「インド最新法令情報‐(2018年6月号) 商事裁判所法の改正」

1.  はじめに

2018年5月3日、インド連邦政府は、商事裁判所・高等裁判所商事部門および商事控訴部門法改正政令(Commercial Courts, Commercial Division and Commercial Appellate Division of High Courts Act (Amendment) Ordinance, 2018)(以下、「2018年改正」という。)を布告した。2018年改正は、2015年商事裁判所・高等裁判所商事部門および商事控訴部門法(Commercial Courts, Commercial Division and Commercial Appellate Division of High Courts Act, 2015)(以下「2015年商事裁判所法」という。)の重要部分を改正するものである。

インドでは、訴訟の長期化が問題視されてきたところ、2015年商事裁判所法は、比較的大規模な商事紛争に関して、訴訟プロセスの迅速化を図り、インドにおけるビジネス遂行を円滑にすることを目的として制定された。2018年改正は、かかる訴訟プロセスのさらなる改善を目的とするものである。

2.  改正の主なポイント

2018年改正において、注目すべき点として、最低訴額の変更、商事裁判所の増設等および調停前置の義務化が挙げられる。

(a) 最低訴額の変更

2015年商事裁判所法は、商事裁判所で訴えの提起をするためには、最低1,000万インドルピー(約1,600万円)の訴額を必要としていたが、2018年改正において、最低訴額は30万インドルピー(約48万円)へと減額されることとなった。

(b) 商事裁判所の増設等

最低訴額が大幅に引き下げられたことにより、商事裁判所が取り扱う訴訟件数の急増が想定される。その対応策の一つとして、2018年改正は、商事裁判所の増設および商事控訴裁判所の新設を予定している。もっとも、実際の設置は州政府の判断に委ねられており、必要となる裁判官の増員や財源の確保はこれからという状況である。

(c) 調停前置の義務化

2018年改正は、訴訟提起前に最低3か月間(当事者の同意により2か月間延長され得る。)の調停が義務付けられることとなった。つまり、商事裁判所に訴訟提起するには、紛争の相手方との間で最低3か月間の調停を経ることが条件となった。

かかる調停は、全国・地域法律サービス庁(National and District Legal Services Authority)をはじめとする、1987年法律サービス庁法(Legal Services Authorities Act, 1987)で定められた機関によって行われなければならないとされている。また、調停で和解に至った場合のその和解の効力は、1996年仲裁調停法(Arbitration and Conciliation Act, 1996)における仲裁判断の効力と同等のものとみなされ、当事者に対して法的拘束力を持つものとされる。

なお、このルールの唯一の例外として、暫定的差止救済を求める場合には、調停前置の義務は課されない。

3.  コメント

インドでは長年、裁判の長期化により紛争解決が円滑になされないことが問題となり、インドで事業を営む日系企業を悩ませてきた。2018年改正が訴訟の迅速化等に資することになるか否かは、今後予定されている商事裁判所の増設等や同裁判所で商事事件を扱う能力のある裁判官の増員が実現するかに大きく依存しているが、これらを実現するための具体的財政案は未だ連邦政府より発表されていない。また、訴訟前の調停を回避するために当事者の一方があえて暫定的差止救済を求めるといった制度の濫用も懸念されるところであり、訴訟前調停の濫用を防止するための対策も必要であるといえる。今後の動向に注目したい。

以上

TMI総合法律事務所 インドデスク

平野正弥/白井紀充/宮村頼光/仲居宏太郎

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