「インド最新法令情報‐(2020年1月号) 日印特許審査ハイウェイの試行開始」

1 はじめに

2019年11月21日、日本国特許庁とインド商工省産業国内振興局(Department for Promotion of Industry and Internal Trade)は、特許審査ハイウェイ(各特許庁間の取り決めに基づき、ある国で特許権を取得可能と判断された特許出願に対し、出願人の申請により、他国において早期に審査を受けることができるようにする枠組みを指す。)の試行開始に最終合意した。これにより、日系企業は、2019年12月5日以降、インドで特許審査ハイウェイの申請が可能となった。

2 特許審査ハイウェイの試行に至るまでの背景

現在、日系企業は、インドにおいて自動車業界等の製造業を中心に年間約4,000件から5,000件の特許を出願している。しかし、インドにおいては、出願から審査着手までに平均約4.5年、出願から登録までに平均約7年と極めて長い期間を要するため、日系企業からは特許権取得の迅速化が強く求められてきた。

インド政府は、このような事態を改善するため、審査官の大量採用や積極的な育成等、特許審査手続の迅速化のための様々な施策を精力的に実施してきた。その一環として、2016年改正特許規則(Patent(Amendment)Rules, 2016)により、特許の早期審査制度を導入した。早期審査制度とは、一定の要件を満たした出願人に対して、特許の権利化までの審査期間の短縮を図る制度である。早期審査制度の利用により、インドでの特許出願から登録まで最短113日で行われた事例も報告されているようである。

さらに、2019年改正特許規則(Patents (Amendment) Rules, 2019)の試行により、早期審査制度の対象が、「出願人が、インド特許庁と他国特許庁との合意に従って出願するための資格を有すること」まで拡張され、かつ、日本およびインドの両政府間で特許審査ハイウェイの試行が合意されたことにより、日系企業もインドでの早期審査制度の利用が可能となった。

3 特許審査ハイウェイの概要

(1)概要

特許審査ハイウェイの概要は次のとおりである。

試行期間

2019 年 11 月 21 日から 3 年間

件数制限

日本およびインドそれぞれ相互に年間100件の申請まで(同一出願人(共同出願の場合も含む。)から年間10件まで)

技術分野

電気、電子、コンピュータサイエンス、情報技術、物理、土木、機械、繊維、自動車および冶金

申請手数料

審査請求を行っていない場合:通常60,000ルピー(約90,000円)

審査請求を既に行っている場合:通常40,000ルピー(約60,000円)

第一国出願の制限

最先の出願が日本又はインドにて行われたものに限定

申請方法

電子提出が必須

 

(2)手続

出願人は、所定の要件を満たす後続庁への出願について、先行庁が特許取得可能と判断した出願に基づき、書類の提出等の所定の手続を取ることで、特許審査ハイウェイによる早期審査を申請することができる。

具体的な申請要件、手続、必要書類等は、特許審査ハイウェイガイドライン(Procedure Guidelines for Patent Prosecution Highway)に記載されている。また、インドにおける特許取得実務を成文化し、出願人がインドにおける特許出願を有効に行うための実用的な手引である、特許実務および手続の手引(Manual of Patent Office Practice and Procedure)も公開されているため、特許審査ハイウェイの利用およびインドにおける特許出願を検討している日系企業はこちらも参照されたい。なお、特許審査ハイウェイの申請様式は単純なフォーマットであるため、実務上、社内又は日本の代理人が対応可能である場合が多い。

(3)特許審査ハイウェイのメリット

特許審査ハイウェイのメリットは次のとおりである。

ア オフィスアクション回数の減少

特許審査ハイウェイは、先行庁で特許可能と判断された請求項を対象とするため、オフィスアクション(拒絶理由通知)の回数が減少することが期待され、応答コストの軽減および早期の権利取得が期待される。

イ 特許査定率の向上

特許審査ハイウェイは、先行庁で特許可能と判断された請求項を対象とするため、特許査定率の向上が期待される。

(4)特許審査ハイウェイの留意事項

特許審査ハイウェイの留意事項は次のとおりである。

ア 法制度の違い

日本とインドでは、記載要件や、非自明性の判断手法が一部異なるため、日本で特許性が認められたものであっても、インドでは特許性が認められるとは限らない。

イ 請求項の限定

先行庁で特許性が判断された請求項と同一の請求項で審査を受ける必要があるため、後続庁では、先行庁で判断された請求項より狭い請求項において特許が認められる可能性がある。

4 考察

特許審査ハイウェイの試行開始により、日本で特許になり得ると判断された出願については、出願人の申請により、インドにおいて、迅速に審査を受けることが可能となった。具体的には、審査請求から1年半以内(従来の約5分の1の期間である。)に特許を取得することが可能となると見込まれている。これにより、日系企業のビジネスの特許による保護が促進され、特許を利用したビジネスが加速されることが期待される。革新的な技術を有する日系企業は、インドでの特許取得を試みることも検討すべきであろう。

もっとも、特許審査ハイウェイを利用して申請可能な件数は、年間100件にとどまるため、早期の特許登録を希望する日系企業は、申請件数が上限に達する前に申請を行う必要がある点に留意が必要であろう。ただし、12月5日時点で既に多数の申請が行われたとの情報もあり、次年度(2020年11月21日申請受付開始予定)の申請も視野に入れて検討を行うべきであると思われる。

以上

TMI総合法律事務所 インドデスク

茂木信太郎/ 小川聡/ 宮村頼光

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