「インド最新法令情報‐(2019年4月号) 2019年度予算案に示された政策方針」

1.はじめに

インド政府は、2019年2月1日、2019年度(2019年4月~2020年3月)の暫定予算案(以下「本予算案」という。)を発表した。

インド政府の予算案の特徴としては、予算案において当該年度の各種政策方針が示され、これを受けて、各種の具体的政策が実行されること、国会において各種関連法案が提出されることなどが挙げられる。そのため、毎年、経済専門家のみならず、ビジネスパーソン、法律家、インドの一般国民全体からも大きく注目される。

特に、本予算案は、5年に1度の総選挙を間近に控えていたため、インド政府の方針に大きな注目が集まっていた。本予算案は、あくまで暫定的な予算案であり、総選挙後の本年7月までに新政府による正式な予算が発表される予定である。

本号では、本予算案におけるインド政府の基本姿勢および本予算案にて示された各種政策方針を解説する。

2.本予算案におけるインド政府の基本姿勢

インドでは、本年4月より、議会定数543議席を争う下院議員選挙が行われており、各州7回にわたる投票の後、5月23日に一斉に開票される。約9億人の有権者により、2014年の選挙で圧倒的な勝利を収めたインド人民党(BJP)のモディ首相の5年の任期に対する評価が下されることになる。特に、最近では、モディ首相の支持率低下とともに、最大野党であるラフル・ガンジー総裁率いる国民会議派(Congress)の急激な追い上げにより、現政権にとって、盤石とは言い難い状況にある。そのため、本予算案では、総選挙において票田となる農家、中間所得層や零細企業の支援に主眼が置かれ、現政権の支持拡大を目的とした政策が強く打ち出されている。他方、外国企業やインド国内の大企業に直接影響を与える政策は、それほど多くはない。

3.本予算案に示された政策方針の概要

(1) 農家に対する支援

本予算案においては、総人口の約6割を占める農民に対して、手厚い保護が図られている。農業部門への拠出額は、前年度予算案の2.4倍となる合計7,500億ルピー(GDP比0.4%)に上る。「PM-KISAN」という施策により、保有農地が2ヘクタール以下の約1億2,000万の農家に対し、1世帯当たり年間6,000ルピー(約9,600円)を直接支給することになる。このような農民に対する所得支援に対しては、個人消費拡大の期待が持たれる一方で、その実現可能性に対して疑問を呈する指摘もある。

(2) 個人取得税の免除対象の拡大

現状、年間所得額が25万ルピー(約40万円)以下の個人は、個人所得税が免税されるが、本予算案において、この免除対象となる年間所得額の上限が、50万ルピー(約80万円)まで引き上げられた。他方、例年と比べ、企業活動に直接影響を与える税制の変更は少ない。

(3) インフラの整備

前年度の予算案に続き、本予算案でも、インフラ整備が重視され、農村部の道路整備プログラムには、1,900億ルピー(約3,040億円)が割り当てられた。

また、総選挙に先立つ4月8日に、インド政府は、発電や鉄道の整備等のインフラ投資として2024年までに100兆ルピー(約160兆円)を拠出すると約束している。

(4) スタートアップ支援の抑制

2016年に、スタートアップ企業を通じたイノベーションおよび大規模な雇用機会を創出するするために「スタートアップ・インディア」政策が発表されたが、本予算案では、同政策への拠出額が2億5,000万ルピー(約4億円)とされ、前年度よりも減額した。

他方、インド国内での製造業育成策である「メイク・イン・インディア(インドでモノづくりを)」への拠出額が、失業率の改善等を目的として、前年度の14億9,000万ルピーから47億3,300万ルピーに増額された。

(5) 宇宙政策の推進

インド政府は、本予算案の発表と同時に、10個の重点政策ビジョン(Vision 2030)を示しており、その中の一つとして、インドが世界的な衛星打ち上げ拠点となり、インド独立75周年となる2022年までにインド人宇宙飛行士を宇宙空間へ送り出すことを掲げている。

(6) AI政策の推進

モディ首相は、従前から、先端分野における事業機会の創出に注力しており、本予算案でも、人口知能(AI)に関する国立センター設立等を内容とする国家プログラムが発表された。上述の重点政策ビジョンにおいても、「デジタル・インディア」というスローガンが掲げられており、インド経済のあらゆる分野に、デジタル技術を広めることを目指している。

4.コメント

本予算案は、大方の予想通りではあるものの、選挙権者の多数を占める農村居住者や低所得者に手厚い内容になっており、法人所得税の変更や外国直接投資(FDI)の規制緩和等、日系企業のインドビジネスに直接影響を与える政策は少ない。これに対し、国民会議派を中心として、財政赤字に対する対策が不十分であり、総選挙を意識しすぎた内容であるとの批判がなされている。それだけに、どの政党が政権を握るにせよ、総選挙後に正式に公表される予算は、今後5年間のインド政府の方針を占う上で、非常に重要な予算となる。日系企業としては、本予算案の内容に加え、総選挙の動向および正式な予算内容を吟味した上で、今後のインドビジネスを推進することが肝要である。

以上

TMI総合法律事務所 インドデスク

平野正弥/小川聡/坂下美沙

info.indiapractice@tmi.gr.jp

——————————————————————————–

インドにおける現行規制下では、外国法律事務所によるインド市場への参入やインド法に関する助言は禁止されております。インドデスクでは、一般的なマーケット情報を、日本および非インド顧客向けに提供するものです。

ページの先頭へ