「インド最新法令情報‐(2018年3月号) 2018年度予算案に示された政策方針」

1. はじめに

インド政府は2018年2月1日、2018年度(2018年4月~2019年3月)の予算案(以下「本予算案」という。)を発表した。本予算案は、2018年1月29日から4月上旬まで開催される予定の予算国会に提出され、目下審議中である。本予算案での歳出額は前年度の見通しに比べ、10%増の24.4兆ルピーとなっている。

本号では、本予算案におけるインド政府の基本姿勢を解説し、本予算案にて示された各種政策方針のうち、特に日系企業への影響が大きいと思われる点を指摘する。

2. 本予算案におけるインド政府の基本姿勢

本予算案の基本姿勢としては、農業・地方経済を重視している点が挙げられる。その背景には、2019年前半に予定される連邦議会下院総選挙に向けた選挙対策という事情がある。その一方で、鉄道の拡充を含むインフラの整備やデジタルエコノミーの推進にも予算がつぎ込まれている。

また、2017年度の財政赤字の予想は対GDP比で3.5%と、当初予算の3.2%から拡大する見込みとなった。これに対して、2018年度の財政赤字のGDP比は3.3%に縮小すると見積もられており、財政健全化の方向性を堅持したものとなっている。

3. 本予算案に示された政策方針の概要

(1) インフラの整備

予算演説において、アルン・ジャイトリー(Arun Jaitley)財務大臣は、インフラ整備が経済の成長の原動力であることを強調している。国内の道路、空港、鉄道、港湾、内陸水路のネットワークを強化し、GDPの成長を促進させるためには、合計50兆ルピーを超える投資が必要であると見積もっていることを明らかにした。これを受け、2018年度のインフラ整備に対する予算は、2017年度の4.94兆ルピーから、5.97兆ルピーに引き上げると発表した。

(2) 鉄道網の拡充

インフラ整備の中でも、鉄道網の拡充および鉄道設備の改善に対しては特に力を入れている。具体的には、2018年度の鉄道設備予算には、1.4兆ルピーが割り当てられている。

全国的な施策としては、現在ディーゼル車両などを運行している路線のうち、4,000キロメートルを電化し、試運転を行う予定である。また、貨物専用鉄道建設計画(Dedicated Fright Corridors, DFC)を本格的な実行段階に移し、車両や機関車など、計画に必要な設備を調達する予定である。加えて、2018年度には、3,600キロメートル以上の鉄道網が一新される予定である。また、 主要路線の600駅の再開発が着手された。これらの施策により、インドの経済成長の足かせとなっている、貨物鉄道と旅客鉄道の双方における深刻な輸送力のひっ迫が緩和されることが期待される。

都市部における施策としては、ムンバイにて、1,100億ルピー以上の費用を投じ、90キロメートルに及ぶ複線化事業を行う予定である。 また、ムンバイ郊外にて、4,000億ルピー以上の費用を投じ、150キロメートルに及ぶ路線延長を行う計画を立てている。さらに、ベンガルール(旧名:バンガロール)郊外にて、1,700億ルピーの費用を投じ、160キロメートルに及ぶ路線の延長を行う計画を立てている。これらの施策により、経済成長の原動力となる都市部の更なる開発が進むことが期待される。

(3) デジタルエコノミーの推進

政府は、5,000万人の農村居住者に対してネット接続を提供する目的で、農村地域のブロードバンドアクセスをさらに促進する予定である。これに関連して、50万機のWi-Fiホットスポットを農村地域に設置することを提案している。また、テレコミュニケーション・インフラの拡張のために1,000億ルピーの予算を割り当てている。

(4)  税制の改正

(ア) 法人所得税

売上規模が5億ルピー~25億ルピー未満のインド内国企業に課される法人所得税の税率が、これまでの30%から25%に引き下げられる。

(イ) オンラインビジネスへの課税

政府は、オンラインビジネスの拡大に関連して、所得税法の改正も視野に入れている。改正が実現すれば、インド国内でのデータのダウンロードや一定数以上のインド国内ユーザーへのサービスの提供を業とする企業に対して、インド国内に物理的な所在がなくても、課税することが可能となる。その結果、グーグルやフェイスブックなどの大企業だけでなく、インドで事業を営む、より小規模なテクノロジー関連企業やインターネット関連企業も課税されることになる。詳細について、政府は利害関係者らと協議を進める方針である。

4. コメント

本予算案は、2019年に行われる下院総選挙を背景として、選挙権者の多数を占める農村居住者や低所得者のための政策が中心となっている。しかし、インフラ整備の予算は昨年よりも増額されており、インド政府は、依然としてビジネス環境にプラス影響をもたらす経済重視の姿勢は崩していない。また、予算国会において、本予算案に大幅な修正が施される可能性は低いとみられている。

インドはモディ政権誕生以来、経済重視路線の下、GDP成長率7%超の高成長を遂げている。今後も経済重視の予算が組まれ、高成長が持続するか否かの一つの要因は、現政権を担っているインド人民党(Bharatiya Janata Party, BJP)が改革を達成し続けられるかどうかという点である。今年中に州レベルでの重要な選挙が複数あるが、そこでの結果は、今後の改革のスピードに影響を与えるものとみられ、2019年の下院総選挙の結果を予測するうえでも一つの重要な指標となるだろう。

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TMI総合法律事務所 インドデスク

平野正弥/白井紀充/奥村文彦/仲居宏太郎

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