※本記事は、一般社団法人日本ブラジル中央協会発行のブラジル特報(2023年11月号)に掲載されたものであり、特段の注記がない限り、当該雑誌掲載日時点の情報に基づいている。
本誌2023年3月1673号で紹介したとおり、ブラジルの労働法分野では、近年女性の就労支援やハラスメント防止が大きなテーマとなっている。そして、その文脈で、男女間の同一労働同一賃金を定めた同一賃金法(2023年法14611号)が2023年7月に公布・施行された。本稿では同法の内容を紹介するとともに、併せて労働分野に関する最近のトピックを紹介する。
1.同一賃金法の概要
(1) 同一労働同一賃金の再確認及び罰則
同一労働同一賃金は、男女間に限らず、すべての労働者に適用される形ですでに労働法に規定されていたが、同一賃金法は、男女間の同一労働同一賃金を改めて確認する目的で制定された。また、労働法では、性別又は民族を理由とする賃金差別が禁止されること及び違反した場合の罰則が社会保障金の給付上限の50%となることが規定されていたが、同一賃金法は、それを改正し、性別、人種、民族、出自又は年齢を理由とする賃金の差別が禁止されること及び違反した場合の罰則が被差別労働者に支払う新たな賃金の10倍となるとした(違反が繰り返された場合にはさらに2倍になる)。なお、仮に雇用主が被差別労働者に給与の差額を支払ったとしても、被差別労働者の慰謝料請求権は失われない。
(2) 男女間の同一労働同一賃金を保証するための措置
同一賃金法は、男女間の同一労働同一賃金を保証するために雇用主が以下の措置を講じることを義務付けている。
① 賃金の透明化及び報酬の支給基準の仕組みの確立
② 男女間の同一労働同一賃金に関する告発を受ける窓口の設置
③ 労働市場における男女平等をテーマとした労働者に向けたダイバーシティ及びインクルージョン・プログラムの促進と実施
④ 男性と平等な条件で労働市場に参入・維持・昇進できるよう、女性に対する訓練・教育の実施
(3) 報告書の公表及び行動計画の提示
労働者100人以上の企業は、個人情報保護法に反しない形で、給与の透明性と報酬の支給基準に関する報告書を6カ月ごとに公表する必要がある。報告書には、匿名化された形で、給与、報酬、管理職の男女比率を示す情報を記載し、また、人種、民族、国籍及び年齢に基づく差別が発生する可能性に関する統計データを記載する必要がある。
また、不平等な給与又は報酬の支給基準が確認された場合、雇用主は、労働組合の関与を保証したうえで、目標及び期限を定めた不平等を緩和するための行動計画を提示し、実施しなければならない。
上記義務に違反した場合、当該月の全労働者の給与総額の3%の行政罰(最低賃金の100倍を上限とする)が課せられる。
2. その他のトピック
(1) 労働組合扶助費に関する連邦最高裁判所の判決
2017年の労働法改正により、労働者の同意なく、労働組合の組合費(Contribuição Sindical)を労働者の賃金から天引きすることが禁止された。一方、組合費とは性質や使用目的が異なる組合扶助費(Contribuição Assistencial)というものが労働協約に規定されていることがある。この組合扶助費について、2023年9月、連邦最高裁判所は、自らの過去の判例を変更し、労働者がその支払いを拒否する権利が保障されていれば、労働協約や労働協定が、組合員であるかは問わず、あるカテゴリーに属する労働者すべてに適用される形で組合扶助費を定めることは合憲であると判断した。なお、組合扶助費がいつ請求されるのか、労働者がどのように反対の意思表示を行うのか等のルールについてはまだ明らかになっていない。
(2) 週休手当
ブラジル労働法には、週休手当(Descanso Semanal Remunerado)という概念がある。週休手当は、1週間の決められている日数を休まずに勤務すれば1日分の手当がもらえるという制度である(そのため、給与は30日分支払われることとなる)。時間外労働が発生したときは追加の週休手当が発生し、それは、月の時間外労働手当額÷営業日(勤務日数+土曜日の回数)×非営業日(休日日数+祝日日数)で計算される。高等労働裁判所(Tribunal Superior do Trabalho)は、常習的な時間外労働に基づく週休手当額が、13か月目の給料、FGTS、有給休暇手当等の計算に含まれると解釈を変更した。この変更により人件費の増加につながる可能性がある。新しいルールは2023年3月から適用されている。
(3) 食費手当・食料手当
ブラジルでは、一般的に、レストラン等で食事代に使える食費手当(Vale-Refeição)やスーパー等で食料品の購入に使える食料手当(Vale-Alimentação)が労働者に支給される。この食費手当や食料手当に関するルールが2022年法14442号により変更された。一般的に食費手当や食料手当は第三者の業者が提供するサービスが利用されるが、同法は、雇用者がそのような業者から契約金額の割引を受けることや労働者の健康や食料確保に関係のない便益を受けることを禁止した。また、労働者は、食費手当や食料手当を提供する別の業者に自らのクレジット(手当の残高)を自由に移行できるようになった。