「インド最新法令情報‐(2017年1月号) ジョイント・ベンチャー設立と企業結合規制」

1. はじめに

インド競争委員会(Competition Commission of India, CCI。以下「競争委員会」という。)は、2016年11月、資産の移転を伴う一定のジョイント・ベンチャー(以下「JV」という。)を設立する場合において、2002年インド競争法(Competition Act, 2002。以下「競争法」という。)上の企業結合規制が適用される旨の見解(以下「本見解」という。)を表明した。

後述のとおり、本見解はそれ以前の実務上の一般的な運用と異なるものであり、インドにおいてJVの設立を検討している外国企業に一定の影響を与えることが予想される。本号では、インドにおける企業結合規制を概説したうえで、本見解が外国企業に対して与えうる影響を検討する。

2. インドにおける企業結合規制の概要

(1)       届出義務の基準額

競争法は、企業結合取引の当事者又はそのグループ会社の資産又は売上げが基準額を超える場合に、競争委員会に対する事前届出を義務づけている。かかる基準額は、2016年3月4日付インド企業省告示(以下「本告示」という。)によって、以下のとおり定められている。

インド国内(単位:インドルピー)

全世界(単位:米ドル)

資産

売上げ

資産

売上げ

当事者基準

200億

600億

10億(※1)

30億(※2)

グループ基準

800億

2,400億

40億(※1)

120億(※2)

※1:かつ、インド国内で100億インドルピー以上

※2:かつ、インド国内で300億インドルピー以上

また、本告示は、以下の要件①および②を満たす小規模な企業結合については、2016年3月4日から5年間、企業結合規制に関する届出義務を免除している。なお、要件①は、合併を含まない点に注意を要する。

①     支配権、株式、議決権又は資産の譲渡による企業結合であること

②     対象会社(支配権、株式、議決権又は資産を取得される会社をいう。以下同じ。)のインド国内における資産が35億インドルピー以下であるか、又は対象会社のインド国内における売上げが100億インドルピー以下であること

(2)       届出手続の概要

届出を要する場合、合併に係る当事者の取締役会における承認決議の日、又は買収若しくは支配権の獲得を合意した日から30日以内に届出を行う必要がある。

競争委員会は、届出を受領してから30日以内に、インドの関連市場における競争に対して相当の悪影響が及ぶおそれがあるか否かについて暫定的判断を行う(フェーズⅠ)。競争委員会が、そのようなおそれがあると判断した場合、詳細な調査が行われる(フェーズⅡ)。

企業結合の当事者は、フェーズⅠのためにフォームⅠ(略式の書式)を提出し、またフェーズⅡに移行した場合は、フォームⅡ(詳細な書式)を提出する必要がある。

企業結合の当事者は、競争委員会が最終決定を下した時、又は届出がなされた日から210日経過した時のいずれか早い方まで、企業結合取引を完了できない。

(3)       本見解の内容

本見解は、資産の移転を伴うJV設立を、JVを通じた資産の取得と捉えるものである。例えば、A社とB社が、C社というJVを設立する場合において、B社からC社に資産を移転するときは、A社は、(C社を通じて)B社の資産を取得するものと評価されることになる。そのため、B社およびC社の資産額又は売上額が上記(1)の基準を満たし、かつ、上記(1)の届出免除要件を満たさない場合、A社およびB社は、C社の設立を合意した日から30日以内に、上記(2)のとおり競争委員会への届出を行う必要がある、とされる。

3. 本見解の影響

競争法は、企業結合規制がJV設立に適用されるか否か明記しておらず、この点は以前から議論されていた。実務上の一般的な運用は、JV設立によって、株主からJVに対して、工場など「収益を生み出す」資産が移転される場合に限り、企業結合規制における届出を行うというものであった。

本見解は、資産の移転を伴うJV設立に関して、収益を生み出す資産とそうでない資産を区別することなく、JV設立は企業結合規制の対象となりうる、というものである。そのため、従前の実務上の運用では届出義務に違反するおそれがあり、かかる運用を見直す必要がある。

4. コメント

外国企業にとって、JV設立は、パートナーが有するノウハウやコネクションを活用できることから、インドに進出する際の有効な選択肢の1つといえる。しかし、従前は競争法における企業結合規制がJV設立に適用されるか否かが不明確だったことが、無視できない法的リスクとなっていた。本見解の表明は、かかる法的リスクについて規制当局の考え方を示すものであり、インドにおいてJVの設立を検討している外国企業にとって参考となる。

 以上

TMI総合法律事務所 インドデスク

平野正弥/白井紀充/奥村文彦

info.indiapractice@tmi.gr.jp

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