「インド最新法令情報‐(2017年10月号) 民間企業に要求される職場での障害者への対応-2016年障害者法」

1. はじめに

インド連邦議会は、2016年12月16日、1995年障害者法(the Persons with Disabilities Act, 1995、以下「旧法」という)に取って代わる2016年障害者法(the Rights of Persons with Disabilities Act, 2016、以下「新法」という。)を制定し、2017年4月19日、同法を施行した。また。同法を補完する2017年障害者規則(the Rights of Persons with Disability Rules, 2017)が、2017年6月15日に通知された。旧法は、主に政府機関の義務を中心に定めていたが、新法は、民間企業をはじめとする民間セクターに対しても、障害者と健常者の機会均等を達成するための方針策定義務や、障害を持つ被雇用者に関する記録の保管義務等、一定の義務を課している。それゆえ、インドでビジネスを行う多くの日系企業も、新法の対象となると考えられる。

新法は、障害者の権利に関する条約[*1]に則して起草され、障害者に優しい職場環境を奨励することを目的とし、障害者に対する差別的取扱いを、当該取扱いが正当な目的を達成するための相当な手段と認められない限り、違法な差別として禁止している。新法は、日本の障害者雇用促進法に基づく障害者雇用率制度のように、従業員が一定数以上の規模の企業に対し障害者の雇用を義務付けるものではないものの、以下のとおり、その適用対象が広範であり、罰則も設けていることから、その内容を十分に把握しておくことが重要である。

2. 民間企業が対応すべきこと

新法により、民間企業に課された義務には、以下のものが含まれる。

(a)       企業は、障害者と健常者の機会均等を達成するための方針を策定する必要がある。かかる方針においては、障害者が効率的に作業できるようにするための労働環境に関する事項の方針を策定する必要がある。さらに、20名以上の従業員を雇用する場合には、障害者に適する職務、かかる職務に就く障害者の雇用プロセス、かかる障害者に対する訓練、異動と配属についての希望、特別休暇、障害者のための補助装置およびバリアフリーを確保する手段についての方針も定めなければならない。

(b)       20名以上の従業員を雇用する場合には、障害者の雇用の監督者を任命し、必要な設備を整えなければならない。当該監督者についての詳細も方針に記載されていなければならない。

(c)       雇用されている障害者の数、入社日、氏名、性別、住所、障害の性質、職務の性質および障害者のための設備についての詳細な記録を保持する必要がある。

(d)       物理的な環境、移動および情報・コミュニケーションテクノロジーの利用を容易にするための規程を作成し、これを遵守する必要がある。これには、車椅子利用者のためのエレベーターや傾斜路を確保すること、通路に一定の幅を持たせること、ウェブサイト上の書類で、光学式文字読取り装置(OCR)を用いること等が含まれる。また、入居する建物が、障害者の利用し易さに関する政府の基準を満たない場合は、建物使用許可証が得られないとされている点にも留意する必要がある。

これらの義務の違反に対しては、1回目の違反では1万ルピー以下の罰金、2回目以降は50万ルピー以下の罰金が科せられる。

また、上記(c)に関しては、個人情報の扱い方にも注意を要する。現時点において、障害者の障害の性質に関する情報の収集を行っている民間企業は多くないと思われるところ、新法では、そのような情報に関しても収集する必要がある。そして、収集されることとなる障害の性質のデータは 、2011年IT規則(Information Technology (Reasonable security practices and procedures and sensitive personal data or information) Rules, 2011)が規定する「センシティブ個人情報」(sensitive personal data or information)に該当すると考えられる。それゆえ、かかるデータを収集する前に、データ保存の期間、データにアクセスできる人物およびデータ収集の目的を周知させ、該当する個人から同意を取る等、IT規則の定めにしたがった情報の取扱いが求められることとなる点に留意が必要である。

3. コメント

上記(a)から(d)の義務は、(c)を除いて、現に障害者を雇用しているか否かを問わず、履行する必要がある。そのため、障害者を雇用していない民間企業が、新法の適用を受けないと誤解して何らの対応も取らなかった場合、新法違反により罰金を科される可能性がある点に注意を要する。

なお、現時点では、新法の民間企業に関する部分を規制する管轄当局が明らかではない。そのため、例えば、障害者と健常者の機会均等を達成するための方針の提出先は管轄当局が決めることになっているところ、具体的な提出先は、今のところ不明である。

また、新法は、民間企業に対して、障害者と健常者の機会均等を達成するための方針のなかで、障害者に提供される設備、特別休暇、補助器具等を記載することを求めているが、かかる個々の記載項目についての具体的な内容についてまでは、新法では言及されていない。

そのため、今後公表されるであろうこれらの点に関する規則や通達等を、引き続きフォローする必要がある。

 以上



[*1] 外務省ホームページ

http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/jinken/index_shogaisha.html

 

TMI総合法律事務所 インドデスク

平野正弥/白井紀充/奥村文彦/仲居宏太郎

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