「インド最新法令情報‐(2019年12月号) 2019年の振り返りと今後の展望」

2019年は、4月に下院選が行われ、モディ氏が所属する与党・インド人民党(BJP)が、2014年の選挙から更に議席数を増やし、単独過半数の勝利を収め、モディ政権が2期目に入った年である。モディ政権はこれまで、税制改革や労働法制の見直し、また、メイク・イン・インディアをはじめとする外国企業の国内誘致政策に積極的に取り組んできた。BJPの下院選勝利により、これらの政策が更に加速することが期待される年となった。

本号では、2018年末から現在までに公表ないし施行された重要な法令改正等を簡単に振り返りつつ、来年以降の展望について述べたい。

1. 2019年の重要な法令改正等

(1)   電子商取引分野における対外投資規制

2018年12月26日、統合版対外直接投資ポリシー(Consolidated Foreign Direct Investment Policy)が改正され、電子商取引分野における規制が強化された。それ以前も、マーケットプレイスモデルにおいて、電子商取引事業者が在庫を保有(所有)することは禁止されていたが、在庫を管理(倉庫で保管、梱包、発送)する業務をベンダーから請負うことで、在庫を間接的にコントロールし、事実上、在庫保有(所有)の禁止を潜脱する事例が散見されたことから、要件が加重され、電子商取引事業者が在庫をコントロールすることも規制されることとなった。また、あるマーケットプレイスにおいて、ベンダーによる在庫の購入の25%以上が同一の電子商取引事業者またはその関連会社によるものである場合、当該ベンダーが当該マーケットプレイスで商品を販売することも禁止されることとなった。

(本リーガルアップデート2019年1月号に関連記事:

http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/india/2019/india-1-5.html

(2)   対外商業借入規制の改正

2019年1月16日、従前のECBについての規制に代わるものとして、2018年外国為替管理(借入れおよび貸付け)規制(Foreign Exchange Management (Borrowing and Lending) Regulations, 2018。以下「新ECB規制」という。)が導入された。新ECB規制は、インド企業による海外からの資金調達の容易化を目指し、対外商業借入(以下「ECB」という。)に関する規制の見直しにより導入されたものである。新ECB規制により、ECBを利用できる貸し手の範囲が拡大され、日本を含む金融活動作業部会(FATF)又は証券監督者国際機構(IOSCO)の加盟国の居住者が、ECBスキームを利用して、インド企業に対して資金を貸し出すことができるようになった。

(本リーガルアップデート2019年2月号に関連記事:

http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/india/2019/india-2-5.html

(3)     重大な影響力を有する保有者に関する報告義務

2019年2月8日、2019年重大な影響力を有する保有者に関する会社改正規則(Companies (Significant Beneficial Owners) Amendment Rules, 2019。以下「SBO改正規則」という。)が施行された。SBO改正規則は、2018年6月14日付けの通知にて定められた内容、すなわち、インド企業に対して「重大な影響力を有する保有者(Significant Beneficial Owners。以下「SBO」という。)」の該当性基準を明確にしたものである。これにより、自己が重大な影響力を有するインド企業(以下「報告対象会社」という。)に対して報告を行うべき基準が明確化された。

(本リーガルアップデート2019年3月号に関連記事:

http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/india/2019/india-3-5.html

(4)   企業の社会的責任(CSR)に関する規制強化

2019年7月31日に施行された改正会社法(Companies (Amendment) Act, 2019)(以下「2019年改正法」という。)により、CSRに関する義務が強化された。インドにおいては、2014年の現行会社法施行時より、一定の要件を満たす会社に対して、企業の社会的責任(CSR)を果たすために一定の金額の拠出義務が課されている。2019年改正法により、実際にCSR活動に使われなかった拠出金の取扱いに関する追加ルールおよびCSRに関する会社法上の義務違反に対する罰則が導入された。会社法上のCSRに関する義務に違反した場合には、会社に対して500ルピー以上250万ルピー以下の罰金、違反企業の役員(officer)に対して3年以下の禁固又は/および50万ルピー以下の罰金が科される可能性がある。

(本リーガルアップデート2019年8月号に関連記事:

http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/india/2019/india-8-5.html

