「インド最新法令情報‐(2018年4月号) 2017年改正会社法の制定」

1.  はじめに

2018年1月3日、インド連邦議会両院を通過した2017年改正会社法(The Companies (Amendment) Act, 2017。以下「2017年法」という。)が、大統領の承認を得て制定された。改正された条項の施行は、段階的に行われることになる。

2017年法は、1956年会社法(The Companies Act, 1956。以下「1956年法」という。)を改正した、2013年会社法(The Companies Act, 2013。以下「2013年法」という。)に続く、インド会社法の大規模な改正となる。 2013年法は、情報開示、投資家保護、コーポレートガバナンスなどの分野で、1956年法に大きな変更を施した反面、法律内に複数の矛盾を含み、その整合的な導入が困難という批判を受けていた。現に2013年法は、その制定以来、100以上の小規模な改正が施されている。2017年法を制定した主な理由の一つは、このような導入の困難さを克服することにもある。

今回の改正は、基本的には、規制緩和を進めビジネスを行い易くすることが大きな目的とされているが、インドでビジネスを行う日系企業が新たに遵守を求められる条項も含まれている。本号では、主に日系企業に影響を与えうる改正のポイントを解説する。

2.  主な改正の内容

(1)   持株会社

2013年法における「持株会社」の定義には、インド国外で登記された法人は含まれておらず、「持株会社」の定義自体も不明確であると指摘されていた。これに対して、2017年法は、「持株会社」の定義の明確化を図り、インド国内の会社か外国会社であるかを問わず、インドに子会社を持っている会社は、「持株会社」になるとした。

したがって、子会社の従業員に対する持株会社の従業員持株(ESOP)の発行、持株会社に直接的又は間接的に非監査業務を提供する監査人および監査法人に対する規制、インド国内の会社が持株会社の取締役に金銭を貸与することの制限をはじめとする、持株会社についてのこれまでの規制は、2017年法の下では、外国会社にも適用されることになる。

(2)   子会社

2013年法に基づく子会社の基準は、持株会社による対象会社の発行済株式の過半数の保有であった。

一方、2017年法では、「株式数」ではなく、「議決権」の過半数の保有を基準とするとした。つまり、持株会社が当該会社の議決権の過半数を保有すれば、その会社は当該持株会社の子会社となる。

無議決権株式が存在することから、議決権割合は、必ずしも、ある株主が保有する株式数には比例しないことになる。議決権付きの株式を過半数以上保有しているにもかかわらず、2013年法下では、親会社とはみなされない会社が存在していた。今回の改正は、この点を修正するためのものである。

(3)   居住者取締役

2013年法では、全ての会社は、前暦年において、182日以上の期間に亘りインドに滞在した居住者取締役を、少なくとも1人置かなければならないとしている。

これに対して、2017年法では、前暦年ではなく当会計年度を対象期間とした。そのため、居住者取締役と認められるには、それまでのインド居住経験は必要とせず、当会計年度中に182日間以上インド滞在すれば足りることになる。この改正は、居住者取締役の要件の緩和を意図している。

(4)   独立取締役

2013年法では、独立取締役およびその親族は、会社との金銭的取引を行うことが禁止されていた。しかし、インド連邦議会においては、独立取締役とその親族間の金銭的取引が少額であれば、その取締役の独立性に影響を与えるとは考えにくいとの指摘があった。

これを受け、2017年法は、独立取締役が受領する金額が、総収入の10%の金額を超えないなど、独立性を損なうことがないと判断される場合には、金銭的取引をすることを認めた(独立取締役については、インド最新法令情報の2014年4月号を参照されたい)。

(5)   代理取締役

2013年法は、会社の取締役が3ヶ月間インドを離れる場合、会社の別の取締役を代理取締役に任命することを認めていた。

しかしながら、2017年法では、別の取締役を代理取締役として任命することが禁止された。この改正は、ある取締役とその取締役から任命される代理取締役との間の、潜在的な利益相反を回避するためのものである。

(6)   株主総会

2013年法は、定時株主総会は会社の登記された事務所又は同一市町村内の他の場所で開催されなければならず、臨時株主総会はインド国内で開催されなければならなかった。

2017年法は、事前に全株主が同意した場合には、非上場企業の定時株主総会をインド国内の任意の場所で開催することができるとした。また、2017年法は、外国企業の完全子会社が臨時株主総会をインド国外で開催することを認めた。

この改正により、株主総会の開催要件が緩和されているものの、依然として定時株主総会の方が臨時株主総会よりも開催要件が厳しい。その理由は、定時株主総会においては、決算報告書の承認、監査役の任命および配当の発表など、重要な議事が行われ、臨時株主総会よりも株主のより手厚い保護が必要となると考えられていることにある。

(7)   外国会社

インド法における外国会社とは、インド国内に事業所を持ち、インド国内で事業を営む(当該会社自体か代理人を通じてか、また、物理的にか電子的方法を用いてかは問わない。)、インド国外で設立された会社(company)又は法人(body corporate)のことをいう。

2013年法では、外国会社の払込資本の50%以上相当の株式が、インド国民又はインドで設立された会社又は法人によって保有されている場合、当該外国会社は届出、情報開示、その他のインド会社法の規制に従うことが義務付けられると定められていた。政府はこの時点で既に、全ての外国会社を規制のターゲットとすることを意図していたが、上記の文言のため、政府の意図は2013年法には反映されていなかったと言われている。

2017年法では、規制のターゲットを明確にし、全ての外国会社に対し、これらの届出、情報開示、その他の規制に従うことを義務付けた。

(8) 株式の割引価格での発行

2013年法では、株式の割引価格での発行は禁止されていた。

これに対して、2017年法では、破産・倒産法(Insolvency and Bankruptcy Code)に基づく会社の再建手続において、倒産した会社の債権者に対して、当該会社の株式を割引価格で発行することを認めた。再建手続下における割引価格での発行は、別途インド連邦準備銀行(RBI)の定める規則に従う必要があるものの、これにより、債権者に倒産した会社への資本を注入するインセンティブを与え、会社の再建がより円滑に行われることが期待される。

3.  コメント

2017年改正では、子会社の定義、株主総会招集通知など、会社法の基本的な部分の改正がみられた。また、外国会社の定義、インド国外の持株会社とインド子会社の関係など、地理的にはインド国外に存在する企業がインド法へのコンプライアンスを求められるようになる新たな規定も見受けられ、日系企業はこれに応じた対応が迫られる。居住者取締役、独立取締役、代理取締役の規定についても、これまでの基準と大きく異なる部分があり、日系企業からインド子会社に対し、日本人取締役を派遣する際には、改正後の関連規定を確認する必要があると思われる。

 以上

 

TMI総合法律事務所 インドデスク

平野正弥/白井紀充/奥村文彦/仲居宏太郎

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