※本記事は、一般社団法人日本ブラジル中央協会発行のブラジル特報(2020年7月号)に掲載されたものであり、特段の注記がない限り、当該雑誌掲載日時点の情報に基づいている。
1. 経済活動の停止
新型コロナウイルス感染症の拡大防止措置(経済活動の原則禁止など)により、ブラジルの経済も大きな影響を受け、売上の減少から経営危機に陥る会社が増加している。その結果、今後倒産手続を申請する会社も増えると予想される。そこで、本稿では、ブラジルにおける倒産手続の概要を解説する。
2. ブラジル倒産法
企業及び事業活動を行っている個人の倒産手続は、①破産手続(Falência。以下「破産」)、再生型の手続として、②裁判上の再生手続(Recuperação Judicial。以下「裁判上再生」)及び③裁判外の再生手続(Recuperação Extrajudicial。以下「裁判外再生」)の3つがあり、国営企業や金融機関等を除き、いずれも倒産法(2005年法律第11,101 号)により規律される。
3. 各手続の概要
(1) 申立権者
破産 |
裁判上再生 |
裁判外再生 |
債務者・債権者 |
債務者 |
債務者 |
(2) 申立要件
破産 |
裁判上再生 |
裁判外再生 |
経済的・財務的危機に陥っていること(未払債務が最低賃金の40倍以上の場合などにおいて裁判所は破産決定する) |
過去2年間事業活動を行っていること、過去5年間裁判上再生を行っていないことなど |
過去2年間事業活動を行っていること、過去5年間裁判上再生を行っていないことなど |
(3) 各手続の概要
破産 |
裁判上再生 |
裁判外再生 |
①破産手続の申請 ②裁判所による破産決定及び管財人の選任 ③管財人による債権者及び債権額の確定(債権者は異議申立可能) ④管財人による財産の処分・裁判所の承認 ⑤法定された順位に従い債権者へ支払い ⑥一定の要件を満たしたのち債務が免責される |
①再生手続の申請 ②裁判所による手続開始決定及び管財人の選任 ③再生計画の提出 ④債権者(税金等は対象外)による承認(債権の種類に応じて4つのグループに分けられ、各グループの承認が必要。承認の要件は各グループによって異なる) ⑤裁判所の承認(上記④の承認を得られない場合でも、一定の場合には、裁判所は再生計画を承認できる) ⑥再生計画の実行 |
①裁判外再生の対象となっている債権者(労働債権、税金等は対象外)との間で再生計画に合意する(債権者のグループごとに債権額の5分の3を超える承認が必要) ②裁判所による再生計画の承認 ③再生計画の実行 |
(4) 債権者の地位(担保権の実行、相殺)
破産 |
裁判上再生 |
裁判外再生 |
一部の例外を除き原則として担保権を実行できない。破産決定時点までに期限が到来している債権であれば、不正行為等がない限り相殺可能。 |
一部の例外を除き再生手続開始決定から180日間は担保権の実行はできない。相殺については倒産法に規定なし。 |
法律上は債権者の権利行使を制限する規定はない(再生計画に規定することは可能) |
(5) 役員の地位
破産 |
裁判上再生 |
裁判外再生 |
役員は経営権を失う。管財人への協力義務に留まる。 |
原則として役員は経営にそのまま関与する(管財人は監督する機能のみ) |
原則として役員は経営にそのまま関与する |
(6) 労働者の地位
破産 |
裁判上再生 |
裁判外再生 |
解雇される。未払賃金は破産債権となる |
ただちに解雇されることはない。未払賃金は再生計画の承認後1年以内に支払われる |
特に影響なし。 |
(7) 既存契約の効力
破産 |
裁判上再生 |
裁判外再生 |
契約の維持又は解約を管財人が決定 |
法律上特に規定なし(契約内容に従う) |
法律上特に規定なし(契約内容に従う) |
(8) 役員及び株主の責任
破産 |
裁判上再生 |
裁判外再生 |
不正行為等がない限り、破産や再生したことについて役員及び株主は責任を負わない。ただし、労働債務やその他の特別の債務については責任を負う可能性はある。 |
4. 詐害行為取消(クローバック)
破産手続の場合、破産手続申請前の行為について、①取引の相手方が債務者の財務状況を認識している場合、かつ、②債務者が他の債権者を害する意図がある場合、管財人が取り消すことができる。なお、破産手続申請前の一定期間(90日を超えない範囲で裁判所が定める)内における、支払期限の到来していない債務の支払いや新たな担保権の設定などは、上記①及び②の有無にかかわらず管財人は取り消すことができる。一方、善意の第三者は、引き渡した物の返却等を求めることができる。なお、再生手続については、詐害行為取消の規定はない。
5. 再生計画の実行
財務状況が悪化している会社の再生には新たな資金や不要な事業の売却等が不可欠である。そのため、倒産法は、裁判上再生手続における新たな資金提供者や事業の購入者が不測の不利益を被らないような手当を講じている。まず、新たな金銭貸付(一般的にDIPファイナンスと言われる)を、特別優先債権として扱い、仮に債務者が破産手続に移行した場合、ほかの債権者に優先して弁済を受けられるようにしている。次に、債務者の事業や資産の売却を容易にするため、事業や資産の購入者が、当該事業や資産に紐づく簿外債務(税務、労務含む)を承継しないこととしている(親会社、子会社等が承継する場合は除く)。なお、裁判外再生の場合には、特別優先債権と扱われる規定や簿外債務を承継しない規定は存在しない。