※本記事は、一般社団法人日本ブラジル中央協会発行のブラジル特報(2023年3月号)に掲載されたものであり、特段の注記がない限り、当該雑誌掲載日時点の情報に基づいている。
1.目的
女性の就労支援は世界的に関心の高いテーマであり、ブラジルにおいても、2022年9月に、女性の就労支援や女性の重要なポジションへの登用等を目的として2022年法14457号が施行された。同法は、その第1条で、「Emprega + Mulheres」(直訳すると「女性をさらに雇用しよう」)というプログラムを創設することを規定としている。本稿では、同プログラムの一部を紹介する。
2.「Emprega + Mulheres」プログラムの内容
(1) 育児支援
従業員との個別合意又は労働協約に基づき、5歳11ヶ月までの子供を持つ従業員に対して、保育所や幼稚園等の費用の負担(払戻し)を会社が行うことができる。かかる費用の負担分は給与としては扱われず、そのため、社会保険料やFGTSが課せられない。また、従業員の個人所得税の対象にもならない。16歳以上の女性従業員が30人以上いる会社は、授乳期間中に女性従業員が子供を置いておける場所を確保する必要があるが、すべての従業員に育児支援を行う会社は、かかる場所の確保が免除される。
(2) リモートワーク
リモートワークで実施可能な業務に欠員が出た場合、会社は、6歳までの子供又は障害のある子供を有する従業員を優先的に配置しなければならない。
(3) 勤務形態及び有給休暇取得の柔軟化
従業員の明示的な意思があることを前提に、従業員との個別合意又は労働協約に基づき、会社は、パートタイム形態、勤務時間の振替制度(Banco de Horas)、12×36時間勤務形態、有給休暇の前倒し及び入退社時間の柔軟的運用を、6歳までの子供又は障害のある子供を有する従業員に優先的に利用させることができる。ただし、パートタイム形態及び入退社の優先的利用は、子供が生まれてから2年目までしか利用できない。
(4) 女性従業員へのトレーニング
会社が提供する職業訓練プログラムを受けることを希望する女性従業員との雇用契約を、従業員との個別合意又は労働協約に基づき停止することができる。会社が提供する職業訓練プログラムは、従業員の職業的向上を促進する分野又は科学、技術、開発、イノベーションなどの女性の参加率が低い分野を優先しなければならない。雇用契約の停止期間中、プログラムに参加する従業員は労働者支援基金(Fundo de Amparo ao Trabalhador)から奨学金を得ることができ、また、会社はそれとは別に手当(給与とは扱われない)を支給することができる。プログラムに参加した従業員が、雇用契約停止期間中又は復職後6カ月以内に解雇された場合、会社は退職金とは別に、労働協約で規定される罰金を従業員に支払う(罰金は雇用契約停止前の最後の月額報酬の少なくとも100%となる)。
(5) 育児休業後の職場復帰支援
妻の育児休業終了後、妻の職場復帰を支援するために、従業員(旦那)からの要請及び従業員との個別合意又は労働協約に基づき、従業員(旦那)が、会社が提供する週20時間以内の職業訓練プログラムに参加するため、従業員(旦那)の雇用契約を停止することができる。プログラムに参加する従業員は、雇用契約停止期間中、労働者支援基金から奨学金を得ることができ、また、会社はそれとは別に手当(給与とは扱われない)を支給することができる。プログラムに参加した従業員が、雇用契約停止期間中又は復職後6カ月以内に解雇された場合、会社は退職金とは別に、労働協約で規定される罰金を従業員に支払う(罰金は雇用契約停止前の最後の月額報酬の少なくとも100%となる)。
(6) 企業市民プロジェクト
母親の育児休業期間を60日間に延長する企業市民プログラム(Programa Empresa Cidadã)という制度を夫婦が共同で利用することができるようになった。また、育児休業期間の延長に変えて、就業時間を120日間50%短縮することもできるようになった。
(7) 男女同一賃金
同一労働同一賃金は労働法で定められているが、本法でも、女性従業員に関しての同一労働同一賃金が確認的に規定されている。
(8) ハラスメント防止措置
事故ハラスメント防止委員会(Comissão Interna de Prevenção de Acidentes e de Assédio:CIPA)を設置する義務のある企業は、セクシャルハラスメント等の防止対策として以下の施策を講じる必要がある。
①セクシャルハラスメントやその他の暴力に関する行動規範を社内規程に盛り込み、それを従業員に周知する
②苦情申立者の匿名性を保証した上で、苦情の受付、事実関係の調査及び懲戒処分の適用に関する手続きを構築する
③CIPAの活動に、セクシャルハラスメント及びその他の形態の暴力の防止と対策に関連する議題を盛り込む
④職場の暴力、ハラスメント、平等及び多様性に関して、少なくとも12カ月ごとに、会社のすべての従業員を対象に、研修、オリエンテーション及び啓発活動を実施する
(9) 「Emprega + Mulheres」認証制度
託児所や幼稚園の設置や提供などに関して優れた実践を行っている企業に付与される認証で、同認証を付与された企業は、同認証を自社ブランドの宣伝目的で使用することができる。