「インド最新法令情報‐(2017年11月号) インド最高裁、2016年破産・倒産法は州法に優越すると判断」

1.  はじめに

インド最高裁判所(以下「最高裁」という。)は、2017年8月31日、債務者であるInnoventive Industries Ltd.(以下「Innoventive社」という。)と債権者であるICICI 銀行の訴訟(以下「本訴訟」という。)が、2016年12月1日に施行された2016年破産・倒産法(the Insolvency and Bankruptcy Code, 2016。以下「IBC法」という。)の適用を巡って争った訴訟において、連邦法であるIBC法と州法との間で生じる不一致に関する重要な判断を示した。IBC法の制定以前は、倒産処理に関連する複数の異なる連邦法および州法が乱立し、迅速かつ公平な倒産処理はおよそ不可能といっても過言ではない状況であった。IBC法はそのような状況を打破するために制定された法律である。IBC法は、インドでビジネスを行う日系企業にとっても、取引先の倒産や債権回収等においてインパクトのある法律であり、特に、今回のケースでは数多くの外資系企業を抱えるムンバイが位置するマハラシュトラ州の法律との間で問題となったものであり、注目すべき判決である。

(※IBC法の概要は、インド最新法令情報‐(2016年6月号)を参照されたい(http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/column-se-asia/2016/india-6-2.html))。

2. 本紛争の経緯

債権者であるICICI銀行は、Innoventive社の倒産手続開始を、会社法審判所(National Company Law Tribunal, NCLT)ムンバイ支部に申し立てた。当時、Innoventive社は債務不履行に陥っており、IBC法が定める倒産手続開始の要件を満たすのは明らかな状況であった。

これに対し、Innoventive社は、1958年マハラシュトラ州救済法(特別条項法)(the Maharashtra Relief Undertaking (Special Provisions Act), 1958。以下「マハラシュトラ州救済法」という。)に基づく通達により、Innoventive社の全負債およびそれに基づく執行は2年間停止されているため、Innoventive社は債務不履行に陥っていないと反論した。

会社法審判所ムンバイ支部は、2017年1月17日、IBC法第238条に定められた同法の優越性を根拠に、IBC法はマハラシュトラ州救済法に優越するという審判を下した。その結果、Innoventive社は債務不履行に陥っていたことになり、ICICI銀行の会社法審判所に対する申立てが認容され、IBC法下での手続であるモラトリアム(包括的支払回収停止)が宣告された。

かかる審判に対して、Innoventive社は会社法上訴審判所(National Company Law Appellate Tribunal, NCLAT)に上訴したが同様の審判となり、Innoventive社はさらに最高裁に上告した。

3.  本紛争での論点

①       上訴は、Innoventive社の前経営者らによって提起されたが、これはInnoventive社に管財人が任命された後であったため、この上訴は可能か。

②       連邦法であるIBC法第238条に定められている同法の優越性は、マハラシュトラ州救済法第4条に定められてあるマハラシュトラ州救済法の優越性に優越するか。

(1)       本判決の概要

最高裁は、管財人が任命された場合、前経営者らは経営権を喪失し、その会社を代表して訴訟提起することができなくなることから、Innoventive社による上訴は不適法である(上記論点①に関する判断)としたうえで、概要以下のとおり判決(以下「本判決」という。)を下した。

(2)       IBC法の解釈

「債務不履行」は、IBC法第3条第12項で広く定義されており、最高裁は、これについて期限が到来して返済義務が発生した負債の未払いを意味し、負債の一部又は掛金の未払いも含むとした。また、何らかの法令に基づき支払義務が停止された負債又は将来支払義務が発生する負債など支払満期が到来していない負債を除き、争いの対象となっているか否かを問わず、支払義務のある負債の未払いである限り、債務不履行に該当するとした。

(※なお、IBC法には日本の破産法や民事再生法と異なり、支払不能や債務超過といった要件は設けられていない。)

また、IBC法第7条第1項の注釈において、債務不履行は、いかなる債権者に対する負債に関するものであり、申立債権者に対する負債に限らないと加えた。

(3)       IBC法の優越性(連邦法と州法の関係)

最高裁は、以下の何れかに該当する場合には、連邦法が州法に優越するとの原則を示した。

①       連邦法と州法の間の不一致が、明白かつ直接的であり、一方の法令に違反せずに他方の法令に従うことが不可能となる状況である場合。これは当該連邦法と州法が同一の事実に適用された際、異なる法的効果が生じる場合を意味する。

②       連邦法と州法に直接的な対立関係が無い場合でも、連邦法が完全で網羅的であり、かつ州法に対して排他的な法律であることを連邦法が意図している場合。

③       州法又はその一部と連邦法又はその一部の規制対象が同一であり、両者が両立しえない場合。

(4)       結論

マハラシュトラ州救済法の第4条には「一時的な猶予期間後、州政府は救済事業の経営を引き継ぐことができる」との規定があり、IBC法第13条および14条にも同様の内容が定められている。とすれば、マハラシュトラ州救済法の効力がある限り、IBC法は支障および妨害を受けることになり、IBC法に基づいた破産手続を行うのが不可能となり得る。したがって、最高裁は、IBC法とマハラシュトラ州救済法の関係は上記③に該当するものとして、IBC法がマハラシュトラ州救済法に優越すると判断した。

また、手続上も、憲法第254条1項に基づき、連邦法に矛盾する州法は、直接無効とすることができるとした。

以上のとおり、最高裁は、会社法審判所および会社法上訴審判所が債権者であるICICI銀行による申立てを認容したことは適切であったという判断を示した。

4.  コメント

本判決は、IBC法が、矛盾する州法により効力が妨げられることなく、実効性を有する法規範であることを示した画期的なものといえる。本判決によって、IBC法が他の州法と矛盾する場合には、IBC法が他の州法に優越することとなり、IBC法が意図されたとおりに施行されることとなる。したがって、本判決は、今後のインドの倒産処理において大きな拠りどころとなるといえる。

 以上

TMI総合法律事務所 インドデスク

平野正弥/白井紀充/奥村文彦/仲居宏太郎

info.indiapractice@tmi.gr.jp

ページの先頭へ