(5)   外国直接投資規制の更なる緩和

2019年8月28日、外国直接投資規制(Foreign Direct Investment Policy。以下「FDIポリシー」という。)の一部改定(以下「本改定」という。)を閣議決定により承認した。これまでのFDIポリシーでは、単一ブランド小売業(SBRT事業体)に対しては、オンラインストアを通じて当該ブランドの小売りをする場合、オンライン販売を開始する前にインド国内の実店舗での営業が必要とされていたが、本改定においては、オンライン販売の開始から2年以内にSBRT事業体が実店舗をインド国内に開店することを条件として、実店舗を開店する前にオンライン販売を先行して実施できることとなるなど、インパクトの大きい改定がなされた。

(本リーガルアップデート2019年9月号に関連記事:

http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/country/2019/india-9-5.html

(6)   インド労働法の再編の現状

インドの労働法は、これまでは、中央政府が制定した45本を超える労働関連法に加え、各州政府によって制定された多くの労働関連法が存在し、複雑であるがゆえに法令遵守の妨げとなっていた。モディ政権は、大規模な労働法再編を計画しており、労働関連法は、(i)賃金、(ii)労働安全衛生、(iii)労使関係、および(iv)社会保障の各分野について、4本の法律に統合されることが予定されている(以下「本労働法再編」という。)。本労働法再編に伴い、2019年賃金法(The Code on Wages 2019)により、これまで州ごとに異なる規定がなされていた最低賃金を中央政府が統一的に規定とすることになるなど、労働法制の広い分野に影響を与えることになる。

(本リーガルアップデート2019年10 月号に関連記事:

http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/country/2019/india-10-5.html

(7)   関連当事者取引に関する規制の改正

2019年11月18日、インド会社法上の重要な規制の一つである、関連当事者間取引に関する規制の適用要件の一部が変更された。取締役や主要経営責任者だけでなく、取締役、マネージャー又はその親族がパートナーである組織、並びに取締役、マネージャー又はその親族が株主又は取締役となっている非公開会社も関連当事者に該当するとされた。商品又は材料の販売、購入又は供給、資産の販売、処分又は購入、資産のリースなどの関連当事者間での取引には、取締役会の承認が必要となり、これらの取引で売上高や純資産の一定割合の額以上の取引に関しては、株主総会の決議が必要となる。

(本リーガルアップデート2019年11月号に関連記事:

http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/country/2019/india-11-4.html

2. 2020年の展望

インド下院選で圧倒的勝利を収めたモディ新政権の経済政策は、第1期での政策が基本的に維持され、製造業の拡大やインフラ成長の加速およびスタートアップ支援が主要なものとなることが予想される。BJPの2019年マニフェストによれば、BJPは、複数の経済成長ビジョンを掲げ、インドのGDPを2025年までに5兆ドル、2032年までに10兆ドルに引き上げ、2030年までに世界第3位の経済国にすると公約している。このように、第2次モディ政権は、劇的な経済改革を行い大きな変化を図るのではなく、長期的な経済の発展を図るものといえる。

また、12月13日にインド財務省から公表された資料によれば、2019年度上半期におけるFDI流入額は、前年同期比12.9%増の350億米ドルに拡大している。上記((5) 外国直接投資規制の更なる緩和)で述べたとおり、FDIポリシーの改正の影響により、外国直接投資規制が緩和され、FDI流入額は更なる増加が見込まれる。他方で、インド国内に目を向けると、近年、農村の経済的困窮が課題となっていることに加え、自動車販売台数が減少しており国内の消費が低迷している現状も見られる。インド統計局が11月29日に発表した2019年7月~9月期のGDP成長率は、前年度同時期と比べて4.5%増にとどまっており、6四半期連続で成長率が前期を下回っている。

外国直接投資は高い水準を記録している一方で、これら国内経済の低迷状況を踏まえると2020年以降、国内経済に対し、てこ入れを図るために景気刺激策を実施する可能性があり、注目される。

以上

TMI総合法律事務所 インドデスク

平野正弥/ 三田村大介 仲居宏太郎

info.indiapractice@tmi.gr.jp

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