1.はじめに
2026年1月15日に、インド最高裁判所は、米国Tiger GlobalによるFlipkart売却に関する税務訴訟において、重要な判決を下しました。本件は、Tiger Globalのモーリシャス法人が、その保有するシンガポール法人(インド法人であるFlipkartの親会社)の株式を譲渡するストラクチャーでしたが、かかる取引における株式譲渡益について、インド・モーリシャス租税条約に基づく免税措置を認めない旨の判断が示されました。日本企業においても、これまで、インド法人への投資に関して、第三国を経由した投資が少なくないと思われるため、本件の最高裁判決は、現在および将来のインド投資のストラクチャー検討に影響を与える可能性があり、本判決を踏まえ、既存の投資案件の見直しや、新規案件のストラクチャリングの検討を行うことも検討に値するものと考えられます。
2.事案の概要
本件の事案の概要は以下のとおりです。
(1) 背景
- Tiger Globalは、2011年10月から2015年4月の間、モーリシャス法人を通じてFlipkartシンガポール法人の株式を取得し、同シンガポール法人を通じてFlipkartインド法人に対する投資を行っていた。
- 本件のTiger GlobalによるWalmartへの譲渡は、Tiger Globalモーリシャス法人を売主とするFlipkartシンガポール法人の株式譲渡という方法により実施された。
- Flipkartシンガポール法人はインド国内から実質的な価値を得ているため、この株式の売却によるキャピタルゲインがインドでの課税対象となるところ、Tiger Global社は、インド・モーリシャス租税条約の適用を求めた。
- インド税務当局は、Tiger Global社が意思決定において独立性を有しておらず、管理・運営が行われていなかったとして、インド・モーリシャス租税条約の利益を享受する資格がないという理由で、同租税条約の適用を否定した。
(2) AARの裁定
- Tiger Global社は、事前審査当局(Authority of Advance Rulings、以下「AAR」)に申請を行った。
- AARはTiger Global社の管理・運営がモーリシャスではなく、米国のチャールズ・P・コールマン氏(米国居住者で米国の最上位親会社の唯一の取締役)に委ねられており、同氏がTiger Global社の銀行口座の署名者で、モーリシャス金融サービス局に提出された届け出書類においても実質的な所有者として開示されていることなどを根拠に、Flipkartの株式売却取引が租税回避スキームであると判断した。
(3) デリー高裁で判断
- Tiger Globalの事案において、デリー高裁が扱った主な争点は、本件が租税回避を目的としていたかどうか、および納税者に租税条約の恩典を付与すべきかどうかであった。
- 裁判所は、詐欺、違法性、経済的実体の完全な欠如などの例外的な状況が存在しない限り、租税条約の恩恵の制限条項に規定された条件を満たし、かつ税務上の居住者証明書(Tax Residency Certificate、以下「TRC」)が存在していれば、条約の恩典を付与するのに十分であると判断した。
- また、裁判所は、かかる例外的な状況の存在を証明する責任は、専ら当局にあると指摘した。
- デリー高等裁判所は、AARの判決を覆し、上記の理由によりインド・モーリシャス租税条約に基づくキャピタルゲイン税の免除を認めた。
- これに対して、税務当局は、主にAARの判決を根拠に、インド最高裁判所に対し上訴した。
3.インド最高裁判所の判断
インド最高裁は、本件の取引が外見上租税回避を目的として設計されていると認定し、これにより、Tiger Global社によるインド・モーリシャス租税条約に基づく譲渡所得税の免除を否定しました。最高裁の主な見解は以下のとおりです。
- 2017年4月1日より前に行われた「投資」に対するGAAR(一般租税回避防止規則)の適用から保護する目的のグランドファザリングの保護を緩和し、かかる保護は、投資が真正であり、実質を欠くアレンジメントから生じたものではない場合にのみ主張できる。
- 租税条約の目的は二重課税を防ぐことであり、租税回避を助長するものではない。したがって、租税条約の適用は、当該取引が居住地国で課税の対象となることを前提とする。
- TRCを保有すること自体はインド・モーリシャス租税条約の利益を主張するための十分条件ではなく、TRCは、法定機関または裁判所が独自の検証を行わない限り拘束力を持たない。
- 二重課税を防止し、租税回避すなわち二重非課税を認めないという条約のより広範な目的に言及し、条約の恩恵を受けるためには、居住国において関連する利得に関する税金が支払われたことを証明する必要がある。
- GAARが適用されない場合でも、取引の法的形式を超えて実質を検討し、真の商業目的を欠く取引といった限定的な事例において、税法上の優遇措置を否定するJAAR(司法上の租税回避防止ルール)を適用することができ、租税条約の利益が否定され得る。
4.実務への影響
本判決により、第三国の法人を通じたインド投資の撤退時に、租税条約上の恩恵が適用されるかについて、不確実性が高まったものと考えられます。
租税条約による保護が認められるか否かについては、第三国法人において真の経済的実体があるか、実質的な支配や意思決定権限を証明できるか、などといった点が重要となるものと考えられます。
今後、税務当局が本判決を踏まえた精査を強化する可能性があるため、第三国法人を利用した投資ストラクチャーが組まれている案件については、真の経済的実体があるか、実質的な支配や意思決定権限等を証明できるかといった観点から見直しを行うことも検討に値するものと考えられます。
以上
TMI総合法律事務所 インド・プラクティスグループ
茂木信太郎/白井紀充
info.indiapractice@tmi.gr.jp
インドにおける現行規制下では、外国法律事務所によるインド市場への参入やインド法に関する助言は規制されております。本記事は、一般的なマーケット情報を日本および非インド顧客向けに提供するものであり、インド法に関する助言を行うものではありません。