※本記事は、一般社団法人日本ブラジル中央協会発行のブラジル特報(2023年9月号)に掲載されたものであり、特段の注記がない限り、当該雑誌掲載日時点の情報に基づいている。
1.スポーツ一般法の施行
2023年6月14日、スポーツ一般法(Lei Geral do Esporte:2023年法14597号)という法律が成立・施行された。同法は、スポーツに関するルールの統一を目的に制定されたが、同法の法案に規定された様々な条文に対して大統領が拒否権を行使したため、法の空白を回避するため、同法によって廃止されるはずであったペレ法(サッカーの王様ペレがスポーツ大臣を務めていたときに成立したスポーツクラブやスポーツ選手に関するルールが定められた法律)やその他の関連法律の一部がそのまま存続することになった(ファン保護法(2003年法10671号)及びアスリート奨学金法(2004年10891号)はスポーツ一般法により廃止された)。スポーツ一般法は、200条を超える条文によりスポーツに関する幅広い事項を取り扱っているため、本稿ではその主要な点を紹介する。
2.スポーツ一般法の主要なポイント
(1) 適用対象
スポーツに関する公共政策やスポーツに関するプログラムや活動の策定や実施等を行う国家スポーツシステム(Sistema Nacional do Esporte:Sinesp)という機関が創設された。
(2) 国家スポーツシステムの創設
スポーツに関する公共政策やスポーツに関するプログラムや活動の策定や実施等を行う国家スポーツシステム(Sistema Nacional do Esporte:Sinesp)という機関が創設された。
(3) アリーナ権
アリーナ権とはスポーツイベントの映像の撮影、記録、放送、送信、再送信、複製に関して交渉、承認又は禁止する権利を言う。アリーナ権はペレ法ですでに規定されているが、スポーツ一般法でもアリーナ権が規定された。スポーツ一般法では、アリーナ権はスポーツイベントを主催する団体(サッカーではホームチーム)に帰属すると規定された。そのため、たとえば、テレビ局は試合の放送についてホームチームのみと交渉することになる。
(4) 肖像権
スポーツ選手の肖像権に関して、スポーツ一般法は、スポーツ選手が第三者(スポーツ選手が株主である法人を含む)を通じて肖像権の対価を受け取れることを明確に規定した(ペレ法ではその点が明確ではなかった)。また、スポーツ団体が肖像権によってアスリートに支払うべき報酬の割合の上限をスポーツ選手の報酬の50%に引き上げた(ペレ法では40%)。
(5) 刑事罰
スポーツ一般法は、1つの章を設けてスポーツに関する犯罪行為及び刑事罰を定めている。具体的には、民間のスポーツ団体が絡む贈収賄、チケットに印刷された価格よりも高い価格での転売行為、スポーツ団体が有するエンブレム、ブランド、ロゴ、マスコットなどの不正利用、いわゆるアンブッシュマーケティング、スポーツ競技の結果に影響を与える不正行為(八百長など)、スポーツ大会における暴力行為や扇動行為(人種差別や性差別を含む)、スポーツ大会当日における暴力器具の携帯やファン同士の喧嘩への参加などが刑事罰として罰せられる。
(6) フェアプレー
各スポーツを管理・規律するスポーツ組織(サッカーのブラジルサッカー連盟など)は、競技におけるフェアプレーを保証する倫理的・道徳的基準に基づいてスポーツ活動を推進することが求められる。そして、かかる目的のもと、財務的なルールを策定する必要がある(いわゆるファイナンシャル・フェアプレーの概念)。
(7) 宝くじ等で得た資金に関するルール
宝くじ等による収益を通じて資金を得た民間スポーツ団体は、連邦会計検査院(Tribunal de Contas da União)の監督を受け、公的行政の一般原則に従ってこれらの資金を管理しなければならない。連邦政府の公的資金や宝くじ等の収益から資金を取得できるのは、財政的に存続可能で自立しており、納税義務や労働法令上の義務を遵守している団体のみである。さらに、スポーツ団体が公的資金を利用するには、その団体の活動領域においてスポーツ発展のために推進される活動と、国家スポーツ計画との適合性を証明すること、経済・財務データ、契約、スポンサー、肖像権、知的財産権などに関する透明性のある管理を行うことが必要となる。
3.今後の議論
上述のとおり、スポーツ一般法の法案における様々な条文に対して大統領が拒否権を行使した。拒否権が行使された条文は再度国会で審議されているが、同国会で承認されない場合でも今後も議論の対象となると考えられる。拒否権を行使された条文のうち重要な内容は以下の点があげられる。
(1) 法人によるスポーツ団体への寄付に基づく税制優遇措置(所得税控除額の引上げなど)
(2) 大会や練習のためのスポーツ用具や資材にかかる工業製品税や輸入税の免除
(3) 選手契約解除時の補償金の取扱い(選手がほかのチームと新たな契約を締結した場合の元チームが支払う補償金の減額)
(4) 各スポーツ組織による独自の司法機関の設置や司法規範の作成
(5) スポーツにおける暴力と差別の防止・撲滅を目的とした機関であるAutoridade Nacional para Prevenção e Combate à Violência e à Discriminação no Esporte(Anesporte)の設置