※本記事は、一般社団法人日本ブラジル中央協会発行のブラジル特報(2018年5月号)に掲載されたものであり、特段の注記がない限り、当該雑誌掲載日時点の情報に基づいている。
ブラジルの労働法(1943年法5452号。以下「旧法」という。)を改正する法律(2017年13467号。以下「改正法」という。)が、2017年11月11日に施行された。旧法制定から74年を経て初めての大幅な改正である。今回100項目以上の改正が行われたが、その多くが企業に有利な内容になっている。本稿では、実務上重要な改正点について、2回に分けて紹介する。
1.改正の背景及び今後の展望
ブラジルでは、法律上も裁判実務上も労働者保護の色彩が非常に強い。そのため、労働問題がブラジルでビジネスを行う上で大きな負担となっている。今回の改正の多くが企業に有利な内容となっているため、産業界からは多くの期待を寄せられている一方、当然のことながら労働組合などからは強い批判が続いている。
かかる批判を受ける形で、改正法施行直後の2017年11月14日には、早速改正法を一部修正する暫定措置808号が公布された(同暫定措置については2018年4月23日までに国会で議決されることになっている)。また、一部の労働裁判では、改正法に従わない形での判決が出ている。したがって、今回の改正内容が今後維持されるのかはまだまだ不透明な状況である。そして、そのような状況を鑑みて、企業の多くは、改正法に基づく現状の変更には二の足を踏んでいる。
2.企業の日々の労務管理に影響を与える改正項目
(ア)労働時間の取扱いの変更
旧法下では、労働者が社内にいる時間は労働時間と取り扱われるリスクが常にあった。改正法では、悪天候時の待機時間や個人的な勉強時間などは勤務時間とみなされないことが明記された。また、旧法においては、公共交通機関が存在しないなどを理由に会社が通勤バスを提供している場合には、通勤時間も労働時間とみなされていたが、改正法では、あらゆる通勤時間は労働時間とみなされなくなった。
(イ)有給休暇の分割
旧法では、原則として有給休暇(年に30日)は1回で取得する必要があった。改正法では、労働者との合意により、3回に分けて取得することが可能となった(ただし、5日未満は不可、かつ、1回は14日以上)。
(ウ)賃金
改正法において、賃金として扱われないものが明記された。具体的には、必要経費、食事補助費、出張手当、ボーナス等は仮に継続的に支払われていたとしても賃金として取り扱われなくなった。その結果、これらの金額は社会保障費等の算定基礎に含まれなくなる。
(エ)組合費の支払い
旧法では、労働者が労働組合に支払う組合費(給料の1日分)を会社が給料から控除して組合に支払うことが義務であった。改正法では、会社が給料から控除するためには労働者の事前の同意が必要になった。本改正については、労働組合の批判が非常に強く、すでに多くの訴訟が提起されている。そのため、今後の裁判所の判断次第では本改正は事実上無効になる可能性もある。
(オ)雇用契約の終了に関する改正
ブラジルでは原則として解雇は自由である。改正法では、旧法下では要求されていた解雇時の労働組合の認証を不要にした。また、これまで認められていなかった会社及び労働者の合意による雇用契約の終了が新設された。合意解約の場合、解雇に比べて会社が支払う解約金が少なく済み、また、労働者はFGTSという退職補償金を一定額まですぐに引き出せるというメリットがある。
(カ)アルバイト
改正法により、日本のアルバイトのように、時間、日又は月単位で就労する雇用形態(Trabalho Intermitente)が新設された。これにより、1日に数時間、週に数日といった雇用が可能となる。ただし、本形態については暫定措置808号により多くの修正が加えられるなど不透明な点が多く、実務に定着するにはまだまだ時間がかかると思われる。
(キ)在宅勤務
改正法により、在宅勤務が明文化された。在宅勤務の場合、原則として勤怠管理を行う必要ななく、その結果残業代は発生しない。その他の権利は他の労働者と同じである。
(ク)アウトソース
従来アウトソースは、裁判例により、清掃、警備業務などの非コア業務に関してしか認められていなかった。2017年3月に、労働法とは別の法律(2017年法13429号)においてアウトソースに関する条文が新設されたが、同法では許容されるアウトソースの範囲・要件が不明瞭であった。そのため、改正法でアウトソースに関する改正も行われ、いかなる業務に関してもアウトソースが可能であることが明記された。
(ケ)高額給与所得者との特別の合意
大学卒で、かつ、社会保障制度(Regime Geral de Previdência Social)の給付金上限額の2倍以上の給与(現在は11,062.62レアル)を受け取っている労働者との間で、一定事項(労働時間、残業時間の振替、休憩時間、休日の変更等)に関して個別合意をした場合、当該合意が労働協約や労働法より優先されることになった。また、かかる者との間では、雇用契約に記載することにより、紛争解決手段として仲裁制度を利用することができるようになった。