はじめに
2024年8月16日、インド政府は、インド外国為替管理規則2019(非債務証券)を大幅に改正し(以下「2024年改正」という。)、インド居住者であるインド企業とインド非居住者である外国企業等(以下「外国投資家」という。)との間で、その保有する国内外の企業の株式等を互いに交換することを可能とした。本稿では、2024年改正について概説し、インド企業への投資や進出を検討する日本企業にとって、参考となる事項を紹介する。
1.何が変わったのか?
2024年改正前も、株式等の対価を現金で支払うことに代えて(又は現金に加えて)、インド企業が新たに発行する株式等と当該外国投資家が保有する別のインド企業の株式等を交換することは認められていた。一方、当該インド企業が、新たに株式等を発行するのではなく既に保有している株式等を用いることや、当該外国投資家が保有する外国企業の株式等との交換を実施する場合には、インド政府の事前の許可が必要とされていた。2024年改正により、こうした取引もインド政府の許可なく認められることとなり、投資スキームをより柔軟に設計できるようになった。
2.ポイント
(1)交換可能な株式等
交換可能なのはインド企業が保有する「Equity instruments」(株式関連証券)及び外国企業が保有する「Equity capital」(株主資本)である旨が規定されている。すなわち、普通株式や優先株式に加え、強制的に株式に転換される旨の条件が付いた社債等も対象となるが、単なる債権はその対象とならない(なお、それぞれ対象となる有価証券の詳細は法律上列挙されている)。
(2)価値の算定
2024年改正後も、現金を対価とする株式等取得の場合と同様の価値算定が必要となり、各取引当事者は独立の第三者によるバリュエーションレポートを取得する必要がある。
(3)インド政府の事前許可が必要な場合
外国からの直接投資においてインド政府の許可が求められているセクター(銀行業、放送コンテンツサービス業、マルチブランド小売業等)の株式等に関しては、当該インド政府の許可を取得した後でなければ、取引を実行することができない。
また、規制されているセクターであると否とにかかわらず、外国投資家(又は、その「Beneficial owner」(実質的支配者))が、中国等、インドと国境を接している国に所在している場合にも、取引実行前にインド政府による事前の許可が必要となることから注意が必要である。
3.むすび
2024年改正は、海外からの投資促進に対するインドの積極的姿勢を反映したものであり、インドへの投資や進出を検討している日本企業にとって朗報であるといえる。3期目に入ったモディ政権のもとで今後も各種規制緩和が進んでいくことが見込まれ、引き続き法改正情報にアンテナを張っておくことが肝要である。
以上
TMI総合法律事務所 インド・プラクティスグループ
平野正弥/白井紀充/呉竹辰/アマンパナミ
info.indiapractice@tmi.gr.jp
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