2026年9月、電子請求書制度がいよいよ始まります
フランスでは、電子請求書制度(e-invoicing)が2026年9月から段階的に本格始動します。このテーマについては、弊所でも過去のニュースレターで既に取り上げています 。そこでは、当初2024年7月1日から制度が開始される予定であったものの、その実施が延期され、具体的な実施時期が後続の立法で確定される見込みであることをご紹介していました。
本格始動まで6か月を切った今、企業としては制度の概要を改めて整理し、実務対応を具体的に進めていく段階に入っています。本稿では、電子請求書制度の基本構造を確認したうえで、導入直前の時期に企業が押さえておくべきポイントを解説します。
電子請求書制度の導入スケジュール
電子請求書の発行義務は、大企業および中堅企業(ETI)については2026年9月1日、中小企業(PME)および零細企業については2027年9月1日から適用が開始されます。
他方で、電子請求書の受領義務については企業規模を問わず、すべての企業に対して2026年9月1日から適用されます。したがって、自社がまだ発行義務の対象でない場合であっても、2026年9月までに電子請求書を受領できる体制を整えておく必要があります。
開始時期が明確になったことで、企業にとっての課題は「制度の方向性を確認すること」から、「具体的な社内対応を進めること」へと移りつつあります。
今回の制度は、単なるPDF化ではありません
ここでまず押さえておきたいのは、制度上の「電子請求書」は、単に請求書をPDFで作成してメール送付することを意味しないという点です。
新制度で想定されている電子請求書は、発行、送信、受領までが電子的に完結し、かつ、税務当局が求める一定の構造化データを含む形式で処理されるものです。そのため、見た目がデジタルであっても、単なるPDF添付では制度上の電子請求書とは認められません。
従来の「PDF請求書をメールで送る運用」は、企業内部では既にデジタル化されているように見えるかもしれません。しかし、新制度で求められているのは、請求書の見た目の電子化ではなく、請求書データを標準化し、システム間で自動処理できる形にすることです。このため、請求書様式の変更だけではなく、会計システム、販売管理システム、ERP、マスターデータ管理まで含めた見直しが必要になる可能性があります。
電子請求書の対象となる取引
電子請求書の対象となるのは、フランスに設立され、VATの課税対象となる事業者同士の国内B2B取引です。具体的には、フランス国内で行われる課税対象の物品供給または役務提供が本制度の対象となります。
これに対して、個人向け取引や、国外の事業者との取引は、原則として電子請求書そのものの対象には含まれません。ただし、対象外だから何も対応が不要というわけではなく、これらの取引については別途「e-reporting」の対象となります。
そのため、実務上は、まず自社の売上や仕入れを
- フランス国内B2B取引
- B2C取引
- 国外取引
の三つに整理し、どの取引が「e-invoicing」の対象となり、どの取引が「e-reporting」の対象となるのかを把握することが重要になります。
企業がまず対応すべき「受領義務」
制度対応というと、電子請求書の「発行義務」の開始時期に注目が集まりがちです。しかし、実務上は「受領義務」の方が先に重要な課題となります。2026年9月1日以降は、企業規模を問わず、すべての企業が電子請求書を受領できる体制を整えておく必要があるからです。
たとえば、自社がPMEであり、発行義務が2027年まで猶予されている場合であっても、2026年9月以降は、大企業やETI、あるいは先行して制度対応を進めた取引先から電子請求書が送付される可能性があります。そのため、電子請求書を受領し、社内の経理処理に取り込む仕組みを事前に整備しておく必要があります。
この意味で、制度対応の初動として重要なのは、「自社がいつ電子請求書を発行するか」を考えることよりも、「どのプラットフォームを利用して電子請求書を受領するのか」を決めることだといえます。受領体制の整備が遅れると、請求書の受領そのものができない、経理処理が滞る、支払管理に支障が生じるといった問題につながる可能性があります。
請求書の記載事項も変わります
請求書に必要な基本項目それ自体が全面的に入れ替わるわけではありません。従来どおり、当事者の表示、請求書番号、発行日、取引日、品目・役務の内容、数量、単価、税抜金額、VAT税率、VAT額、税込金額などの一般的記載事項は引き続き必要です。
そのうえで、新制度のもとでは、従来の記載事項に加え、いくつかの情報を新たに請求書に記載する必要があります。具体的には、
- 顧客のSIREN番号(企業識別番号)
- 請求先住所と異なる場合の納品先住所
