1.はじめに
2020年2月4日より、タイにおいて、あらたに取引競争法上のフランチャイズ事業規制が適用される。具体的には、取引競争委員会が2019年12月6日に発行した取引競争委員会告示(以下「本告示」という)により、フランチャイザーには下記2~4の義務が課されることとなる。
なお、本告示におけるフランチャイズ事業とは、一方当事者(フランチャイザー)が、他方当事者(フランチャイジー)との間で、書面で締結した契約により、下記①~④を満たす事業を行う場合をいう。
① 特定の期間・特定の地域において、
② (i)フランチャイザーが提供する業務システム、(ii)フランチャイザーが提供する業務プロセス、及び(iii)フランチャイザーの知的財産権、又は知的財産権を利用させる権利を用いて、
③ フランチャイザーの促進・管理のもとで行われる事業であって、かつ
④ フランチャイジーがフランチャイザーに対して対価を支払う事業
2.フランチャイズ事業に関する情報開示義務
フランチャイザーは、フランチャイジーに対して、フランチャイズ契約を締結する前に、下記の情報を開示しなければならない。なお、情報開示を行うためのフォーマットは特段、指定されていない。
(1) ロイヤリティー及びフランチャイズ事業を行ううえでフランチャイジーが支払う各種費用
(2) 当該フランチャイズ事業のビジネスモデルの内容(業務補助やトレーニングの提供等を含む)
(3) 知的財産権の取扱い
(4) フランチャイズ契約の解約と更新の条件
3.近隣店舗設置時における店舗経営優先権の付与
フランチャイザーが、フランチャイジーが経営する店舗の近隣に、新規店舗を設置する場合には、当該フランチャイジーに対してその旨の通知を行うとともに、当該フランチャイズ店舗を経営する交渉権を与えなければならない。なお、フランチャイジーには、検討のための合理的な考慮期間が与えられなければならない。
4.フランチャイジーに対して不当に不利益な条件を課すことの禁止
フランチャイザーが、フランチャイジーに対して、下記の契約条件を課すことは禁止される。
(1) 正当な理由なく、フランチャイジーに対して、フランチャイズ事業に関係のない製品やサービスを購入させ、又は実際に必要な分量よりも多くの商品や材料を購入させるといった条件を課すこと
(2) 正当な理由なく、フランチャイズ契約を締結した後に、フランチャイジーに対して追加の条件を課すこと
(3) 正当な理由なく、フランチャイジーが、フランチャイザー以外の製造業者、卸売業者、その他販売業者から、同品質の商品を、フランチャイザーが提供するよりも廉価で仕入れることを禁止すること
(4) 正当な理由なく、フランチャイジーが見切り品を廉価で販売することを禁止すること
(5) 正当な理由なく、フランチャイジーごとに異なる条件を付すことによって、すべてのフランチャイジーを平等に扱わないこと
(6) フランチャイザーの評判、品質、サービス水準を保つことと関連しない、不合理な契約条件をフランチャイジーに課すこと
5.エリア・フランチャイズ契約、タイ国外に所在するフランチャイザーへの適用
日系企業がタイ国内で事業展開を行う場合には、エリア・フランチャイズ契約を締結する場合も多いと考えられる。一般的にエリア・フランチャイズ契約とは、フランチャイザーが、特定の地域・国に事業基盤を有する企業(エリア・フランチャイザー)に対して、事業ノウハウ等を含むフランチャイズ・パッケージを提供し、当該エリア・フランチャイザーが当該地域・国においてフランチャイズ事業を行うことを許諾する形態のフランチャイズ契約を指す。取引競争委員会の担当官への照会によれば、このようなエリア・フランチャイズ契約も本告示における規制の対象である。
また、フランチャイザーがタイ国外に所在する場合であっても本告示は適用される。
6.違反に対する措置、経過措置等
上記2~4の各種義務違反に対しては、最大で、義務違反行為を行った年における年間収益の10%の課徴金が課される可能性がある。また、取引競争委員会は、義務違反行為を行ったフランチャイザーに対して、当該行為の停止又は改善を命じることができる。
なお、取引競争委員会の担当官への照会によれば、本告示による規制は、本告示が適用されるまでの行為に対しては適用されない。ただし、本告示が適用される前から継続しているフランチャイズ契約に基づいて、本告示が適用された後に行った行為については、規制の対象である。
したがって、タイ国内でフランチャイズ事業を行う事業者においては、従前から締結しているフランチャイズ契約の見直しや修正が必要となるほか、今後締結するフランチャイズ契約のテンプレート改訂や、新規店舗設立の業務フローを変更することが必要となる。
TMI総合法律事務所 バンコクオフィス
代表弁護士 高祖大樹
弁護士 杉浦翔太
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