※本記事は、一般社団法人日本ブラジル中央協会発行のブラジル特報(2021年5月号)に掲載されたものであり、特段の注記がない限り、当該雑誌掲載日時点の情報に基づいている。
人口2億人以上を抱える巨大なマーケットであるブラジルには、日本の製造業者やサービス業者も多く進出している。製造業者やサービス業者にとって製造物責任や広告規制などの消費者を保護する法律は関心の高いテーマの一つである。そこで、本稿では、ブラジルの消費者保護法制の主要な点を、日本の消費者保護法制と比較しながら紹介する。
1.消費者保護法
ブラジル憲法5条XXXII号に「国家は、法律の定めるところにより、消費者保護を促進する」との規定があり、それを受けて、消費者保護法(1990年法8078号)が消費者を保護する具体的な規定を設けている。ブラジル消費者保護法は、日本における、消費者契約法(契約の不当条項の無効や契約の取消しなどを規定)、特定商取引に関する法律(通称「特定商取引法」。クーリングオフなどを規定)、製造物責任法(欠陥商品に起因する損害賠償などを規定)、不当景品類及び不当表示防止法(通称「景品表示法」。偽装表示・誇大広告の禁止などを規定)をすべて含む法律である。
2.ブラジル及び日本における消費者保護法制の主要なポイント
(1)保護される消費者の範囲
ブラジル、日本いずれにおいても、消費者保護法制の目的は、情報量や交渉力に関して事業者より弱い立場にある消費者を保護することである。もっとも、保護される「消費者」の範囲は両国間で異なり、また、法律によっても異なる。
ブラジル | 日本 |
商品・サービスを最終ユーザーとして利用する限り、法人も消費者に含まれる。ただし、購入者と事業者が「消費者と事業者」という関係にない場合は、通常の商取引として消費者保護法は適用されない |
・消費者契約法及び特定商取引法で保護されるのは自然人のみである ・製造物責任法は法人も保護対象となる |
(2)クーリングオフ
ブラジル | 日本 |
7日以内であれば契約を取り消せる。日本と異なり通信販売もクーリングオフの対象になる(2013年政令7962号) | 取引形態によって8日又は20日以内であれば契約を取り消せる。通信販売は対象外となっている |
(3)商品・サービスの欠陥に関する責任(日本の製造物責任)
商品やサービスの欠陥や不十分な使用上の警告に起因する損害を賠償する責任である。
ブラジル | 日本 |
・動産・不動産だけではなくサービス(修理など)も対象となる ・製造、生産、建設及び輸入した者が責任を負い、例外的に、これらの製造者等が特定できない場合や製造者等を明確に表示していない場合は販売者も責任を負う。生鮮品の場合は、生産者を明示していない限り販売者が責任を負う。サービスの場合は、サービスの提供者が責任を負う ・事業者が欠陥を知らなくても責任を負う ・消滅時効は損害及び原因を知った時から5年 |
・動産のみが対象 ・製造、加工又は輸入した者が責任を負い、例外的に、自らを製造者等として表示した場合や実質的に製造者等と判断される者も責任を負う ・事業者が欠陥を知らなくても責任を負う ・消滅時効は損害及び賠償義務者を知った時から3年又は商品を受け取ってから10年 |
(4)契約不適合責任(瑕疵担保責任)
商品の瑕疵、数量不足、契約内容との不一致等についての責任である。
ブラジル | 日本(民法) |
・消費者は代替品の提供、代金の返金又は減額を要求できる ・非耐久消費財の場合は30日以内、耐久消費財の場合は90日以内に請求する必要がある |
・代替品の提供、代金の減額を要求できる(解除は民法の一般原則に従う) ・種類又は品質に関する契約不適合の場合、契約不適合を知った時から1年以内に通知する必要がある。数量又は権利に関する契約不適合の場合は期間制限はない(民法の一般原則に従う) |
(5)補修用部品の保管期間
ブラジル | 日本 |
生産者及び輸入者は、商品の生産や輸入を行っている期間及び商品の生産や輸入を終了した場合は終了後から合理的な期間、補修用部品を保管する必要がある | 法律上の規定はない(業界団体による自主的なガイドラインはある) |
(6)広告規制
ブラジル | 日本(景品表示法) |
誤解を招くような広告(品質や価格に誤解を与えるような広告など)や不正な広告(差別的な広告や恐怖や迷信を利用した広告など)は禁止される | 不当な表示(優良誤認、有利誤認など)や過大な景品類の提供が禁止される |
(7)契約に関する規制
ブラジル | 日本(消費者契約法) |
・事業者の責任を軽減又は免責する規定(法人消費者の場合は責任を制限することは可能)、第三者に責任を移管する規定、消費者に不合理な不利益を与える規定などは無効 ・抱き合わせ販売の禁止、消費者の弱みや無知に乗じて商品を提供することの禁止など |
・消費者は、不当な勧誘(重要事実について事実でない説明、不利益な事実を告げない説明等)により締結された契約を取り消せる ・事業者の責任を免責する規定、消費者の解除権を制限する規定などは無効 ・抱き合わせ販売等、独占禁止法で規制されているものもある |