※本記事は、一般社団法人日本ブラジル中央協会発行のブラジル特報(2021年7月号)に掲載されたものであり、特段の注記がない限り、当該雑誌掲載日時点の情報に基づいている。
1.ドローンを利用したビジネスの拡大
ドローンに関するビジネスはブラジルにおいても拡大しており、農薬散布や建設インフラの点検などドローンを利用した多くのビジネスが生まれている。また、今後は物流などにおいてもドローンが使われていく可能性がある。本稿では、ブラジルにおけるドローンに関する法的規制の概要について解説する。
2.監督機関
ドローンに関する監督機関は以下の3つである。
民間航空国家機関(Agência Nacional de Aviação Civil:ANAC) | 民間航空の監督をする機関で、ドローンに関する規制の制定及び登録を行う |
航空管制局(Departamento de Controle do Espaço Aéreo:DECEA) | 空域の監視を行う機関で、ドローンに関する規制の制定及び登録を行う |
電気通信国家機関(Agência Nacional de Telecomunicações:ANATEL) | 無線通信を監督する機関で、ドローンの認証を行う |
3.主要な法律・規則
ドローンの登録や許可、飛行場所や飛行方法に関するルールは、主にANAC及びDECEAが制定している。ANAC及びDECEAが制定している規則は多くあり、たとえば、ANACが制定したRBAC-E 94(REGULAMENTO BRASILEIRO DA AVIAÇÃO CIVIL ESPECIAL 94)はドローンに関する主要な規則の一つで、ドローンの飛行のために必要な登録や許可などについて規定されている。また、DECEAが制定したMCA 56-2は娯楽目的のドローン飛行のルールが規定されている。さらに、ANAC及びDECEAの規則のほか、航空機に関する一般法である航空法(1986年法7565号)、民法、刑法、消費者保護法、行政法等も、操縦者に対する罰則、民事上の損害賠償責任、製造物責任、第三者のプライバシー保護等に関連して適用される。
なお、ドローンに関する規制は、ドローンの利用目的が娯楽目的か否か(商用、研究など)及び最大離陸重量によって異なる。最大離陸重量は以下の3つに分類され、第三種ドローンは、さらに、最大離陸重量を250グラム以下のものと250グラムを超えるものに分けられる。
分類 | 最大離陸重量 |
第一種 | 150キログラムを超えるもの |
第二種 | 25キログラムを超え150キログラム以下のもの |
第三種 | 25キログラム以下のもの |
4.具体的なドローンに関するルール
(1)監督機関からの認証の取得・ドローンの登録・許可
ANATEL |
すべてのドローンは無線通信の認証が必要となる。なお、ブラジルで販売されているドローンの多くはすでに認証を得ているので、その場合、購入者が認証を改めて取得する必要はない |
ANAC |
・250グラム以下のドローンは許可や登録は不要 ・250グラムを超える第三種ドローンについては、目視外飛行ではなく、かつ、高度400フィート未満の飛行の場合は、ANACのSISANTという簡易システムで登録すれば足りる ・上記以外はANACの特別の許可が必要 ・ドローンの登録時に発行される識別情報はドローンの機体に付ける必要がある ・第一種・第二種ドローン、目視外飛行及び高度400フィートを超える飛行の場合は、ANACから対空証明書を取得する必要がある |
DECEA |
一定の場合(250グラム以下のドローンなど)を除き、SARPASというシステムによる登録が必要 |
(2)操縦ライセンス等
a.400フィートを超える飛行をする場合並びに第一種及び第二種ドローンの場合は、操縦ライセンスが必要となる。
b.非娯楽目的のドローンの場合は18歳以上のみ操縦できる。
c.第一種及び第二種ドローンの場合並びに第三種ドローンの場合で400フィートを超える飛行を行う場合は、医師の診断書を取得する必要がある。
(3)飛行場所に関する規制
飛行場所についての規制は様々なものがある。以下では飛行場所に関する規制の一部を紹介する。
a.250グラムを超えるドローンは、その目的にかかわらず、ドローン飛行と無関係の人から30メートル以上離れて飛行しなければならない。ただし、無関係の人の同意がある場合又は機体と人との間に遮蔽物がある場合は除く。
b.空港、刑務所、軍事施設等の重要な施設上空の飛行は禁止。
c.空港周辺については、高度によって飛行可能場所が異なり、また、DECEAの許可が必要な場合もある。
d.ビルから30メートル以上離れて飛行する必要がある。
(4)飛行方法に関する規制
a.完全な無人飛行(操縦士が飛行中コントロールできない飛行)はできない。
b.一度に複数のドローンを操縦することはできない。
c.アルコール及びドラッグの影響下での操縦はできない。
d.人、動物、危険物等を運ぶことはできない。
e.娯楽目的の場合、都市部で飛行させる場合は高度40メートル以下及び時速40km以下、非都市部の場合は高度50メートル以下及び時速100km以下で飛行しなければならない。
(5)保険
非娯楽目的で250グラムを超えるドローンを飛行させる場合、保険に加入する必要がある。
5.罰則
上記ルールに違反した場合は、航空法やANAC、DECEA及びANATELに規定される行政罰が適用される。また、ドローンにより海運、河川、航空輸送等の安全に危険を及ぼした場合などは刑法に規定される刑事罰が科せられる。さらに、ドローンによる写真・動画の撮影により第三者のプライバシーを侵害した場合には、民事上の損害賠償責任を負う。