「英国最新法令情報(2019年12月号)-英国におけるオプトアウト型クラスアクションの進展~MasterCard社に対する近時の大規模訴訟を用いて~」

1.はじめに

現在、英国において、MasterCard社に対する総額140億ポンドという英国の民事訴訟史上最高の訴額ともいわれるクラスアクション(集団訴訟)が提起されている。後に詳述するが、英国では、2015年に「オプトアウト型手続」による集団訴訟が導入されており、本件はこの手続に基づく大型訴訟である点がポイントとなっている。本件において、競争審判所(Competition Appeal Tribunal (CAT))は、クラスアクションの申立人であるWalter Merricks氏に対し、クラスアクションの当事者としての適格性を否定し、集団訴訟命令(Collective Proceedings Order)を下さない判断をしたのに対し、2019年4月16日、控訴院(Court of Appeal)はCATの判断を否定し差し戻すことを決定した。英国の訴訟実務において注目される事案であるため、本件判断について解説する。

2.オプトアウト型クラスアクションについて

英国では、従前からオプトイン型の集団訴訟が認められていたが、2015年の消費者権利法(Consumer Rights Act 2015)によって、競争法違反に関して生じた損害賠償を請求する場合、オプトアウト型のクラスアクションの提起も新たに認められるようになった。まず、このオプトアウト型がどのような特徴を有する手続かを説明する。

従来のオプトイン型手続においては、文字通り、オプト(選択する)・イン(入ること)、すなわち、当事者が積極的に訴訟手続に参加する意思表示をしなければ、当該当事者はクラスアクションの判決に拘束されない。これに対し、オプトアウト型手続は、オプト(選択する)・アウト(出ること)、すなわち、クラスアクションに特定されるクラスに属する者である場合、反対の意思表示を行わない限り、代表となった訴訟追行者の訴訟結果に拘束される点に特徴がある。

オプトアウト型クラスアクションを提起するためには、まずCATに申立てを行うことになる。そして、申立人が当該クラスアクションの代表者として適格性を有することを示すとともに、集団訴訟が公正・効率的に解決するために適切な手段であるか等の観点から、当該請求がオプトアウト型クラスアクションとしての適格性を有する旨を示し、集団訴訟命令を取得する必要がある。これが最初のハードルとなる。

3.MasterCard社に対するクラスアクション:事案概要・経緯

今回取り上げるMasterCard社に対するクラスアクションは、全体での損害額が約140億ポンドという英国民事訴訟史上最高額とされていることや、オプトアウト型手続としては2例目にあたるものの1例目においては集団訴訟命令が下されるに至らなかったことから、その帰趨が注目されていた。

MasterCard社は、欧州経済領域内(European Economic Area)において、消費者がカードを利用して決済した際に、カードの発行会社の銀行と加盟店の銀行との間の決済手数料として、多国間交換手数料(Multilateral Interchange Fee (MIF))を徴収している。これについて、欧州委員会は、多国間交換手数料が加盟小売店に交渉の余地のないものとして設定された反競争的な効果を有するものであり、これを正当化しうる事情も見当たらないとして、競争法違反を認定し、2014年9月11日、欧州司法裁判所もこれを支持する判断を下した。

これを受けて、Merricks氏は、2016年9月21日、MasterCard社による競争法違反によって、加盟小売店は不当に高額な多国間交換手数料が課され、最終的にはこれが消費者に転嫁されたことによって損害を被ったという論理に基づいて、同社に対し損害賠償を請求するため、オプトアウト型クラスアクションの集団訴訟命令を求める申立てを行った。なお、申立てでは、1992年5月から2008年6月までの間に英国内でMasterCard社のカードを利用して商品を購入した消費者(約4600万人)がクラスを構成し、前述のとおり損害および遅延損害金の総額は約140億ポンドに及ぶとされている。

本件に関し、CATは、2017年7月21日、申立人は損害総額を算出するための方法論を十分立証しておらず、また、各消費者に対する損害の分配に関しても合理的かつ実践可能な手段が提示されていないことを理由に、クラスアクションを認めるに適さないとして申立てを退けた。また、CATは、消費者権利法上に定めがないことを理由に、同判断に関する控訴院への控訴は認められない旨の判断も示した。

しかし、控訴院は、Merricks氏による控訴を認めた上で、2019年4月16日、CATの判断を取り消し、これを差し戻す判断を下した。その理由について、控訴院は、クラスアクションの認定手続の段階では申立人の主張が合理的なものであること(a reasonably arguable caseであること)が認められれば足り、CATが、申立人の主張する損害額の分配方法は合理性や実用性を欠くとして、申立てを排斥したのは誤りであると述べた。

差戻しを受けたCATは、申立人に対してクラスアクションとしての適格性を認め、集団訴訟命令を下すと見込まれ、今後、本件の審理を通して、オプトアウト型クラスアクションにおける様々な法的問題が実務上検討・整理されていくものと考えられる。

4.実務上の意義

本件において、控訴院が、オプトアウト型クラスアクションとしての適格性の判断に際して緩やかな基準を用いたことによって、今後、その他のクラスアクションの申立ても認められやすくなると考えられる。これを受けて、今後、競争法違反に基づく消費者集団訴訟が活発化する可能性があり、本件の極めて高額な訴額に見られるようにそのリスクは小さなものではないことも考えれば、事業者においては、競争法分野におけるコンプライアンスを改めて徹底することが必要になると思われる。

以上

TMI総合法律事務所 ロンドンオフィス

絹川健一

london@tmi.gr.jp

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