※本記事は、一般社団法人日本ブラジル中央協会発行のブラジル特報(2024年7月号)に掲載されたものであり、特段の注記がない限り、当該雑誌掲載日時点の情報に基づいている。
1.はじめに
2024年5月3日、電子ゲーム産業の法的枠組みを定める2024年法14852号(以下「電子ゲーム法」という)が成立・施行された。同法は、電子ゲームの製造、輸入、商業化、開発及び商業利用に関するルールを規定するとともに、急成長する電子ゲーム産業のビジネス環境を整備し、この分野への投資を促進するための施策を導入している。また、青少年による電子ゲーム利用に関連するリスクを考慮した措置も規定されている。
なお、同法は、選挙活動においてアニメのパロディなどをSNSに投稿して話題を呼び、若干22歳でブラジルの連邦下院議員に初当選した日系人のキム・カタギリ氏(現在は2期目)が法案を提出したことでも注目を集めた。
2.定義
(1) 電子ゲーム
電子ゲーム法において、「電子ゲーム」とは、以下のものを指す。
- コンピュータープログラムとして開発された双方向(インタラクティブ)な視聴覚作品で、プレイヤーのアクションや画面(インターフェース)との相互作用によって画像がリアルタイムで変化するもの
- 電子ゲームを実行するために特別に設計された個人用又は商業用のハードウェア及び付属品
- 携帯電話アプリケーションやウェブページで使用するソフトウェア、コンソールゲーム及びダウンロード又はストリーミングによってプレイするバーチャルリアリティ、拡張現実及び複合現実におけるゲーム
なお、お金を賭けるゲームは「電子ゲーム」には該当しないと明記されており、賭けゲームの提供者は電子ゲーム法で規定されている各種ベネフィットを受けることができない。また、ファンタジースポーツも電子ゲームには含まれないと解されている。
(2) 電子ゲーム開発会社
電子ゲーム法において、「電子ゲーム開発会社」とは、電子ゲームの制作を目的とする企業を指す。
3.電子ゲーム法の概要
(1) 許認可は不要である
電子ゲームの製造、輸入、商業化、開発及び商業利用に特段の許認可は不要であることが明記されている。
(2) 産業財産庁への登録
産業財産権法が電子ゲーム法により改正され、産業財産庁(INPI)に登録できる知的財産権の1つとして電子ゲームが追加された。
(3) 電子ゲームの用途
電子ゲーム法は、電子ゲーム産業を支援するため、年齢区分を設けることを条件に、電子ゲームを教育目的、治療目的、能力開発目的、公告目的などに使用することを許可しており、政府はこれらに関するルールや施策を制定する。例えば、政府が公立学校で使用する教育用ゲームを購入したり、公的資金で制作された電子ゲームを、教育機関、研究機関、医療機関などが無料で使用できるようにすることなどが考えられる。
(4) 優遇措置
- 電子ゲーム産業のイノベーションを促進する観点から、電子ゲームの開発に必要な機器(コンピューター、コンピュータープログラム、SDK(ソフトウェア開発キット)など)は、通関の簡素化及び輸入税の恩恵を受ける。
- 電子ゲーム開発への投資にも文化奨励法(1991年法8313号)及びオーディオビジュアル法(1993年法8685号)が適用されることになり、これらの法律に基づく優遇措置を受けられることになった。
- 前暦年の総収入が1,600万レアル又は月平均収入が133万3,334レアル(活動期間が12か月未満の場合)までの電子ゲーム開発を行っている個人事業主や会社などに対して特別待遇が与えられる。
(5) 電子ゲーム産業の人材育成
政府は、電子ゲーム産業の人材を育成するために、電子ゲームに特化した専門技術教育コース、高等教育コース、職業訓練所などを創設・支援する。
(6) 青少年の保護
電子ゲーム法は、電子ゲームで遊ぶ青少年を保護するために以下の規定を設けている。
- 青少年がアクセスする電子ゲームのコンセプト、設計、管理及び運営は、青少年の最善の利益に基づかなければならず、また、青少年の権利へのリスクを軽減するための適切な方法を講じなければならない。さらに、電子ゲーム開発者は、これらを遵守するために青少年との対話チャネルを設けるよう努めなければならない。
- 電子ゲーム提供者は、そのサービスが、青少年に対するあらゆる形態のネグレクト、差別、搾取、暴力、虐待又は抑圧を助長する環境を作り出さないことを保証しなければならない。
- ユーザー間の交流が可能なゲームは、苦情や告発を受け付けるシステムの提供、苦情を申し立てた人に対する情報提供、課された罰則の見直しを求める手段の提供などを講じなければならない。また、利用規約において、青少年の権利を侵害する行為やコンテンツの交換が禁止されることを規定する必要がある。また、これらの情報をポルトガル語で青少年にも理解できる用語で説明しなければならない。
- ゲーム内で何らかの物を購入できる場合には、青少年による取引を制限するために、初期設定は親又は法定後見人の同意が必要とする形にする必要がある。