※本記事は、一般社団法人日本ブラジル中央協会発行のブラジル特報(2020年11月号)に掲載されたものであり、特段の注記がない限り、当該雑誌掲載日時点の情報に基づいている。
- ANVISAライセンスとは
ブラジルにおいて、医薬品等の公衆衛生にリスクを及ぼし得る製品を製造、販売等するためには、国家衛生監督庁(Agência Nacional de Vigilância Sanitária。以下「ANVISA」という)という国家機関の許可(以下「ANVISAライセンス」という)を取得する必要がある。ANVISAライセンスは、ポルトガル語でAutorização de Funcionamento de Empresa(日本語で法人事業許可。以下「AFE」という。)と呼ばれるものである。ANVISAライセンスに関する法令は多岐にわたり、その内容を正確に理解することは非常に難しい。そのため、実際の取得手続に際しては、法律事務所などの専門家による支援が不可欠である。本稿では、複雑なANVISAライセンスの取得手続の概要とその回避方法を紹介する。
- ANVISAライセンスが必要な製品・サービス
ANVISAは、公衆衛生にリスクを及ぼし得る製品・サービスについて規制、管理、監視を行う機関として1999年法9782号に基づき設立された。同法8条では、ANVISAが管理する対象製品・サービスとして、医薬品、食品、化粧品、医療機器、衛生用品(消毒剤)、たばこなど11項目が規定されている。ただし、同条に規定されている製品・サービスであっても、ANVISAではない別の国家機関による許認可等が必要な場合もあり、また、農薬など、同法8条には直接的に規定はされていないがANVISAによる認証が必要な場合もある。さらに、同法によりANVISAが管理する製品・サービスとされている場合も、ANVISAライセンスが不要なケースもある(食品の一部など)。
- ANVISAライセンスの取得手続
(1)製品の種類及び事業内容によって手続が異なる
ANVISAライセンスの取得手続や必要書類は、製品カテゴリー(医薬品、医療機器、化粧品など)及び事業内容(製造、保管、卸売、輸入など)によって異なる。また、各製品カテゴリーにおいても、健康被害のリスク等に応じて品目分類がなされ、取得手続は品目によっても異なる。したがって、ANVISAライセンスを申請する場合は、まず、自社の製品及び事業内容に対してどのような手続が適用されるかを確認する必要がある。なお、事業内容によっては、対象となる製品やサービスを取り扱う場合でもANVISAライセンスが不要となる場合もある。たとえば、化粧品や衛生用品の小売り事業、医薬品等の原材料の製造・販売、医療機器のメンテナンス事業の場合は、ANVISAライセンスは不要となっている(ただし、この場合も、後述のLFは必要となる)。
(2)衛生管理局による許可
上述のとおり、ANVISAライセンスの取得手続は製品のカテゴリー等によって異なるが、共通するのは、ANVISAライセンスを取得するためには、別途、申請者が所在する地域の衛生管理局(Centro de Vigilância Sanitária)から、事業ライセンス(Licença de Funcionamento Local。以下「LF」という)を取得する点である。LFの発行に関するルールは各衛生管理局が定めており、必要書類も各衛生管理局により異なる。衛生管理局は、LF発行に際して、申請者の本店所在地の検証及び申請者の監査を行う。また、衛生管理局は、申請者が製品を保管する予定の場所が、法令等の要件を満たしているかも確認する。
(3)特別のライセンス、GMP認証
製品の種類によっては、AFEとは別のライセンスをANVISAから取得する必要がある。たとえば、指定の成分が含まれる医薬品についてはAutorização Especial de Empresa (法人特別許可)という特別のライセンスも取得する必要がある。
また、カテゴリー又は品目によっては、製品登録に際してGMP 認証(グッド・マニファクチャリング・プラクティス。ポルトガル語ではBoas Práticas de Fabricação)の取得を要求されることがある。
- ANVISAライセンスの取得手続の回避方法
ANVISAライセンスの取得にかかる期間は、ここ最近短くなってきていると言われているが、それでも、取得まで1年~2年かかる可能性はあり、また、正確な期間を予測することは難しい。そこで、かかる手続を回避する方法として、ANVISAライセンス(AFE)及び衛生管理局ライセンス(LF)をすでに保有しているペーパーカンパニー(英語ではShelf Companyなどと呼称される)を購入することも行われている。そのようなペーパーカンパニーを売却することをビジネスとして行っている業者が存在し、また、そのようなペーパーカンパニーの売買を仲介する業者も存在する。
ペーパーカンパニーの購入であっても、購入前にデューディリジェンスを行うことが一般的であるが、ペーパーカンパニーは実際の事業を行ったことがない会社であるため、訴訟や簿外債務が存在することは通常ない。デューディリジェンスで最も重要な点は、ANVISAライセンスが適法に取得されており、かつ、自社(買主)が行おうとしている事業に適したライセンスか否かを確認することである。これには、製品の保管場所がANVISAの定める要件を満たしているかの確認や、薬剤師の雇用が必要な製品である場合には薬剤師との契約の確認も含まれる。
なお、ペーパーカンパニーが保有しているAFEが、自社(買主)が行おうとしている事業に関係のないものを含んでいる場合には、購入後に不要な部分を削除(登録取消し)することが望ましい。不要な部分について無駄な作業やコストが発生する可能性があるためである。