2020年5月26日に、工業団地法が成立しています。
この工業団地法は、開発業者が工業団地を開発し、投資者に対して、50年間(及び10年間の延長が2回可能)賃貸して、工場等を建設することを認めた法律です。
例えば、経済特区法に基づくティラワ工業団地は、開発会社であるMJTDが土地を一括して賃借し、入居企業に長期で貸し出すことにより工業団地開発を行っていますが、工業団地法では、これと類似の仕組みで工業団地開発を行うことができる枠組みを規定しています。
本稿では、この工業団地法の概要についてご説明します。
また、現在でもミンガラドン、ラインタヤ、タケタといった工業団地が存在しますが、これらの既存の工業団地と、今回の工業団地法の関係はどのようになるのでしょうか。この点についても、同法の条文の概要をご説明します。
工業団地法の基本的枠組み
開発業者は、工業団地を開発して管理、運営、保守を行う
開発業者は、その責任において工業団地の設置を行い、工業団地のインフラを建設、運営し、工業団地内の保守を行う者をいいます(2条(j))。
開発業者には、以下の権利等が認められています(23条)。
a.工業団地ビジネスを行うこと(地方委員会との間で法律に基づき開発契約を締結し、投資者への転貸、インフラ整備を行うこと。)
b.管理委員会の監督の下、工業団地の保守工事を行うこと
c.インフラ整備については、自ら行うこと、又は第三者と契約して行うことができる(e)。
d.インフラについての関連サービスを提供すること(関連政府機関の承認を取得すれば、工業団地外でも提供できる。)
なお、ここでいうインフラには、工業団地に関する電力・水の供給、排水処理、防火システム、道路、鉄道、港湾、空港、通信ネットワーク等の有形のインフラと、効率的な運営のためのコンピュータープログラム、マネジメントプログラム等の無形のインフラを含むとされています(2条(i))。
投資者は、特定の区画を長期で賃借して工場設置等を行う
投資者は、地方委員会の定める規則に従い、工業団地の特定の区画に投資を行う者をいいます(2条(k))。工業団地に投資して、工場を設置する会社などが、これに該当します。
本法では、投資者には以下の行為が認められています(24条)。
a.最終製品の製造、関連製品の製造、包装材の製造、高価品の製造
b.材料と最終製品の運送、及び道路の保守、改良
c.投資事業に関する他の種類のサービス
d.規則に従って投資事業で製造された製品を国内外に販売すること
工業団地の設置の手続
新たな工業団地の設置については、以下の手続により行われることが規定されています。
①開発業者又は管区政府等が、地方委員会に提案書を提出
②提案書の提出を受けた地方委員会は、その内容について検討を行い(a.場所、b.広さ、c.区画、d.経済インフラの可能性、e.経済発展及び雇用の可能性について検討)意見を付して中央委員会に提出(7条(a))
③中央委員会は、地方委員会から提出された提案書について検討の後、意見を付して連邦政府に提出(5条(b))
④提案された場所に工業団地を設置するか、連邦政府がその許否を判断する(11条(a))。
開発業者の選定
開発業者の選定にあたっては、施行されている法律に従い、入札によることが必要とされます(14条(a))。選定に際しては、①ミャンマー及び国民に利益をもたらすことができること、②プロジェクトを迅速に実施することができること、③透明性、④工業団地ビジネスを成功させる能力を有することという要素が考慮されます(14条(b))。
工業団地の設置基準
設置の審査基準
中央委員会は、地方委員会の工業団地設置の提案を以下の基準で審査し、連邦政府の承認を受けて、工業団地設置のアレンジをすることができるとされています(13条)。
a.地域の発展のために指定された場所
b.工業の事業運営及び投資事業活動に十分な土地があり、工業団地マスタープラン(必要なインフラを含む)が実施できること
c.港湾及び空港、又は国際商流若しくは国内市場へのアクセス等の国際ゲートウェーの存在
