「インド最新法令情報‐(2018年10月号) 特定救済法の改正」

1.はじめに

2018年8月1日、2018年改正特定救済法(Specific Relief (Amendment) Act, 2018)(以下「改正法」という。)が大統領の承認を経て成立した(施行日は今後中央政府により通知される予定である。)。改正法は、差止命令を含む、契約の履行についての救済を定めた1963年特定救済法(Specific Relief Act, 1963)(以下「旧法」という。)を改正したものである。

インドにおける原則的な契約違反に対する救済方法は金銭的賠償であるが、一定の場合に、特定履行(specific performance)の請求をすることができる場合がある。特定履行とは、「ある行為の実施」を請求する権利のことであり、例えば、日本の不正競争防止法3条の差止請求権は、特定履行を求める権利の一種である。旧法下では、特定履行は、一定の類型についてのみ認められ、かつ、裁判所の裁量により事案ごとに判断が下されていた。しかし、改正法の下では、裁判所の裁量は最小限に狭められ、契約の履行に関する予測可能性が飛躍的に高まった。

本稿では、改正法のうち、インドでビジネスを行う日系企業の活動に関連の深い事項について解説していく。

2.改正のポイント

(1) 代替履行

改正法の下では、契約の不履行により被害を受けた当事者(以下「被害当事者」という。)は、契約を履行しなかった当事者(以下「不履行当事者」という。)に対して、法定の文言を記載した30日前の事前通知をすることにより、不履行当事者が履行しなかった債務の履行を第三者に行わせ、不履行当事者から要した費用を回収することができる(以下「代替履行」という。)。なお、この場合でも、被害当事者が不履行当事者に対して、損害賠償の請求をすることは妨げられない。

(2) 一定のインフラ事業に対する差止命令の禁止

改正法は、対象となる契約が、輸送・エネルギー・水道・衛生・通信・その他の社会的および商業的インフラ事業(以下「インフラ事業等」という。)に関するものであり、裁判所による差止命令がインフラ事業等の進行を妨げ、又は遅らせる場合には、裁判所は差止命令を出すことができないとしている。かかる改正の目的は、特に公的かつ大規模なインフラ事業に関する契約において、裁判所のインフラ事業への介入を減らすことにより、インフラ事業の進捗を妨げるのを避ける点にある。

(3) 事件処理期間の制限

裁判所は、被告による召喚状の受領日から起算して12ヶ月以内に、事件を処理しなければならないとされた。この事件処理期間は、更に最大6ヶ月まで延長することができる。

(4) 特定履行の請求が認められない契約および当事者の類型

改正法の下では、(i) 被害当事者が既に代替履行を受けた場合、(ii) 裁判所が監督できない継続的な債務の履行を含む契約、(iii) 不履行当事者の個人的資質に大きく依存する契約であって、裁判所が当該契約の重要部分につき特定履行を強制することができない契約、および (iv) 確定可能な(determinable)契約(ある出来事の発生により当然に終了する契約又は当事者の一方的な意思表示により終了させることのできる契約)については、特定履行の請求は認められないとされている。また、契約上の債務の重要部分に違反した者や、自らの契約上の債務の履行をしていない者等からの、特定履行の請求は認められない。

3.コメント

インドは、世界銀行が公表しているビジネス環境ランキングにおける、「契約の執行」で、これまで極めて低い順位に甘んじてきた。改正法により、特に上記代替履行制度や裁判所による事件処理期間の制限等が設けられたことで、契約の履行ないし執行の確実性および迅速性の向上が期待される。なお、インドでビジネスを行う企業は、改正法のメリットを十分に享受するため、各契約における典型条項を見直し、改正法に即した内容への変更が必要となる場合がある点には留意を要する。

   以上

TMI総合法律事務所 インドデスク

平野正弥/白井紀充/宮村頼光/仲居宏太郎

info.indiapractice@tmi.gr.jp

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