※本記事は、一般社団法人日本ブラジル中央協会発行のブラジル特報(2022年3月号)に掲載されたものであり、特段の注記がない限り、当該雑誌掲載日時点の情報に基づいている。
ブラジルにおいては、外国企業もブラジル企業と同じ扱いを受けることが憲法により保証されている。そのため、外国企業に対する差別的な取扱いは原則としてないが、例外的に、国家の安全保障等の観点からいくつかの分野では外国企業に対する規制が存在する。その一つが農地の取得である。農業大国であるブラジルにおいて農地取得規制は非常に重要なテーマであり、最近も法改正の動きがある。そこで、本稿では、農地取得規制の概要を解説する。
農地取得規制の歴史
ブラジル国内の土地は、用途又は所在地によって、都市不動産(Imóvel Urbano)と農地(Imóvel Rural)の2つに分けられている。農地取得規制は、簡単に言えば、外国人(個人・法人)が農地を取得する際に一定の制限を受けるというものであるが、「外国人」に外国人に支配されているブラジル企業(以下「準外国法人」という)が含まれるか長年議論がある。農地取得規制を規定している1971年法5709号の解釈について、国家総弁護庁(Advocacia-Geral da União)は、準外国法人は本規制の対象とならないとする見解を1997年に発表したが、その後その見解を変更し、2010年に準外国法人も本規制の対象となるとする見解を発表した。そのため、現在は準外国法人も規制の対象となっている。なお、現在、準外国法人を本規制の対象外とする法案が国会で審議されている。
農地取得規制の具体的な内容
農地取得規制は買主が外国人(個人)である場合と外国法人である場合で以下のとおり異なる。なお、ブラジルに居住権のない外国人及びブラジルで事業を行う許可を有していない外国法人は農地を取得できない。
外国人 | ・3MEIを超えない場合は自由に取得可能 ・3MEIを超えて50MEI以下の場合はINCRA(国家入植農地改革院)の承認が必要 ・50MEIを超える場合には国会の承認が必要 |
外国法人 | ・いずれの場合もINCRAの承認が必要 ・100MEIを超える場合には国会の承認が必要となる |
※MEI:INCRAが定める面積の単位(地域によって異なる)
また、上記とは別に、一自治体(Município)における外国人が取得できる農地の総面積に制限がある。具体的には、一自治体あたり外国人が保有する農地は総面積の25%を超えてはならず、かつ、同一国籍の外国人が保有する農地は総面積の10%を超えてはならない。
準外国法人の要件
農地取得規制が適用される準外国法人か否かは、形式的に株式の過半数を外国人が保有するか否かではなく、実質的に外国人が会社を支配しているか否かで判断される。たとえば、株主間契約などに基づき外国人株主が役員の過半数を選任できる権限を有するような場合には準外国法人と判断される可能性が高い。
適用対象となる行為
農地取得規制は、農地の取得だけではなく賃借の場合にも適用される。また、農地を保有するブラジル法人の買収や合併などの場合にも適用される。ただし、地上権、用益権、地役権などの所有権以外の物権の設定は規制の対象外と解されている。
国境地帯の農地
国境地帯(国境沿い幅150キロメートルまでの地帯)の農地については、上述の規制のほか、国家防衛局(Conselho de Defesa Nacional)の承認が別途必要となる。
譲渡担保権を実行した結果の取得
2020年法13986号による法改正により、農地取得規制(国境地帯の農地含む)が緩和され、譲渡担保などの担保権の実行として債権者が農地を取得した場合には、農地取得規制が適用されないことになった。
農地の取得方法
日本企業にとって関心があるのは、農地を実際に取得又は利用できるか否かであろう。以下いくつかの方法を検証する。
(1) INCRAによる承認
上述のとおり、外国法人が農地を取得するためにはINCRAによる承認が必要となる。ただし、INCRAによる承認には数年単位の期間がかかることが一般的で、かつ、最終的に承認されるか否かを事前に把握することはできない。そのため、INCRAによる承認を得るのは現実的な方法ではない。
(2) 農地から都市不動産への変更
都市不動産であれば外国人による取得に制限はないため、農地を都市不動産へ変更することが考えられる。農地から都市不動産への変更は各自治体が審査し決定する。自治体は税法32条に規定する項目(道路の縁石、雨水の流路、水道、汚水設備など)に改善がみられるか否かで都市不動産への変更を許可している。この手続にも相当期間かかり、また、変更が許可されるか否かを事前に確認することはできない。
(3) 所有権以外の物権の設定
上述のとおり、地上権などの物権の設定は農地取得規制の対象外と解されているため、地上権などの物権を設定し農地を利用することが考えられる。
(4) ブラジル法人が会社を支配する形にする
準外国法人か否かは外国株主が会社を支配しているか否かで判断されるため、ブラジル人(個人・法人)に過半数の株式を保有させて農地を取得することも考えられる。その場合、株式を過半数保有するブラジル人との間で別途株主間契約などを締結することが考えられるが、契約の内容によっては、農地取得規制の脱法的な行為とINCRAから判断される可能性があるため留意が必要である。