「インド最新法令情報‐(2017年2月号) 2017年度予算案に示された政策方針」

1. はじめに

インド政府は、2017年2月1日、2017年度予算案(以下「本予算案」という。)を発表した。本予算案は、2017年1月31日から4月上旬まで開催される予定の予算国会に提出され、各種関連法案とともに審議されることとなる。

インドにおける予算案の特徴としては、予算案において当該年度の政策方針が示され、これを受けて、インド政府が各種の具体的政策を実行する点が挙げられる。そのため、インド政府の予算案は、毎年、経済専門家のみならず、インド国民全体からも大きく注目される。

本号では、本予算案におけるインド政府の基本姿勢を解説し、本予算案にて示された各種政策方針のうち、特に日系企業への影響が大きいと思われる点を指摘する。

 

2. 本予算案におけるインド政府の基本姿勢

本予算案は、デジタルエコノミーの推進、鉄道および道路などインフラの整備など、ビジネス環境のさらなる改善を目指している。また、財政赤字の対GDP比については、2016年度に従前の3.9%から3.5%に縮小し、2017年度は3.2%まで縮小することが見込まれており、財政規律とのバランスを考慮した持続的成長路線を堅持した内容といえる。

その一方で、農村向け歳出を前年度比で24%増やすとともに、年収25万から50万インドルピーの所得層の所得税率を10%から5%に引き下げ、25万インドルピー以下の所得層は所得税を免除するなど、人口の大半を占める農家、低所得層を重視する政策も打ち出している。

 

3. 本予算案に示された政策方針の概要

(1)       デジタルエコノミーの推進

インド政府は、2016年11月に脱税、偽札対策などを目的に高額紙幣を廃止したことを1つの契機として、現金依存経済からデジタル経済、キャッシュレス経済に移行しつつある。このような事情を背景に、本予算案は、2017年から2018年にかけて、電子決済取引総額250億インドルピーという目標を設定し、主に以下の政策を掲げている。

- 一定金額までの政府に対する支払の電子決済化

- インドの中央銀行であるインド準備銀行(Reserve Bank of India)内における、現行の支払決済システム監督規制委員会(Board for Regulation and Supervision of Payment and Settlement Systems)に代わる支払規制委員会(Payments Regulatory Board)の設立

- 一部例外を除き、1人の者から1日当たり、又は1取引当たり(分割払い等は総額で)現金で受領できる金額の上限を30万インドルピーに制限

(2)       インフラの整備

インドは、長年、経済成長を目指すうえで、貧弱な輸送網、停電問題などのインフラ面に悩まされてきた。このような事情を背景に、本予算案は、鉄道、空港および道路の開発に過去最高の約4兆インドルピーを投入する計画を立て、主に以下の事業を予定している。

- 沿岸地域における2000キロメートルの接続道路の開発

- 中規模都市の空港の官民パートナーシップ(PPP)による運営およびメンテナンスの実施

- 2万メガワット規模のソーラー発電所建設事業の第2期工事の実施

- 1996年仲裁調停法(Arbitration and Conciliation Act, 1996)の改正による、インフラ事業における建設契約、PPP、電気・ガス・水道等のユーティリティ契約に関する紛争解決制度の導入

 

(3)       直接税の改革

インドは、間接税に関してはGoods and Services Tax(GST)の導入を目指しているが、直接税に関しても概要以下のとおり改革を進める。

- 前年度売上高が5億インドルピー以下の内国法人に適用される法人所得税の基本税率を30%から25%に引下げ

- 2016年4月1日から2019年3月31日までに設立され、科学技術や知的財産を用いた新規開発など所定の事業を開始した内国法人に対する3事業年度の免税期間の導入(最低代替税を除く)

 

(4)       その他

その他に、本予算案が示している政策方針のうち、特に日系企業への影響が大きいと思われる事項として、以下のものがある。

- 外国投資促進委員会(Foreign Investment Promotion Board, FIPB)の廃止および外国直接投資(FDI)のさらなる自由化

- GSTの導入に向けた周知徹底およびITシステムの整備

 

4. コメント

外国企業にとって、インド政府が今後も経済重視路線を維持するか否かという点は、重大な関心事といえる。この点、本予算案には、デジタルエコノミー推進、インフラ整備などビジネス環境の改善を目的とした政策が多数盛り込まれており、経済重視という従前のモディ政権の基本方針を維持する内容となっている。その点では、本予算案は、インドにおいて事業を行う外国企業にとって好ましいものといえる。

ただし、現在、連邦議会上院においては、政権党であるインド人民党が過半数を占めていないため、上記政策方針の実現が難航する可能性は否定できない。また、2019年に連邦議会下院総選挙を控えているため、人口の大半を占める農家および低所得層を対象とした選挙対策として、経済改革に一定の歯止めをかける可能性は否定できない。そのため、本予算案に示された各種政策の行方には、今後も注目する必要がある。

 以上

TMI総合法律事務所 インドデスク

平野正弥/白井紀充/奥村文彦

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