「タイ最新法令情報‐(2019年12月号) タイ取引競争法上の企業結合の事前許可・事後届出の要件」

1.企業結合規制の概要

タイにおいては1999年から取引競争法(以下「旧法」という)が施行され、企業結合に関する法律上の規制が存在していたものの、届出基準を定める下位規則が制定されないといった事情から、実際には企業結合規制の執行が行われない状況が長く続いていた。

そのような状況を受けて、2017年には旧法が廃止され、新たに取引競争法(以下「本法」という)が成立した。本法においては、企業結合の事前許可及び事後届出が必要となる企業結合の類型が規定され、その具体的な基準は告示によって定められることとされた。そして2018年12月に、企業結合の事前許可及び事後届出の要件を定めた各種告示「企業結合の事前許可の要請に係る基準、手続及び条件に関する告示」(以下「事前許可に関する本告示」という)、「企業結合の結果の事後届出に係る規則、手続及び条件に関する告示」(以下「事後届出に関する本告示」という)、及び「市場支配的地位を有する事業者に関する告示」(以下「支配的地位に関する本告示」といい、総称して「本各種告示」という)が発効したことにより、本法における企業結合規制の基準と手続が明らかとなった。

本稿においては、本法及び本各種告示における企業結合規制の概要を明らかにし、どのような場合に事後届出や事前許可が必要になるかを詳述する。

2.企業結合の意義

まず、企業結合に係る事後届出や事前許可の要否を検討するうえでの前提として、本法において「企業結合」とは、以下の(a)乃至(d)の各類型に該当する行為を指す(本法51条4段落)。

(a) 製造業者と製造業者の合併、販売業者と販売業者の合併、製造業者と販売業者の合併、又は役務提供業者と役務提供業者の合併で、一方事業が残存し他方事業が消滅するもの又は新事業が創設されるもの。

(b) 他の事業者の事業運営・方針・経営権を支配するために、当該事業に通常用いられている資産の総資産額50%超を取得すること。

(c) 他の事業者の事業運営・方針・経営権を支配するために、直接的又は間接的に、証券取引法に服する事業者の全議決権の25%超を取得することにつながる、株式、新株予約権又はその他の議決権に転換されうる証券を取得すること。

(d) 他の事業者の事業運営・方針・経営権を支配するために、直接的又は間接的に、当該事業者の全議決権の50%超を取得すること。

3.事前許可及び事後届出の基準

(1) 事前許可の基準

企業結合によって「市場において独占的又は支配的な地位を生じさせるおそれがある」場合には、当該企業結合を行おうとする事業者は、取引競争委員会の事前許可を得なければならない(本法51条2段落)。ここでは市場における「独占的」な地位及び「支配的」な地位の意義が問題となるが、本各種告示により次のように定義された。

まず、「独占的」な地位とは、「総売上額10億バーツ以上の事業者が、特定の市場において、単独で商品又はサービスの価格と質を決定する力を持つこと」をいう(事前許可に関する本告示3項)。

また、「支配的な地位」とは下記のいずれかに該当する場合をいう(支配的地位に関する本告示3項)。なお、総売上額の計算にあたっては、経営方針又は指揮系統において互いに関連する事業者の売上額も含めて算出を行わなければならない(本法3条)。

(a) 前年の総売上額が10億バーツ以上であり、市場における特定の商品又はサービスについて50%以上の市場占有率を有する場合

(b) ある事業者が、市場において特定の商品又はサービスを提供する上位3社のうちの1社となる場合であって、かつ当該上位3社の前年の市場占有率が75%以上であり、各社の前年の総売上額が10億バーツ以上である場合(市場占有率10%未満の事業者を除かれる)

(2) 事後届出が必要となる企業結合

企業結合によって「市場において競争を実質的に減少させる」場合には、当該企業結合を実施した事業者は、当該企業結合から7日以内に取引競争委員会に対して、企業結合の結果について事後届出を行わなければならない(本法51条1段落)。

ここでは「市場において競争を実質的に減少させる」の意義が問題となるが、「企業結合の対象となる事業者のいずれか又はすべての、市場における総売上額が10億バーツ以上であるが、これにより事前許可が必要となる「独占的」又は「支配的」な地位をもたらすに至らない場合」と定義されている(事後届出に関する本告示3項)。

なお、総売上額の計算にあたっては、経営方針又は指揮系統において互いに関連する事業者の売上額も含めて算出を行わなければならない(事後届出に関する本告示3項)。

(3) 事後届出及び事前許可の適用除外

なお、上記の事前許可及び事後届出に係る規制は、経営方針又は指揮系統において互いに関連する事業者が、企業再編のために行う企業結合に対しては、適用されない(法51条6段落)。

4.まとめ

本各種告示が示されたことにより、総売上額が10億バーツ以上となるか否かを一つの基準として、企業結合の事前許可・事後届出の要否が判断されることが明らかとなった。今後タイにおける企業結合に際しては、これらの要件を満たす否かを慎重に検討したうえで、該当する場合には取引競争法上必要な手続を履践しなければならないことに注意する必要がある。

 

TMI総合法律事務所 バンコクオフィス

代表弁護士 高祖大樹

  弁護士 杉浦翔太

bangkok@tmi.gr.jp

 

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