※本記事は、一般社団法人日本ブラジル中央協会発行のブラジル特報(2024年5月号)に掲載されたものであり、特段の注記がない限り、当該雑誌掲載日時点の情報に基づいている。
1.はじめに
ブラジルにおいても、競争法(2011年法12529号)違反であるカルテルに関する捜査は継続的に行われている(2021年は36件、2022年は14件の新たな調査が開始された)。カルテルに関する調査及び訴追はブラジルの公正取引委員会である経済擁護行政委員会(Conselho Administrativo de Defesa Economica。以下「CADE」という)が行う。CADEは、カルテルに対する行政手続やリニエンシー契約に関して、その透明性を確保するため各種のルールやガイドラインを制定してきたが、2023年9月に、「Dosimetria de Multas de Cartel」(直訳すると「カルテルの罰則内容測定」)という新たなガイドライン(以下「本ガイドライン」という)を公表した。本ガイドラインは、カルテルに対して課せられる罰則の決定方法の透明化を図る目的で、2012年1月から2022年12月までの間にCADEによって下されたカルテルに対する罰則事例を分析しまとめたものである。本ガイドラインは罰則のうち主に制裁金の算定方法について規定しているが、どのような制裁金が課せられ得るかは、カルテルが発覚した会社がどのような対応を取るか(行政手続で争うか、リニエンシー契約を締結するかなど)を検討する上で重要な指標になる。本ガイドラインには法的拘束力はないものの、重要な指標になることは間違いない。そこで、本稿では本ガイドラインの概要を解説する。
2.カルテルに対する制裁金算定のステップ
カルテルに対する制裁金に関して競争法は、「カルテルの対象となった企業活動分野における行政手続開始前の直近の会計年度の違反者、グループ又はコングロマリットにおける総売上高の0.1%~20%の範囲内で決定される」と規定している。かかる制裁金の算定について、本ガイドラインは、CADEが一般的に以下のステップを経ていると指摘している。
- 行政手続開始前の総売上高及び適用される基準率の決定
- 違反者の状況に応じた制裁金の加減要素の決定
- 制裁金が法律上の範囲内か否かの検証
3.行政手続開始前の総売上高及び適用される基準率の決定
(1) 総売上高の決定
本ガイドラインは、「違反者、グループ又はコングロマリットにおける総売上高」に関して、原則として違反行為を行った会社の売上高を基準とすること、つまり、グループ又はコングロマリット全体の売上高を基準とすることは例外であると規定している。具体的な適用はケースバイケースで判断されるが、本ガイドラインは、たとえば、売上高が非常に少ないペーパーカンパニーを介してグループ会社全体の利益になるような行為をした場合を例外事情としている。
また、「行政手続開始前の直近の売上高」や「カルテルの対象となった企業活動分野」(企業活動分野はCADEのルールで144に分類されている)についてもCADEが状況に応じて別の形で適用していることに言及している。たとえば、行政手続開始前の直近の売上高がない場合(すでに事業停止しているようなケース)には違反行為が行われた最後の年の売上高が基準とされることがあることや、国際カルテルのケースで違反者がブラジル国内における売上高を正確に把握していない場合にブラジルにおける売上高を推量する方法に言及している。
(2) 制裁金の基準率
カルテルに対する罰金は算定基準額(上述の総売上高)に一定の率を乗じることで算出される。本ガイドラインはこの率についても言及している。具体的には、入札カルテルについては17%(最低14%)、ハードコアカルテルについては15%(最低12%)、その他の形態のカルテルについては8%(最低5%)が基準となるとしている。
その上で、本ガイドラインは、長期にわたり違反行為を行っていた者は違反行為に限定的に参加した者よりも厳しい処罰を受けることや、違反行為への関与の度合いが強い違反者に対しては基準率が加重されることにも言及している。たとえば、会議の日程調整や関連する文書の作成などにおいて重要な役割を果たしている場合が加重要因となっている。実際に行為を実行した自然人に関しては、CADEは、会社の株主や取締役などの重要な地位にいる者が一般の従業員よりも強く関与していると判断している。その他の加重又は軽減事由としては、違反者の善意(違反行為後にその影響を最小限に抑えようとしたかなど)、違反者が得た又は得ようとした利益、既遂か未遂か、消費者や市場への影響の程度、違反者の経済状況(倒産手続中か否かなど)、再犯か否かなどが考慮されている。
4.制裁金が法律上の範囲内かの検証
カルテルを含む競争法違反の行為に対する制裁金について競争法はいくつかのルールを定めている。具体的には、上述のとおり、「総売上高の0.1%~20%の範囲内で決定される」や取締役などについては「会社に課せられた制裁金の1%~20%」などのルールである。制裁金は当然のことながら競争法で定められたルールの範囲で決定される必要があることを本ガイドラインは確認的に言及している。