※本記事は、一般社団法人日本ブラジル中央協会発行のブラジル特報(2019年7月号)に掲載されたものであり、特段の注記がない限り、当該雑誌掲載日時点の情報に基づいている
事業運営するために第三者に業務の一部を委託することは不可欠であり、ブラジルでも一般的に行われている。業務委託の内容によっては特別法が適用されることもあり、また、紛争に発展しやすいケースもある。そこで、業務委託に適用される主な法律や留意すべき事項について解説する。
1.業務委託一般
従前は、判例上、会社の非主要業務(清掃や警備など)以外は第三者に業務委託することは認められていなかったが、2017年に、1974年法6019号が改正され、主要業務の委託も可能となった。業務委託した場合、受託企業の従業員が委託者の会社内で業務に従事した場合、委託者は、当該受託企業の従業員に対して、自社の従業員と同じ条件で、食事施設、交通手段、医療サービスなどを利用させる必要がある。また、受託企業がその従業員に対して賃金未払いがある場合、委託者は二次的な責任を負う。
2.業務受託者との雇用関係
業務委託契約において、委託者が業務に従事している受託企業の従業員を直接指揮命令することが日本でも「偽装請負」と呼ばれ問題になっているが、ブラジルでも同様の問題がよく生じる。典型的な事例の一つは、実質社長一人の法人に販売業務などを委託していた場合に、当該社長が委託者から直接指揮命令を受けていたとして訴えてくる場合である。
3.派遣
ブラジルにも日本の派遣と同様の制度があり、企業(派遣先)は、派遣契約のもと、他社(派遣元)の従業員(派遣社員)を自社業務のため使用することができる。派遣は、正社員の臨時的な欠員(産休など)や一時的な業務の増加といった例外的な場合のみ許されており、派遣期間は最大180日間(90日間の延長可能)となっている。業務委託の場合と異なり、派遣の場合、派遣先が派遣社員に指揮命令することができる。派遣先は、派遣社員に対して、自社の従業員と同じ条件で、食事施設、交通手段、医療サービスなどを利用させる必要がある。また、派遣元が派遣社員に対して賃金未払いがある場合、派遣先は二次的な責任を負う。
4.販売委託に適用される特別法
販売委託に関しては、契約形態がAgent方式(販売代理店が単なる仲介者である形態)かDistributor方式(販売代理店が製品を購入しエンドユーザーに転売する形態)かにより適用される法律が異なる。また、対象となる製品によって特別の法律が適用されることがある。詳細は、本誌2018年9月号(1646号)を参照していただきたいが、契約を締結する際に特に留意する必要があるのは以下の点である。
契約期間の定めの有無 |
契約期間の定めの有無によって契約解除時の補償金額が変わる |
独占権・独占義務の有無・範囲 |
適用される法律によって独占権・独占義務の捉え方が変わるため契約書で明記すべきである。また、一度独占権を付与すると変更するためには相手方の同意が必要になるため慎重に検討すべきである |
特別の解除条項の有無 |
最低販売数に達しない場合の解除権を契約書で規定することなどが考えられる |
5.独占禁止法(下請業者の保護)
日本では、業務委託に際して、下請取引の公正化や下請業者の利益保護を図るための特別な法律(下請代金支払遅延等防止法。通称「下請法」)があるが、ブラジルではこのような特別法はなく、一般法である独占禁止法(2011年法12529号)によって、下請業者が不当に不利益を受けないように保護されている。
ブラジル独占禁止法では、日本の独占禁止法と同様に、競争法に反する行為としていくつかの行為が例示されているが、業務委託の関係で留意すべきは、以下の点である。
再販売価格制限 |
日本と同様に、サプライヤーが、販売代理店のエンドユーザーに対する販売価格を制限すると、原則として独占禁止法違反となる |
優越的地位の濫用 |
市場において支配的地位を有する者がその地位を濫用した場合は独占禁止法違反となる。「支配」は種々の事情を考慮して判断されるが、市場シェアが20%以上であれば原則として支配的地位があると判断される。濫用の事例としては、自社の競合企業との取引の禁止、抱き合わせ販売などがある。 |
6.個人情報保護法
クラウドサービスの利用など、自社が保有する個人情報の取り扱いを第三者に委託する場合、個人情報保護法(2018年13709号。2020年施行予定)に従う必要がある。同法の詳細は本誌2018年11月号(1647号)を参照していただきたいが、業務委託の観点で重要なことは、適切な個人情報保護の体制を整えている会社に業務委託することである。また、個人情報の漏洩等を防止するために適切な契約を締結することも重要となる(現時点では、ブラジルの個人情報保護法では業務委託契約において規定すべき事項は明記されていない)。
7.著作権
システム開発を委託すると、受託者がシステムを構築することになるため、契約書に何も明記しないと、当該システムに係る著作権は受託者が有することになる。そのため、業務委託契約書に、著作権の譲渡について規定する必要がある。