※本記事は、一般社団法人日本ブラジル中央協会発行のブラジル特報(2021年9月号)に掲載されたものであり、特段の注記がない限り、当該雑誌掲載日時点の情報に基づいている。
1. はじめに
Electronic Sportsの略称である「eスポーツ」は、コンピューターゲーム(ビデオゲーム)を使用して行う競技である。eスポーツのブラジルでの人気は非常に高く、現在では世界で3番目のeスポーツファンを抱えていると言われている。今後eスポーツ事業は益々拡大していくことが予想される。そこで、本稿では、ブラジルにおけるeスポーツに関する規制の主要な点を、日本の法規制と比較しながら紹介する。
2. eスポーツ大会に選手として参加することについての法規制
(1)日本における規制
日本は刑法において賭博行為を禁止している。一般的に、「賭博」とは、偶然の勝敗により財物や財産上の利益の得喪を争う行為と言われている。「偶然の勝敗」に関して日本の裁判例は、偶然性が多少でも認められれば、「偶然の勝敗」にあたるとしている。そのため、日本においては、参加費が徴収される(参加費が賞金の原資となる)eスポーツ大会に参加すると、参加選手に賭博罪が成立する可能性が高いため(自分のお金を賭けて賞金を得るため)、一般的に、参加費を徴収する形の大会はほとんどない。
(2)ブラジルにおける規制
ブラジルにおいても賭博行為は禁止されているものの、賭博行為に該当するためには、「勝敗が専ら又は主に運に左右されること」が必要になる。かかる条文の文言からは日本よりも賭博になりにくいと考えられるが、賞金付きのeスポーツ大会に参加すること自体の賭博該当性についてはほとんど議論されていない。なお、ポーカーについては、勝敗が専ら又は主に運に左右されないスキルゲームとして適法とする見解がある。
3. eスポーツ大会を主催することについての法規制
(1)日本における規制
日本において、eスポーツ大会を主催する際に留意しなければならない主な法令は以下のとおりである。
日本の法規制 |
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刑法 |
賭博行為を主催すると大会主催者には賭博場開帳図利罪が成立し得る。 |
風俗営業法 |
会場にゲーム機等の遊技設備(通信可能なPC等の汎用性のある機器を除く。)を設置する場合、ゲームセンター営業に該当するとして、営業許可を受ける必要がある。また、賞金の拠出が禁止されるため、賞金付き大会の開催は行うことができない。 |
景品表示法 |
ゲーム会社が、自社のゲームを用いた大会に賞金を拠出する際に、大会賞金に上限が課せられる可能性がある。 |
著作権法 |
ゲームやゲーム機を利用した大会を開催する場合、当該ゲームやゲーム機の知的財産権を有するゲーム会社から許諾を得る必要がある。 |
(2)ブラジルにおける規制
ブラジルにおいては、現時点において、eスポーツ大会を主催すること自体に関する規制はない。ただし、日本と同様に著作権者の同意なくゲーム等を使用すると著作権法に違反する。なお、日本のようにゲーム会社による賞金拠出に関する規制がないこともあってか、ゲームの販売元が公式大会を開催する事例が多く、著作権法上の問題が生じることは多くない。
4. ベッティング(第三者による賭博)に関する法規制について
(1)日本における規制
日本においては、サッカーのtotoや競馬など法律上特別に認められている場合を除き賭博行為は違法となる。そのため、eスポーツを対象とするベッティングは違法となる。
(2)ブラジルにおける規制
ブラジルにおいても、賭博行為は禁止されているが、例外として、許認可を受けた競馬や賭けた時点の倍率で払い戻される固定オッズでの第三者によるスポーツベッティングは適法である。そのため、ブラジルにおいて、固定オッズによるスポーツベッティング事業は拡大している。
eスポーツへのベッティングについては議論があるものの、スポーツと同様に考えた場合には、固定オッズでのベッティングは適法となると考えられる。
なお、賭博行為がブラジル国外で行われる場合にはブラジル法の適用は受けない。ブラジル国外の会社が提供しているオンライン賭博サービスの賭博該当性はいまだ裁判例がないが、今後議論される可能性がある。
5. ブラジル法と日本法との比較まとめ
eスポーツに関するビジネスの観点でブラジル法と日本法の規制を比較すると以下のようになる。
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日本 |
ブラジル |
賞金付き大会への参加 |
参加費が賞金の原資となっている場合には賭博に該当する可能性が高い |
eスポーツの賭博該当性についてはあまり議論がされていない。 |
eスポーツ大会の主催 |
各種の規制がある |
規制はない |
スポーツベッティング |
賭博に該当する |
賭博に該当する。 |
6. ブラジルにおけるeスポーツに関する法整備について
数年前からeスポーツに関する法整備についての議論が行われているため、今後eスポーツ大会の主催やeスポーツへのベッティングなどに関して規制がかかる可能性がある。そのため、今後eスポーツに関する事業を行うに際しては最新の法令の状況を確認すべきである。