に対して、2002年インド競争法(Competition Act, 2002。以下「競争法」という。)が禁止する再販売価格の拘束を行ったとして、自動車メーカー1社に対するものとしては過去最高額となる、8億7000万インドルピー(約15億円)の課徴金を科す決定(以下「本決定」という。)を下した。

競争法第3条第1項は、インド国内の競争に相当な悪影響(appreciable adverse effect)を及ぼす、又はそのおそれがある反競争的協定を禁止している。また、同条第4項においては、取引段階の異なる事業者間で問題となりうる協定(垂直的協定)として、抱き合わせ販売(tie-in arrangement)、排他的供給契約(exclusive supply agreement)、排他的取引契約(exclusive distribution agreement)、取引拒絶(refusal to deal)および再販売価格の拘束(resale price maintenance)が例示されており、これらが、インド国内の競争に相当な悪影響を及ぼす、又はそのおそれがある場合に、競争法違反となる。この点に関する競争委員会の基本的な判断枠組みは、まず、反競争的効果の有無を検討し、反競争的効果がある場合は、それを正当化する理由の有無を検討する、というものである。

本決定は、再販売価格の拘束による競争法違反を認定した、競争委員会による初の決定であるとともに、排他的取引契約および抱き合わせ販売の正当化理由に関する慎重な判断も示したことから、実務上非常に示唆に富むものといえる。本号では、本事案および本決定の概要を述べたうえで、本決定の実務上の意義を検討する。

2. 本事案の概要

インドのソフトウェア会社であるFx Enterprise Solutions India Pvt. Ltd.およびインドの自動車ディーラーであるSt. Antony’s Cars Pvt. Ltd.は、2014年、競争委員会に対する通報を行い、ヒュンダイとのディーラー契約に含まれる、①ディーラーは、顧客に対して、ヒュンダイが定める限度を超えた値引きを提供できないという条項(以下「本値引き制限条項」という。)、②ディーラーは、ヒュンダイの事前の許可なく、他の自動車メーカーとディーラー契約を締結できないという条項(以下「本競業避止条項」という。)、③ヒュンダイは、顧客がヒュンダイ指定外のパーツ等をヒュンダイの自動車に使用した場合、当該自動車に関する品質保証をしないという条項(以下「本保証条項」という。)が、それぞれ、競争法に違反することなどを主張した。

これに対して、ヒュンダイは、①本値引き制限条項によって、ディーラーの利益の確保、ディーラーの経営基盤の強化、ひいてはヒュンダイの販売ネットワークの強化が実現されること、②本競業避止条項のように、ディーラーに対して他の自動車メーカーとの取引を制限することは一般的であること、③本保証条項は、ヒュンダイ指定外のパーツ等の使用自体を禁止するものではなく、ヒュンダイの保証範囲を制限するにすぎないことなどを主張し、いずれも競争法に違反しないと反論した。

3. 本決定の概要

(1) 本値引き制限条項について

競争委員会は、本値引き制限条項は競争法が禁止する再販売価格の拘束に該当する、と結論づけた。すなわち、①ヒュンダイが、個々のディーラーに対する覆面調査によって本値引き制限条項の遵守状況を監視し、これを遵守していないディーラーに対して取引停止などのペナルティを課していることから、ヒュンダイのディーラー間における価格競争が制限され、ブランド内競争が抑制されている点、②ヒュンダイがインドにおける人気ブランドであり、業界におけるプライス・リーダーの地位を有していることから、本値引き制限条項によってブランド間競争も抑制されている点などを指摘し、本値引き制限条項には反競争的効果がある一方、ヒュンダイが主張するような正当化理由は存在しない、と判断した。

(2) 本競業避止条項について

本競業避止条項によって、ヒュンダイのディーラーは、ヒュンダイ以外の自動車を販売することが制限されるため、一定程度の反競争的効果が認められ得る。しかし、競争委員会は、本競業避止条項の趣旨が、ヒュンダイの提供する設備への他の自動車メーカーによるただ乗りを防止する点にあり、このため、他の自動車メーカーとのディーラー契約の事前許可制による反競争的効果を正当化できる、と結論づけた。すなわち、ヒュンダイは、ディーラーに対して、ディーラー契約に基づき各種設備を提供しているところ、ディーラーが他の自動車メーカーともディーラー契約を締結した場合、ヒュンダイの提供した設備が他のディーラーにも利用されることになる。このようなただ乗りを防ぐため、ディーラー契約において、ディーラーは、ヒュンダイの事前の許可なく、他の自動車メーカーとディーラー契約を締結できないと規定することは正当である、と判断したのである。

(3) 本保証条項について

本保証条項によって、ヒュンダイの顧客は、ヒュンダイの品質保証を失うという不利益を回避するために、ヒュンダイ指定外のパーツ等の使用を控えるようになるため、一定程度の反競争的効果が認められ得る。しかし、競争委員会は、本保証条項の趣旨が保証範囲を適正化する点にあり、これにより、反競争的効果を正当化できると結論づけた。すなわち、ヒュンダイは、自社の自動車に関して品質保証を提供しているところ、ヒュンダイ指定外の低品質のパーツ等が使用された場合、ヒュンダイが負担する保証コストが増加するおそれがある。これに対応するため、ヒュンダイ指定外のパーツ等が使用された場合に品質保証の対象外とすることは正当であると判断したのである。

4. コメント

競争委員会は、近年、サプライチェーンの異なる階層に属する企業間の垂直的取引関係に対して、監視を強化しつつあると言われている。例えば、競争委員会は、2014年8月、日系企業を含む自動車メーカー14社に対して、自動車部品販売会社との垂直的取引関係に関して不当な取引制限を行ったとして、合計254億インドルピー(約430億円)の課徴金を科した。

本決定の注目すべき点は、従前よりも現実のビジネスにおける必要性、合理性などを重視している点にあるといえる。先例の中には、反競争的効果および正当化理由の判断が表面的なものにとどまり、ビジネスの実態に合致していないと批判されるものも散見された。これに対して、本決定は、冒頭で紹介した判断枠組みを踏襲しつつ、現実の自動車販売ビジネスにおける必要性、合理性などを慎重に検討して結論を導いたものと評価できる。競争法違反による課徴金納付命令は、企業にとって金銭的な負担となる点だけでなく、ブランドイメージを低下させる点でも、重大なリスクといえる。本決定は、表面的な判断にとどまることなく、ビジネスの実態に沿った判断を行ったものであり、競争委員会の姿勢の変化を示すものと考えることができる。本決定は、公正なビジネス慣行に基づく取引条件が競争法に違反すると認定されるリスクを低減させうる点において、インドにおいて事業を行う企業にとって、好ましいものといえる。

以上

TMI総合法律事務所 インドデスク

平野正弥/白井紀充/奥村文彦

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