「インド最新法令情報‐(2019年7月号) 2019年度予算案の概要」

1.はじめに

インド政府は、2019年7月5日、本年2月に公表された暫定予算案(以下「暫定予算案」という。)を修正し、5月末に発足した第2次モディ政権にとって初めてとなる2019年度(19年4月~20年3月)の正式な予算案(以下「本予算案」という。)を公表した。

(本リーガルアップデート2019年4月号および6月号に関連記事:

http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/india/2019/india-4-5.html

http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/country/2019/india-6-5.html

本号では、本予算案において示された基本方針を解説し、本予算案にて示された各種政策方針のうち、特に日系企業への影響が大きいと思われる政策方針を概説する。

2.本予算案の基本姿勢

モディ首相が所属する与党・インド人民党(BJP)は、複数の経済成長ビジョンを掲げ、インドのGDPを2025年までに5兆ドル、2032年までに10兆ドルに引き上げ、2030年までにインドを世界第3位の経済国にすると公約している。それに伴い、本予算案での歳出総額は、前年度に比べ、約13%増の約27兆9000億ルピー(約43兆円)となっている。特に、エネルギー、鉄道、高速道路等のインフラ分野には、2024年までに100兆ルピー(約160兆円)の投資を予定しており、また、公営銀行には、7000億ルピー(約1兆1200億円)を投じる計画となっている。また、本予算案の内容は、外国直接投資規制の緩和、労働法制の合理化、スタートアップ支援等、第1次モディ政権から一貫して取り組んでいる経済政策をさらに押し進める各種政策が盛り込まれている。ただし、公約を、モディ政権の任期満了までの5年間で実現するには、年8%以上の経済成長を継続する必要があることから、モディ首相の政治経済手腕がより一層問われることになる。

3.本予算案に示された政策方針の概要

(1)外国直接投資規制の緩和

ア 単一ブランド小売業

本予算案において、単一ブランド小売業における外国直接投資の現地調達基準の緩和が盛り込まれた。単一ブランドのみを取り扱う小売業に外国直接投資を行う場合、政府の事前承認は不要であり、自動承認による100%の出資が認められている。ただし、51%以上の出資が行われる場合に限り、販売する製品価値の30%をインド国内の企業から、現地調達することが義務付けられている。本予算案で提案されている現地調達の基準の緩和により、日系ブランドを含め、単一ブランド小売業に対する外資の進出がより一層活発化することが期待される。

他方、総合(複数ブランド)小売業については、政府の事前承認等の一定の要件のもと、51%までの出資を認めているが、この点についての言及はなかった。

イ 保険業

本予算案では、保険業における外国直接投資について、保険代理業等の保険仲介業に限定して100%の外国直接投資を認めるべきである、との提案がなされている。インド政府は、従前より、保険加入率が低いインドの保険業界への外資の参入を積極的に促しており、2015年には、保険業に対する外国直接投資の上限を26%から49%まで引き上げる規制緩和を行った。本予算案は、この方針をより一層明確にしたものであり、インド保険業界の活性化が期待される。さらに、本予算案では、保険仲介業以外の保険業においても外国直接投資の上限の拡大が検討されている。

ウ その他

本予算案では、詳細な言及はないものの、民間航空業やメディア(アニメ、コミック等)の分野においても、外国直接投資規制の緩和が提案されている。

(2)労働関連法の再編

インドでは、長年、硬直化した労働市場や柔軟性を欠いた多数の労働関連法を原因として、日系企業も含め、多数の労務紛争が発生していた。本予算案では、各法律間における標準化、手続きの簡素化および労務紛争の軽減を目指して、労働関連法を4つに再編し合理化することが提案されている。従前より、モディ政権は、中央政府所管の44の労働関連法を、賃金、労働安全衛生、社会保障、労使関係の4つに再編することを計画しており、本予算案は、この点をあらためて確認している。

(3)税務紛争における紛争解決制度の整備

本予算案において、2017年の物品・サービス税(GST)の導入前の物品税やサービス税に関する係属中の税務紛争を早期に解決することを目的とする紛争解決制度(Sabka Vishwas Legacy Dispute Resolution Scheme 2019)の創設が提案された。当該制度を利用すれば課税額に応じて40%から70%の納税義務が免除され、利息や遅延損害金も免除される。また、免責された者は、刑事訴追を受けることもない。本制度は、外国企業であっても、法令上利用資格がないとされる者でない限り利用可能な制度であり、多数の税務紛争を抱える現地日系企業にとって朗報といえるものである。今後の適切な運用が期待される。

(4)上場企業の最低公募株式比率の増加

本予算案において、インド政府は、インド証券取引委員会(SEBI)に対して、投資家保護等を目的として、上場企業の最低公募株式比率(minimum public shareholding)を、25%から35%に引き上げることを求めている。これにより、創業者等が65%超を保有する多くのインド企業は、上場廃止や公募株式比率の35%への引き上げ等の対応を迫られることになる。なお、現在のところ、既存の上場企業も含めて適用されるのか、今後上場する企業に限定して適用されるのかについては、明らかではない。

4.コメント

暫定予算案がインド国内の選挙権者の多数を占める農村居住者や低所得者に手厚い内容になっていたのに比べ、本予算案は、外国直接投資や労働関連法の再編等、日系企業のインドビジネスに直接影響を与える政策が数多く掲げられている。特に、外国直接投資規制の緩和は、今後も各産業分野で緩和することが予想され、新たな業態でのインド進出が加速することが期待される。日系企業としては、本予算案の内容を十分に吟味した上で、今後5年間のインドビジネスの展開を検証することがのぞまれる。

以 上

TMI総合法律事務所 インドデスク

茂木信太郎/小川聡/生駒大典/太郎田耀

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