※本記事は、一般社団法人日本ブラジル中央協会発行のブラジル特報(2024年3月号)に掲載されたものであり、特段の注記がない限り、当該雑誌掲載日時点の情報に基づいている。
はじめに
本誌2021年9月号において、eスポーツへのベッティング(賭博)を正面から認める法律はないと解説したが、2023年法14790号(以下「ベッティング法」という)が2023年12月に成立し、オンラインゲーム(eスポーツ含む)への固定オッズによるベッティングが認められることとなった。
ベッティング法の概要
ベッティング法は、リアルスポーツイベント及びオンラインゲームイベントにおける固定オッズによるベッティングについてのルールを定めている。詳細なルールは今後財務省が制定する規則により明確になるが、以下ではベッティング法の主要な点を解説する。
(1) 許可の取得
ベッティング事業を行うためには財務省から許可を取得しなければならない。許可を取得するためには、ブラジル法に基づき設立された法人で本社と管理機能がブラジル国内にあり、株式の最低20%をブラジル人が有し、また、最大で3,000万レアルの手数料を支払う必要がある。許可取得のその他の要件については今後財務省が制定する。なお、すでにベッティング事業を行っている事業者に対しては、許可取得条件を満たすために最低でも6か月の期間が付与される。ベッティング事業者の支配株主がサッカー株式会社等のプロスポーツ団体の株式を保有することは禁止される。
なお、ベッティング法では、ファンタジースポーツを「実在の人物のパフォーマンスに基づいてオンラインで争われるスポーツ」と定義しているが、ファンタジースポーツ業は許可取得を要求されていない。
(2) 内部規程、内部統制システム
事業者は、カスタマーサービス、マネーロンダリングやテロ組織への資金提供等の防止、ギャンブル依存症の防止、八百長の防止等に関する内部規程を設け、また、それを実施する内部統制システムを運用する必要がある。また、事業者はベッター(ベッティングを行う者)の本人確認を行うためのシステム(顔認証等)を導入する必要がある。
(3) 課税
事業者に対しては、ベッティング事業の総収入に対して12%が課税される(法人税やその他の一般的に課せられる税金(CSLL、PIS、COFINS及びISS)は別途課せられる)。ベッターに対しては、ベッティング(ファンタジースポーツベッティングを含む)により得た金額に対して15%の個人所得税が課せられる。
(4) ベッターへの情報提供
事業者は、ベッターに対して、ベッティングに負けた場合の金銭的リスク、ギャンブル依存症及び勝敗予想や賞金の決定方法の条件に関する情報を明確な方法で提供する必要がある。ベッティングプロセスにおいて、曖昧な表現や抽象的な表現を使用することは禁止される。また、事業者は、ポルトガル語での無料カスタマーサービスを提供する必要がある。
(5) 禁止行為
事業者が、プロモーション等のために事前にベッターに何らかの利益を付与すること、ベッターが融資を得られるようにするために第三者と提携したり第三者のオフィスを自社内に設置することは禁止される。
(6) マネーロンダリング等の防止対策
事業者は、財務省が定める規則に従い、ベッティングにおいてマネーロンダリングやテロ組織への資金提供の兆候がないかどうかを監視・分析するシステムを導入し、また、マネーロンダリングやテロ組織への資金提供の疑いがある行為について当局に報告しなければならない。そのほか、事業者及び決済業者はベッティングに関連する情報を財務省が定める期間保存する義務、財務省がアクセス可能なシステムを使用する義務等が課せられている。
(7) ベッティングの決済サービス
ブラジル中央銀行の許可を受けたブラジルの金融機関のみがベッティングのための決済サービスを提供できる。なお、金融機関は許可を取得していない事業者と取引を行うことは禁止される。
(8) 検査費用
事業者は、収益に応じて毎月の検査料(最大1,944,000レアル)を支払う必要がある。
(9) 広告規制
ベッティングに関する広告についての詳細なルールは今後財務省が制定するが、ベッティング法は、ギャンブルを奨励しない旨の告知をすること、ギャンブルの潜在的な害についての情報提供をすること、未成年者をターゲットにする広告をしないこと等を規定している。また、ブラジルの広告自主規制評議会(Conar)は、ベッティング法の施行に伴い、ベッティングに関する広告規制を同会の広告自主規制コードに含めた。たとえば、ベッティングによりお金持ちになれることを示唆する広告や勝率について誤解を招くような広告を禁止している。なお、財務省は、アプリケーションプロバイダー、接続プロバイダー等に対して、不正な広告や違法ベッティングサイトの削除や遮断を求めることができる。
(10) 罰則
許可を受けずにベッティング事業を行ったり、許可を受けていない事業者の広告を行った場合等には罰則が科せられる。罰則は、警告、罰金(税金等を引いたあとの売上高の0.1%から20%、上限は20億レアル)、事業停止等がある。