1.概 説
前号に引き続き、シンガポールにおける新型コロナウイルス関連の状況をお伝えする。シンガポールにおける11月1日の新規感染者数は、国内感染症例0件、輸入症例4件(輸入症例は、海外からシンガポールに到着後14日間の隔離実施中等に感染が確認された事例を指す)である。同年9月以降の1日当たりの新規感染者は、1桁から2桁前半が続いており、1日の新規感染者数が1,000名を超える日が継続していた半年前と比較すると、落ち着きをみせている。
シンガポールでは、4月7日に開始された外出禁止、職場の閉鎖等の部分的ロックダウン「サーキットブレーカー」が6月に終了し、6月19日以降は、「フェーズ2」と呼ばれる措置に移行している。フェーズ2においては、22:30までを条件に飲食店の営業が認められるようになったものの、会食等の人数は5名が上限とされている。職場においては「Safe Management Measures」と呼ばれる厳格な安全管理措置をとることが義務付けられる。国外との往来については、限定的な条件下での往来が認められるビジネス・トラック及びレジデンス・トラックがそれぞれ9月18日、9月30日から開始された。
以下では、「Safe Management Measures」の概要並びにビジネス・トラック及びレジデンス・トラックについて説明する。
2.Safe Management Measures(10月22日時点)
Safe Management Measuresのもとでは、在宅勤務がデフォルトの勤務形態とされている。9月27日以前は、職場に出勤することが業務上明らかに必要不可欠な場合にのみ職場での勤務が認められるとされていた。しかし、9月28日以降はこの規制が緩和され、在宅勤務可能な従業員についても、同時に出勤する従業員数を半数以下に抑えることを条件に、職場での勤務が認められることとなった。ただし、雇用者は、各従業員がその勤務時間の少なくとも半分を自宅で勤務できるよう確保しなければならない(例えば、隔週又は週の半分は在宅で勤務するようなアレンジを行う必要がある)。さらに、従業員が職場で勤務する際には、出退勤時間、1日2回の体温測定結果を管理する等種々の義務が課されている。また、雇用者は、職場で勤務する従業員の感染を防止するため、時差出勤やフレックス制、チーム制の導入を促す必要がある。9月28日以降も、原則の勤務形態は在宅勤務とされていることから、雇用者としては、在宅勤務が難しい従業員に対して、勤務過程を見直し、IT機器等の支給をする等、できる限り在宅勤務が可能となるようなアレンジを行うことが要請されている。
当局は、積極的に各企業の視察を行っており、Safe Management Measuresの違反に係る罰則は、S$10,000以下の罰金又は/及び6か月以下の禁固(累犯は左記の倍)とされている。また、雇用者が従業員の在宅勤務を支援しない等、Safe Management Measuresを遵守していない又は対応が不十分なケースにおいては、従業員その他関係者から、SnapSAFE (www.mom.gov.sg/eservices/snapsafe)と呼ばれるアプリを通じて当局へ通報される可能性も否定できないため、Safe Management Measuresに則った対応を実施した記録を残しておく等、慎重な対応が必要である。
詳細及び最新の情報についてはシンガポール人材省のホームページ https://www.mom.gov.sg/covid-19/requirements-for-safe-management-measures 等を参照されたい。
3.ビジネス・トラック及びレジデンス・トラック
(1) ビジネス・トラック
9月18日から、日本とシンガポールの間でビジネス上必須な相互出張を認める「ビジネス・トラック」の運用が開始された。同スキームは、日本又はシンガポールに居住する「ビジネス上必要な人材等」を対象としたもので(国籍は不問)、短期出張者による双方の入国を認め、滞在先と用務先の往復等に行動範囲を限定した形で活動を可能とするものである。渡航先における滞在可能は30日以内であり、利用者は「本邦活動計画書」の提出、同計画書に従って行動する等の条件を満たす必要がある。
日本を起点にシンガポールとの間を往復するケースでは、シンガポール入国時にPCR検査を受けた後、結果判明まで1~2日間の待機(この間他者との接触は不可)を求められる。日本帰国後の14日間は、公共交通機関の使用が認められず、自宅と勤務先の往復等に行動範囲が限定される。
シンガポールを起点に日本との間を往復するケースでは、日本出国前72時間以内のPCR検査及びチャンギ空港到着時のPCR検査において陰性であることを条件に、シンガポールへ帰国(再入国)する際、指定施設での2週間の隔離は免除される。
手続き詳細は https://www.sg.emb-japan.go.jp/itpr_ja/travel_jpsg.html 等を参照されたい。
(2) レジデンス・トラック
レジデンス・トラックは、駐在員の派遣、交代等の場面における日本とシンガポール間の往来を例外的に認めるものの、当局からの事前承認取得や入国後の指定施設等での隔離が義務付けられるスキームで、9月30日から運用が開始された。主に長期滞在者用の往来枠とされている。
手続き詳細は https://www.sg.emb-japan.go.jp/itprtop_ja/index.html 等を参照されたい。
4.日本からシンガポールへ入国した際の2週間の隔離
本稿執筆時点においては、上記ビジネス・トラックにおける例外を除き、日本からシンガポールへ入国した際は、政府の指定する施設で2週間の隔離が義務付けられている(隔離中は指定の部屋からの外出や他人との接触は一切許されていない)。しかし、政府は10月27日、11月4日以降にシンガポールに入国する一定の条件を満たす者については、14日間の隔離を政府指定の施設ではなく自宅等で行うことを認めるとの発表をした。一定の条件とは、①直近14日間に日本、タイ、韓国等所定の国以外への渡航歴がないこと及び②隔離場所に単独で滞在する又は同様の渡航履歴による隔離対象となっている者のみが滞在することである。
以上
TMI総合法律事務所 シンガポールオフィス
永津隆子
——————————————————————————–
本稿は一般的な法令情報を提供するものであり、シンガポール法に関するアドバイスや法的意見を提供するものではありません。
【ご案内】 新型コロナウイルス感染症に関する各国の規制状況等については、こちらからご参照ください。なお、新型コロナウイルス感染症への対応を分野ごとにまとめたシリーズ【コロナウイルス対応Q&A】については、こちらからご参照ください。