「インド最新法令情報‐(2018年12月号) 2018年の振り返りと今後の展望」

2018年は、モディ政権4年目の年であり、外国企業の誘致を更に推し進めるための制度改革や、法令改正等が積極的に行われた一年であった。

本号では、2017年末から現在までに公表ないし施行された重要な法令改正等を簡単に振り返りつつ、来年以降の展望について述べたい。

1. 2018年の重要な法令改正等

(1)   破産・倒産法改正

2017年11月23日、2016年破産・倒産法(Insolvency and Bankruptcy Code, 2016)に対する改正布告が施行された。同改正布告により、再建案(resolution plan)を管財人(resolution professional)に提出することができる者が限定された。すなわち、改正布告の施行前は、特段の限定はなく、誰でも再建案を提出し、倒産手続における資産売却等に参加することができたが、同改正布告により、管財人による要求(invite)があった者に限定されることとなった。また、一定の欠格事由が列挙され、当該欠格事由を有する者(欠格者)は、再建案の提出等が認められないこととなった。

(本リーガルアップデート2018年1月号に関連記事:

http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/column-se-asia/2018/india-1-4.html

(2)   外国直接投資規制の緩和

2018年1月10日、2017年版統合版外国直接投資規制(Consolidated Foreign Direct Investment Policy of 2017。)が一部改定された。同改定は、インド市場の重要な産業セクターにおける規制緩和を更に進めるものである。たとえば、従前は、単一ブランドのみを取り扱う小売業に関しては、自動承認による49%までの出資が可能であり、政府の事前承認および一定の条件を満たした場合のみ100%の出資が可能となっていたが、改定により、一定の条件を満たせば、自動承認による100%の出資が認められることとなり、政府の事前承認は不要となった。

(本リーガルアップデート2018年2月号に関連記事:

http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/column-se-asia/2018/india-2-4.html

(3)    2017年会社法改正

2018年1月3日、2013年に施行された新会社法が改正された(2017年改正会社法。The Companies (Amendment) Act, 2017)。たとえば、従前は、定時株主総会は会社の登記された事務所等で開催されなければならず、臨時株主総会はインド国内で開催されなければならなかったが、改正により、事前に全株主が同意した場合には、非上場企業の定時株主総会をインド国内の任意の場所で開催したり、外国企業の完全子会社の場合には、臨時株主総会をインド国外で開催することができることとなった。

また、2018年5月7日には、一定の条件が満たされれば、「当該会社の取締役と利害関係のある者」(当該取締役が取締役または構成員である非公開会社等)に対して金銭の貸付等をすることが認められることとなった。これにより、同一の取締役が兼務するグループ会社間における貸付等が、これまでと比べ容易になった。グループ会社間の貸付等に関する厳しい規制が一部緩和され、グループ会社間の貸付等が容易となったため、財務コストの削減が期待できる。

(本リーガルアップデート2018年4月号および7月号に関連記事:

http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/column-se-asia/2018/india-4-4.html

http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/column-se-asia/2018/india-7-4.html  )

(4)   クロスボーダー合併規則の導入

2018年3月20日、クロスボーダー合併規則(Foreign Exchange Management (Cross Border Merger) Regulations, 2018)にて、インド内国会社が外国会社を買収するインバウンド合併および外国会社がインド内国会社を買収するアウトバウンド合併の双方についての詳細が定められた(存続企業がインド企業となる場合をインバウンド、外国企業となる場合をアウトバウンドと呼ぶ。)。クロスボーダー合併規則が定める要件を満たす合併は、インド準備銀行(Reserve Bank of India; RBI)から承認を受けたものとみなされることとなったことから、承認に要する時間の短縮につながり、より迅速に合併手続きを完了できるようになった。

(本リーガルアップデート2018年5月号に関連記事:

http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/column-se-asia/2018/india-5-3.html

(5)   商事裁判所法の改正

2018年5月3日、商事裁判所法(Commercial Courts, Commercial Division and Commercial Appellate Division of High Courts Act (Amendment) Ordinance, 2018)が改正された。従前は、商事裁判所で訴えの提起をするためには、最低1,000万インドルピー(約1,600万円)の訴額を必要としていたが、同改正により、最低訴額は30万インドルピー(約48万円)へと減額された。一方で、同改正では、商事裁判所での訴訟制度の濫用を防止するために、訴訟提起前に最低3か月間(当事者の同意により2か月間延長され得る。)の調停が義務付けられることとなった。