d.必要な工業原料、資源、基本物品が存在すること
e.労働力(技術を有する労働者、これから訓練を行うべき労働者、両者の中間的な労働者)が存在すること
工業団地内の土地の用途と面積割合
土地使用のカテゴリー及び割合は、以下の通りとされています(15条)。地方委員会は、工業団地の広さ、類型、分類の案について、工業団地事業ポリシーに基づいて中央委員会の承認を取ることとされています(16条)。
60-70% |
工業エリア |
1-5% |
商業エリア |
20-25% |
公共施設及び予備エリア |
9-10% |
グリーンベルト |
土地使用権
地方委員会は、開発者又は投資者に対して、工業生産や関連事業のために、所定の賃料で使用させることができ、その期間は50年間とされています。また、10年の延長を2回することができるとされており、現在のMICの土地長期賃貸借の権利承認や、ティラワ経済特区での土地の長期賃貸借と概ね同じ期間の土地賃貸借が認められるとしています(32条)。
当該土地が工業団地に指定されるアナウンスの前に、当該土地に移転又は撤去を要する住居、建物、構造物、農場、果樹園、作物又はプランテーション等が存在する場合、管区政府等は、移転手続きを実施し、法律に基づき補償を行うこととされています(33条)。
投資に対するインセンティブの付与
中央委員会は、①未発展地域での工業団地開発及び投資、②雇用が少ない地域での大量雇用、③輸出志向の付加価値農業製品の生産、④高品質農業機械設備生産への投資、⑤付加価値型輸出志向ビジネス及び技術革新型投資ビジネスについて、通知により、一定期間、インセンティブを付与することができるとしています(46条)。
また、開発業者及び投資者は、初期建設に使用する目的で、海事税関法の規定に従い重機や機械設備を輸入することができるとされています(地方委員会の推薦を受けて商業省がアレンジを行う。)(45条)。
既存の工業団地についての適用
例えば、ミンガラドン、ラインタヤ、タケタといった既存の工業団地については、工業団地法によりどのような影響を受けるのでしょうか。
既存工業団地のままの状態での適用
まず、既存の工業団地についても、地方委員会は、a.進行中の開発計画の発展(7条(e))、b.必要な計画の策定し、義務を定め、中央委員会の承認を取得すること(7条(f))、c.新たな投資に必要な建物又は構造物の場所及び建築について決定、審査、承認を行うこととされています(7条(g))。
また、既存の工業団地についても、計画通りに投資が実施されなかった場合、土地価格の10%を毎年納付することが義務付けられ、これを支払わなかった場合には、土地使用権の取消の処分が規定されています(34条(b))。
これらの規定は、現状、ミャンマーでは、少なくない数の工業団地が実際上は投機目的等で開発されずに放置されている現状に着目し、このような放置されている土地の開発を促すためのものと見ることもできるでしょう。
工業団地法による工業団地への転換
このような既存工業団地としての規制のみならず、連邦政府は、既存の工業団地について種類によって分類し、工業団地法の適用される工業団地として公示することとされており(11条(c))、工業団地法に従えば、既存の工業団地でも、工業団地法に基づく工業団地として指定されることができるとされています(75条)。
規則による既定の具体化が待たれる
本法は、ティラワ経済特区と類似の仕組みで、工業団地を造ることを認めた法律といえ、報道されている周辺国からの大規模工業団地への投資計画とも呼応する法律と思われます。
他方で、現状のMIC申請手続、投資法が外資に認める長期賃借権との関係や、既存の工業団地に具体的にどの程度本法が適用されるか等、不明な点も多く、今後、規則等での内容の具体化が待たれます。
なお、本項で記載した要件等の法律の内容は要約であり、実際の事案の検討にあたっては、ミャンマー語の原文に照らして検討する必要があります。
TMI総合法律事務所 ヤンゴンオフィス
弁護士 甲斐 史朗
yangon@tmi.gr.jp