「インド最新法令情報‐(2019年5月号) 印紙を欠く契約書における仲裁条項の効力」

1.     はじめに

インドでは、印紙(Stamp Duty)の果たす役割が大きく、インド印紙法(Indian Stamp Act, 1899)において印紙の貼付が必要とされる契約書に同法所定の印紙が貼付されていない場合、当該契約書は原則として裁判において証拠能力が認められない(同法35条)。

本号では、印紙を欠く契約書の一般条項として置かれていた仲裁条項の有効性が争われたインド最高裁の判決を紹介する。

2.     従来の判例および法改正

2011年の最高裁判決(SMS Teas Estates vs Chandmari Tea Co. 以下「SMS Teas Estates判決」)は、印紙が貼られていない又は貼られている印紙が不十分な契約書中に仲裁条項が存在する場合には、インド印紙法の規定により、仲裁人の選任に入る前に、裁判所が当該契約書を押収し、印紙税および罰金を納付させることが求められているとしていた。

一方、2015年改正仲裁調停法において新たに導入された以下の規定(第11条(6A))により、裁判所は仲裁人の選任等の判断においては、仲裁条項の「存在」以外は審査しないこととされるため、印紙を欠く契約書であっても、印紙の有無(仲裁条項の「存在」以外の事情)により同契約書の仲裁条項の有効性が左右されないのではないかとの疑義が生じていた。すなわち、仲裁条項の記載があれば、印紙を欠く場合であっても、仲裁条項だけでも存在するものとして有効に扱われると解釈する余地があった。

(6A) The Supreme Court or, as the case may be, the High Court, while considering any application under sub-section(4)or sub-section(5)or sub-section(6), shall, notwithstanding any judgment, decree or order of any Court, confine to the examination of the existence of an arbitration agreement.

(6A) 最高裁判所(場合によっては高等裁判所)は、(4)、(5)および(6)項の申請(注:仲裁人の選任等)を考慮する際には、いかなる裁判所の判決や命令にもかかわらず、仲裁条項の存在の審査に限定しなければならない。

3.     Garware Wall Ropes Ltd vs Coastal Marine Constructions & Engineering Ltd(以下「本判決」)

本判決では、2015年改正仲裁調停法で導入された第11条(6A)の適用の下で、従来のSMS Teas Estates判決が維持されるのかが問題となった。

(1)  原審までの流れ

原審であるボンベイ高等裁判所は、上訴人と被上訴人の間の下請契約に印紙が貼られていなかったにもかかわらず、被上訴人が仲裁人を選任するための2015年改正仲裁調停法第11条の適用を認めたため、その判決に対しての上訴が最高裁判所に提起された。

(2)  本判決の判断

本判決では、仲裁調停法第11条(4)項から第11条(6)項に定める仲裁人の選任等の申請が法廷でなされた場合において、当該仲裁条項の定めのある契約書に印紙が貼られていないときは、裁判所は、仲裁条項を含む契約が全体として有効に扱われる前に、インド印紙法の規定により最初に契約書を押収し、印紙税および罰金(もしあれば)が支払われたかを確認しなければならないと判示した。さらに、インド印紙法は契約全体に適用され、仲裁条項を一定の限定された目的に向けて独立した存在とするために分離することはできないと判示した。したがって、2015年改正仲裁調停法第11条(6A)は、いかなる方法においてもSMS Teas Estates判決を覆すことはなく、同判決の適用は維持されることが示された。

4.     コメント

冒頭で述べたとおり、インドでは、所定の印紙が貼られていない契約書は、原則として証拠能力が認められない。

さらに本判決によれば、2015年の仲裁調停法改正を経た後でも、契約書に印紙が適切に貼られていない場合には、契約書の中に含まれている仲裁条項すら存在しないものとして扱われる。場合によっては、仲裁人の選任という仲裁手続の初期段階において、相手方当事者より仲裁手続を遅らせるために異議を唱えられるリスクがあるといえる。

このように、インドでは、印紙の存在が大きな役割を果たすことから、契約書等を締結する際には、印紙の貼付の有無およびその金額の確認を怠らないよう、十分留意すべきである。

以上

TMI総合法律事務所 インドデスク

茂木信太郎白井紀充清水一平

info.indiapractice@tmi.gr.jp

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