「インド最新法令情報‐(2019年6月号) 2019年総選挙の結果」

1.はじめに

2019年4月11日に投票が開始されたインドの下院選(545議席)は、同月19日に全投票日程が終了し、同年5月23日に開票が行われた。モディ氏が所属する与党・インド人民党(BJP)は303議席を、BJPが率いる与党連合(NDA)では353議席を獲得し、282議席を得た2014年の前回選挙に続き、単独過半数の勝利を収め、モディ政権は2期目に入った。

モディ政権は、1期目で、脱税や偽札への対策を目的とした高額紙幣の刷新や、物品サービス税(GST)の導入などの経済政策を推し進め、世界銀行のビジネス環境ランキングを142位から77位に引き上げた(2019年度ランキング、日本は39位である。)。2019年版のマニフェストにおいて、BJPは「2030年までに世界第3位の経済国になる」をスローガンに、様々な経済ビジョンを掲げている。

本号では、2019年総選挙の結果および第2次モディ政権における主要な経済・労働政策について解説する。

2.2019年総選挙の結果

モディ政権は、14年の前回選挙では、BJP単独で282議席、NDAで336議席を獲得し、10年振りの政権交代を果たしたが、今回は前回をさらに上回る議席を獲得した。モディ政権の圧勝には、第1次モディ政権が維持してきた高い経済成長率、野党の弱体化、人口の8割を占めるヒンドゥー教徒に訴える政策等複数の要因が存在すると言われている。2019年2月に行われた隣国パキスタンを根拠地とする分離主義武装勢力に対する越境空爆も、モディ政権のパキスタンに対する強硬な姿勢を示し、国民の共感を得たとみられる。

また、BJPが、経済的弱者層や宗教的少数派にダメージとなる政策を強く推さなかったことも勝因の一つとされている。近年、農村の経済的困窮が課題となっているが、モディ政権は、2018年予算で、政府による穀物買い上げの最低支持価格をコストの1.5倍にする政策をとり、選挙公示の直前に零細農および小農民への所得補助事業を発表し支持を繋ぎとめた。ムスリムなどの宗教的少数派に対しては、関連団体からウッタル・プラデーシュ州アヨーディヤーでのラーマ寺院建立の問題や、カシミール州に特権を与えている憲法第370条の廃止を求められているが、モディ政権はこれらに関する政策を強く推すことはなかった。

3.第2次モディ政権における主要な経済・労働政策

(1)BJPの経済成長ビジョン

BJPの2019年マニフェストによれば、BJPは、複数の経済成長ビジョンを掲げ、インドのGDPを2025年までに5兆ドル、2032年までに10兆ドルに引き上げ、2030年までに世界第3位の経済国にすると公約している。他の経済政策は次のとおりである。

ア 物品サービス税(GST)

  2017年7月の物品サービス税の導入は、特に各州の税率の低下および税収の増加をもたらした。政権は、物品サービス税の課税手続の簡素化を目指す。

イ 100兆ルピーの投資

  2024年までにインフラ分野に100兆ルピーの資本投資を行い、また、インフレ率を4%に抑えコストを大幅に削減するシステムを確保し、投資主導による成長を図る。

ウ メイク・イン・インディア(Make In India)

  これは、第1次モディ政権が2014年9月に掲げたスローガンで、海外からインドへ投資や製造を誘致するため、製造業の振興を目指し、インドにおける製造業GDP比率を、2020年には25%まで引き上げることを目標にしている。ITやスタートアップ部門においてイニシアチブを取り、今後5年でインドを世界の製造業のハブにし、世界銀行ランキングで50位以内を目指す。なお、2019年度予算案においては、失業率の改善等を目的として、「メイク・イン・インディア」への拠出額が、前年度の14億9,000万ルピーから47億3,300万ルピーに増額された。

エ MSME(中小零細企業)

  中小零細企業に対する融資を拡大し、技能の向上を促進させる。2024年までにインド国内に技術センターを150か所以上設置する。

オ スタートアップ

  スタートアップを促進するために、起業家に対し500万ルピーまで無担保で提供するスキームを立ち上げる。政府は、女性起業家には融資額の50%を保証し、男性起業家には融資額の25%を保証するとした。また、スタートアップ企業に対し規制緩和を行い、2024年までに国内で5万の新規スタートアップ企業の設立を促進する。

カ 貿易

  国際貨物の通関手続の迅速化および輸出業者に対する財政的・制度的支援の提供を図る。

(2)労働政策

第1次モディ政権において、NDAは、労働法を再編することを提案した。賃金法、労働安全衛生法、労使関係法および社会保障法の4つであるが、政府は、賃金法および労働安全衛生法を優先的に通過させるとしている。

政府は、既に最低賃金に関する覚書を準備し、異なる地域に対して国レベルでの最低賃金を義務付けた。労働省の委員会では、国内の労働者の最低賃金を、国レベルでは1か月あたり9,750ルピー(一日当たり375ルピー)とする旨を提案した。なお、現在の最低賃金は、1か月あたり4,576ルピーである。この代替案として、地域の状況に応じて1か月あたり8,892ルピーから11,622ルピーの範囲(一日あたり342ルピーから447ルピーの間)の最低賃金を提案するとともに、都市労働者のための家賃手当を支給する案も提案されている。

4.コメント

インド下院選では、モディ首相率いるBJPの連合であるNDAが予想以上の大勝を収め、モディ政権は2期目に入った。新政権の経済政策としては、基本的に前政権の政策が維持され、製造業の拡大やインフラ成長の加速およびスタートアップ支援が主要なものとなることが予想される。

以上

TMI総合法律事務所 インドデスク

平野正弥/三田村大介仲居宏太郎

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