(本リーガルアップデート2018年6月号に関連記事:

http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/column-se-asia/2018/india-6-4.html

(6)   有期雇用制度の全産業への導入

2018年3月16日、2018年産業雇用(改正)規則(Industrial Employment (Standing Orders) Central (Amendment) Rules, 2018)が通知された。これまで有期雇用制度は、アパレル製造業のワークマン(いわゆるブルーカラーワーカーを指す。)についてのみ認められていたが、同規則により、全ての産業分野にわたって認められることとなった。有期雇用制度が全ての産業分野に拡大されたことで、期間を限定したプロジェクトに関する人材確保や生産の急な増減による人員調整等に対し、より効率的かつ柔軟に対応できるようになったといえよう。

(本リーガルアップデート2018年8 月号に関連記事:

http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/column-se-asia/2018/india-8-4.html

(7)   腐敗防止法の改正

2018年7月26日、2018年改正腐敗防止法(Prevention of Corruption (Amendment) Act, 2018)が成立した。インドにおける公務員等への贈賄行為に関する、贈賄側企業およびその幹部に対する責任が拡充された。同法に対応する社内規程の整備、従業員の教育を含む、コンプライアンス体制を充分に整えていく必要がある。

(本リーガルアップデート2018年9 月号に関連記事:

http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/column-se-asia/2018/india-9-4.html

(8)   特定救済法の改正

2018年8月1日、2018年改正特定救済法(Specific Relief (Amendment) Act, 2018)が成立した。同改正により、契約の不履行により被害を受けた当事者(以下「被害当事者」という。)は、契約を履行しなかった当事者(以下「不履行当事者」という。)に対して、法定の文言を記載した30日前の事前通知をすることにより、不履行当事者が履行しなかった債務の履行を第三者に行わせ、不履行当事者から要した費用を回収することができることとなった。他にも、裁判所は、被告による召喚状の受領日から起算して12か月以内に、事件を処理しなければならないとされるなど、契約の履行ないし執行の確実性および迅速性の向上を図る改正がなされた。

(本リーガルアップデート2018年10月号に関連記事:

http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/column-se-asia/2018/india-10-4.html

(9)   個人情報保護法案の公表

2018年7月27日、個人情報保護法案(Personal Data Protection Bill)がインド連邦議会に提出された。同法案では、個人情報等の取得ないし取扱いや、国外移転のための要件等が定められている。また、政府が別途指定する「重要個人情報」(critical personal data)については、インド国内のサーバーで保管しなければならないとされ、EUの一般データ保護規則(GDPR)よりも厳しい規制も定められている点に留意が必要である。同法案が成立すると、個人情報等を取り扱う企業や個人は、個人情報等を保護するための様々な措置を講じる必要に迫られることになる。

(本リーガルアップデート2018年11 月号に関連記事:

http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/column-se-asia/2018/india-11-3.html

2. 2019年の展望

2019年には、モディ首相の政権2期目をかけた下院選が予定されている。モディ首相率いるインド人民党(以下「BJP」という。)は、モディ首相の就任以来、「メーク・イン・インディア」、すなわち、国内外の企業からの投資を促進し、インドを世界の魅力的な製造ハブに発展させることで、インドの高い経済成長率と雇用創出を目指すために、簡易的で効率的な行政を実現することを目的とした政策をスローガンとして、外国企業の誘致に力を入れてきた。また、物品・サービス税(GST)導入など、中長期にインドの成長を促す改革を実現してきたことで一定の評価を受けている。

インドのGDP成長率は、年6~7%の好調を維持している一方で、農産物価格の値下がりなどにより、郊外の貧困層の生活はより厳しくなっている現状もある。BJPは、このような貧困層に対して農業資材の購入のための補助金を支給するなどの政策も行ってはいるが、その効果は未だに現れていないようである。その影響からか、2018年に各州で実施された州議会の選挙では、BJPを支持しない州も目立った。そのため、各州が大きな権限を有している税務や労働法分野について、連邦政府の影響力が及びにくい州も現れることが考えられる。

2019年の下院選に向けて、外国企業の誘致による国内産業の発展だけでなく、昨今浮き彫りになっている富裕層と貧困層の経済格差を埋める政策等にも重点を置かざるを得ない状況にあるといえる。下院選の状況次第では、これまでの外国企業の誘致政策の継続に影響を与える可能性がある。

以上

TMI総合法律事務所 インドデスク

平野正弥/白井紀充/宮村頼光/仲居宏太郎

info.indiapractice@tmi.gr.jp

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