※本記事は、一般社団法人日本ブラジル中央協会発行のブラジル特報(2020年3月号)に掲載されたものであり、特段の注記がない限り、当該雑誌掲載日時点の情報に基づいている。
1. 経済自由法の目的
2019年9月20日、経済自由法(2019年法13874号。原題はLei 13.874/2019 Lei da Liberdade Econômica)という新しい法律が成立し、同日から施行された。同法は、ブラジル経済の活性化を目的としており、新規ビジネスの開始の容易化や自由な事業運営の保障等に関する新たな制度が設けられた。同法1条で経済的自由権が宣言され(Declaração de Direitos de Liberdade Econômica)、同法2条では、同法の基本原則が、(1)経済活動の自由の保障、(2)公的手続きにおける当事者の信義誠実、(3)経済活動に対する公的機関の介入の抑制及び(4)行政機関に対する民間企業の脆弱性の認識の4つであることが規定されている。同法は、民法、会社法、労働法等の幅広い分野に改正を加えているが、一部の条項については、税務に関する事項及び金融に関する事項については適用されない(同法1条3項)。以下、主要なポイントについて解説する。
2. 行政手続きに関する事項
経済自由法の目的の一つが行政手続きの簡易化や明確化である。経済活動に具体的に影響のある主な点は以下である。
手続きの簡易化 |
・ローリスクと認められる事業について、公的機関の許認可等の取得が不要になる(現時点では、どのような許認可等が不要になるのかは明確ではない。ローリスクと認められる要件はRESOLUÇÃO Nº 51, DE 11 DE JUNHO DE 2019に規定されている) ・公的機関に登録されている情報は、システム上連携している他の公的機関に自動的に同期される(現時点でもそのような連携をしている公的機関もあるが今後かかる連携が増えることが見込まれる) |
手続きの明確化・経済活動の自由の保障 |
・同種の手続きは同様に扱う(前例に従う)ことが明記された ・行政手続きにおける審査期間が告知された場合、当該期日中に行政機関から審査についての返答がなければ行政機関による承認があったものとみなされる ・行政ルールの適用に関して、行政による権限濫用となるような行為(新規参入妨害、不必要な技術的要件の要求など)の禁止 ・連邦レベルの規則を変更する際には、事前にその影響の検証が行われる |
3. 会社の運営に関する事項
まず、大きな改正点として、株主が1人で足りる法人形態が認められたことが挙げられる。ブラジルの法人形態の多くはSociedade Limitada(日本の合同会社に類似する形態)かSociedade Anônima(株式会社)であるが、いずれの形態も株主が2人以上必要であった。経済自由法により、Sociedade Limitadaの場合、株主が1人で足りることになった(Sociedade Unipessoal Limitadaと言われる)。なお、EIRELI(Empresa Individual de Responsabilidade Limitada)という法人形態が従前から存在し、同形態は株主1人でも足りたが、法人が株主になれるか否かについて従前議論があり、また、最低資本金の規定があることなどからあまり利用されなかった。
次に、法人格否認の法理についてのルールが明確化された。ブラジルにおいては、法人格否認の法理に基づき、会社の債務について、株主や役員が責任を負わされることが少なくない(特に労働債務)。これは、法人格否認の法理の根拠法である民法が、「法人格が濫用された場合」又は「法人格が混同されている場合」に役員や株主が責任を負うとしか規定しておらず、どのような場合に、濫用や混同に該当するのかについて裁判所の裁量の幅が広かったためである。経済自由法は、法人格が否認される「濫用」と「混同」の定義を設けるとともに、株主又は役員が責任を負うのは、株主又は役員が直接又は間接に当該行為から便益を受けていた場合に限定した。
4. 公的機関による私的活動への介入の抑制に関する事項
契約の解釈について当事者間で疑義が生じた場合、最終的には裁判で解決することになるが、その解釈は、裁判所の裁量に委ねられる。その点について、経済自由法は、裁判所は、契約の解釈については、可能な限り契約の文言に忠実に行うことを明記した。これにより、裁判所による恣意的な解釈が抑制されるとともに、契約の文言の重要性がより高まったと言える。
また、法律行為の解釈について、法律行為後の当事者の態度、慣習・伝統・マーケットプラクティス、契約書のその他の条項から何が当事者にとって合理的かなどを考慮して判断されることも新たに規定された。これにより、裁判所の判断が当事者の意思や実務からかけ離れたものになることが少なくなると考えられる。
5. 労働法に関する改正
労働法に関する改正の一つは、労働時間の管理についてである。労働時間の管理については、これまで従業員が10人未満の会社のみ免除されていたが、これが20人未満に変更された。さらに、労働者との個別合意又は労働組合との労働協約があれば、労働者の人数にかかわらず、所定労働時間以外の時間のみ管理することも可能となった。
また、従業員の給与や社会保障などに関する情報を管理するシステムであるeSocialが廃止され、今後新たに創設されるより簡単なシステムに移行することになった。