※本記事は、一般社団法人日本ブラジル中央協会発行のブラジル特報(2022年1月号)に掲載されたものであり、特段の注記がない限り、当該雑誌掲載日時点の情報に基づいている。
1. 環境保全を取り巻く状況
大豆、トウモロコシ、牛肉などの農作物の生産拡大が著しいブラジル農業は、近年、欧米から森林伐採を伴った開発であるとして厳しい目が向けられている。ブラジル国内メディアにおいても、違法伐採が近年増加傾向にあることを示すデータが大きく取り上げられ、違法な森林伐採を容認するような姿勢を示すボルソナーロ大統領に対する批判が強まっている。
そのような状況下で、ボルソナーロ政権は、経済発展と環境保護の両立の方針を国内外に強く主張し、2021年10月31日から11月12日まで英国で開催されていた国連気候変動枠組み条約第26回締結国会議(COP26)において、2028年までに違法な森林破壊をゼロにし、2030年までの温室効果ガス排出量削減を43%から50%に引き上げるなど、新たな目標を公表した。
森林破壊に関しては、後述のとおり、2012年に施行された新森林法(2012年法12,651号。一般的にNovo Código Florestalと言われている)により、環境保全が図られているが、アマゾンなどの地域における森林伐採の94%は違法であるとするブラジルの環境団体の調査結果(2021年5月発表)があるなど、実際の取り締まりには多くの課題があると言わざるを得ない。
このように難しい舵取りを求められるブラジルアグリビジネスではあるが、違法森林伐採対策・脱炭素・サステナブル農業等を後押しする様々な法制度の整備が近年進んでいる。本稿ではいわゆるグリーンビジネスに繋がり得る法制度をいくつか紹介する。
2. グリーンビジネスに繋がり得る法制度
(1) 新森林法
新森林法は、経済開発と森林資源保護の両立を目的としており、2008年7月以前の永久保護区域(Áreas de Preservação Permanente)などの開拓については責任を追及しない見返りにその復元などの義務を課しているほか、農地環境登録(CAR:Cadastro Ambiental Rural)による農地開発状況の合法性の登録を義務付けている。農業生産者は、農地環境登録を行わない限り、公的な融資制度などの利用ができないという不利益を受けるほか、民間企業もかかる登録証の提示を取引の条件とする傾向が高まっている。一方、新森林法は、環境保全を促進するためのインセンティブ制度の創設を行政府に委譲し、それに基づき、後述のFloresta +などが開始されている。
(2) 脱化石燃料・バイオエタノール促進政策「RenovaBio」
RenovaBioは、パリ協定履行のために、2017年に策定されたバイオ燃料市場の拡大促進政策であり、①燃料配給業者に対し、年毎に定める比率での二酸化炭素(CO2)排出削減を義務付け、その推進ツールとして②CBio(脱炭素クレジット)の導入を定めた2本柱で構成されている。CBioは、新森林法を遵守しているバイオ燃料製造者等が発行でき、削減義務を負っている事業者は、CBioの購入によって販売する化石燃料のCO2排出量と相殺できる。CBioは、2020年4月にブラジル証券取引所(B3)にて売買が開始された。
(3) アグリビジネスに関わる金融メカニズム促進策「新アグリ法(Nova Lei do Agro)」
2020年4月に、ブラジルアグリビジネスが国内外のキャピタルマーケットにとって魅力的なものとなることを企図した新アグリ法(2020年法13,986号)が施行された。一例として、農業生産者が発行する農作物証券(CPR)の制度変更が挙げられる。これまで、外貨建てのCPR発行や、CPRの担保として外国企業に対して農地の譲渡担保を設定することができなかったが、これらの制約が緩和され、有価証券としてのCPRの使い勝手が向上した。また、このCPRは、森林保全・回復に従事している事業者が資金調達の手法として利用できるようになった。この制度変更を軸に、2021年10月暫定措置法10,828号によって、一般的にCPR Verde(グリーンCPR)と呼ばれる環境保全を資金使途とするCPR発行が制度化された。
(4) 森林保護促進策「Floresta +」
森林保全業務の従事者に対する適正な報酬の支払いを定めた本制度は、2021年1月に開始されたばかりであり、具体的な細則が未定であるが、インディオ先住民や中小零細の農業生産者の自立支援と持続可能な森林保護の実現が期待される。これにより、自然植生を所有・保全する事業者の資産の収益化と共に、先述のCPR Verdeや、近年国際金融の世界で注目されているGreen Bond等の金融メカニズムの進展も見込まれる。
3. 今後の展望
以上、ブラジルアグリビジネスが関係する環境保全に資する法制度について概観したが、ブラジル政府は、税制インセンティブや資金調達のメカニズムを活用することで、制度が機能することを狙っているものと考えられる。これは、COP26にて、ブラジル政府が、ブラジル農業部門における気候変動への対策として、低炭素農業を推進する融資プログラム「Plano ABC+」を挙げたことからも推察できる。
今後、ブラジル政府がいかに生産拡大と環境保全の両立に向けた制度的な取組みを行っていくのか、また、欧米に代表される国際社会とどのように共存していくのか注目していきたい。