- 当該請求書の対象が物品供給のみなのか、役務提供のみなのか、あるいはその双方なのかという取引類型
- 役務提供について、事業者が「請求書発行時点でVATを納付する方式」を選択している場合には、その旨
といった項目です。
これらの追加項目は一見すると小さな修正のように見えますが、実務では必ずしも軽い変更とはいえません。たとえば、SIREN番号は顧客情報として社内システムに登録されていなければ請求書に自動反映できませんし、納品先住所も販売システムや物流情報と連携していなければ正確に出力できない場合があります。
また、物品供給と役務提供の区別についても、商品マスターや取引分類が曖昧な企業では請求段階で機械的に判定できないことがあります。VATの納付方式の記載についても、税務設定と現場の運用が一致していなければ誤記載の原因となり得ます。
このように、請求書様式の変更だけでは対応できず、基礎データや業務プロセスの整備が前提になる点には注意が必要です。
プラットフォーム選定は避けて通れません
2026年9月以降、企業は電子請求書を国の認可を受けたプラットフォームを通じて送受信することになります。自社の既存システムをそのまま利用する場合であっても、そのシステムが認可プラットフォームと接続できる構成でなければなりません。また、企業は、自社が利用するプラットフォームを事前に指定する必要があります。
さらに、制度上は、同一の企業が受領用と発行用で別のプラットフォームを利用することや、電子請求書(e-invoicing)の送受信とe-reportingのデータ送信で異なる構成を採用することも想定されています。
そのため、「一つのツールを導入すれば対応できる」という単純な問題ではなく、既存の会計システム、販売管理システム、ERP、ワークフローとの整合性を確認しながら設計する必要があります。実際には、経理部門だけで完結するテーマではなく、IT、営業管理、物流、税務担当など複数の部門にまたがるプロジェクトとなるケースも少なくありません。
電子請求書は保存義務にも注意
電子請求書制度への対応は、発行と送受信の仕組みを整えるだけでは十分ではありません。電子請求書の真正性、完全性、可読性を担保するため、租税一般法典第289条7項では複数の手段を認めています。その中には適格電子スタンプの利用も含まれていますが、他にも信頼できる監査証跡、適格電子署名およびEDIといった方法を選択することも可能です。
また、電子的に作成または受領した請求書は、その電子形式のまま6年間保存する必要があります。この保存期間は、税務手続法典第 L102 B 条に基づき、文書が作成された日から起算して計算されます。もっとも、請求書は税法上、発行日の記載が義務付けられているため、実務上は当該発行日を基準として保存期間を計算することが一般的です。
したがって、企業としては、電子請求書を発行・受領できるようにするだけでなく、改ざんされていないことを担保しつつ、一定期間保存し、必要に応じて内容を確認できる状態を維持することまで視野に入れて対応を検討する必要があります。保存方法、検索方法、監査対応、バックアップ体制なども含めて検討しておくことが重要です。
e-reportingも制度の重要な要素です
電子請求書制度という名称から、B2B取引の請求書電子化だけが中心論点のように見えるかもしれません。しかし、実務上はe-reportingも制度の重要な要素です。
B2C取引や国外取引については、請求書そのものを電子請求書として送信するのではなく、取引金額やVAT額、支払情報などの一定のデータを別途税務当局へ報告する仕組みが設けられています。
特に、役務提供についてVATが入金時に発生する場合には、請求書の発行情報だけでは十分ではなく、実際の入金情報も把握する必要があります。そのため、制度対応を検討する際には、請求書発行のプロセスだけでなく、入金消込やキャッシュマネジメントのフローまで含めて見直しておくことが重要になります。
企業が今から準備すべきこと
企業としては、まず自社がいつから電子請求書の発行義務の対象になるのかを確認する必要があります。そのうえで、2026年9月までに電子請求書を受領できる体制を整えることを前提に準備を進めることが重要です。
具体的には、自社の取引を類型ごとに整理し、必要なデータが既存システムから取得できるか、顧客情報や商品情報が適切に管理されているか、請求書処理や保存体制をどこまで見直す必要があるのかを点検することが求められます。
制度開始までの時間は限られていますが、準備を進めることで、電子請求書制度への対応だけでなく、請求・経理プロセス全体の効率化につながる可能性もあります。今後は、制度の理解にとどまらず、社内フローとシステムをどのように実装していくかが実務上の重要なテーマになるといえるでしょう。