※本記事は、一般社団法人日本ブラジル中央協会発行のブラジル特報(2026年11月号)に掲載されたものであり、特段の注記がない限り、当該雑誌掲載日時点の情報に基づいている。
1. はじめに
ブラジルで、日本の民事再生手続に類似する「Recuperação Judicial」(以下「民事再生手続」という。)の利用が増えている。2026年6月末時点で約8,000社が民事再生手続中にあり、その数は1年間で20%以上増加した。8月には、小売大手のカザス・バイーア・グループが173億レアル(約5,300億円)の債務を対象として申立てを行い、大企業にも広がっていることを印象づけた。
2. 日本企業に与える影響
日本企業のブラジル子会社は、たとえ債務超過に陥っても、通常、親会社からの増資や貸付により負債を処理するため、倒産手続に入ることは一般的ではない。しかし、マイノリティ出資先や債権を有する取引先が倒産手続に入ることはあり得るほか、倒産手続中の会社の事業を買収したり資金を提供したりする場面も考えられる。そのため、日本企業としてもブラジルの民事再生手続を理解しておくことは重要である。
そこで以下、ブラジルの倒産手続の概要を簡単に説明したうえで、立場別の留意点を述べる。
3. 倒産手続の概要
ブラジルの倒産法(法律第11.101号)は、再建型の手続として、申立て前の調停、裁判外再生手続及び民事再生手続を、清算型の手続として破産を定めている。最も多く利用されるのは民事再生手続である。
民事再生手続の申立てが受理されると、原則180日間(例外的に1回延長可)、債権者による個別の権利行使が停止される。債務者が作成した債権者一覧が公告され、債権者は、記載の漏れや誤りがあれば管財人(Administrador Judicial)に届出や異議を行い、管財人がこれを踏まえて債権者一覧を作成する。債務者が提出した再生計画に債権者が異議を述べると債権者集会が開かれ、債権の種類ごとのクラス別に決議される。否決されても、一定の要件を満たせば裁判所が計画を認可できる(いわゆるクラムダウン)。認可された計画は、反対した債権者も拘束する。
4. それぞれの立場における留意点
(1)債権者
まず、債権者一覧に記載された自社の債権額を確認すべきである。弁済は一覧に記載された額に基づいて行われるため、誤りがあれば期限内に異議を述べる必要がある。期限後の異議も一定の場合には受け付けられるが、債権者集会での議決権を失う。
次に、担保の種類による違いが大きい。抵当権や質権など、担保の対象資産が債務者の所有に属する担保権を有する債権者は手続に取り込まれ、担保の範囲内の部分も含めて計画による減額の対象となり得る。担保権自体は存続するものの、日本の別除権のような保護はない。これに対し、譲渡担保(Alienação Fiduciária)や所有権留保など、債権者が対象資産の所有権を有する形の担保は手続の外に置かれる。ただし、権利行使の停止期間中は事業に不可欠な資本財は引き揚げられない(期間経過後は担保を実行できる)。
また、親会社等による保証や第三者が提供した担保は、保証や担保を解除する条項を含む再生計画を債権者が留保なく承認した場合を除き、計画の影響を受けない。そのため、債権者としては親会社保証や第三者から担保提供を受けることが望ましい。
(2)資金提供者
民事再生手続中の会社への資金提供(DIPファイナンス)は、債権者委員会の意見を聴いたうえで裁判所の許可を得ることにより優先的に扱われ(将来破産に移行した場合にも、破産手続外で優先弁済が認められる)、また、申立て後に生じた債権は計画の対象とならない。債務者の株主やグループ会社もこの保護を受けられるため、株主として出資先を支援する場面でも活用できる。
(3)買収者
再生計画に基づき民事再生手続中の会社の事業の一部を事業単位で取得する場合、買収者は、税務債務や労働債務を含め、債務者の債務を承継しない。税務・労働債務の承継が買収時の大きなリスクとなるブラジルにおいて、これは事業買収の大きな機会となる。ただし、売却は原則として競売等の法定の方法による必要がある。それ以外の方法(相対での売却など)は、計画に条件を詳細に記載し、その点について個別に決議を経て、裁判所の認可を得る必要がある。
(4)株主、取締役
出資先が倒産しても、株主は原則として出資額を超える責任を負わず、取締役も会社の債務不履行のみを理由に個人責任を負うことはない。ただし、財産の混同など法人格の濫用がある場合には株主が、法令違反等の違法行為がある場合には取締役が、それぞれ責任を問われ得る。また、労働・消費者分野等では、株主の責任が比較的広く認められる傾向がある。
5. おわりに
民事再生手続の増加は、取引先の倒産が身近なリスクとなっていることを意味する一方、事業買収などの機会ももたらす。特に、担保の種類によって倒産時の扱いが大きく異なる点は日本法と異なるため、平時から、契約条項や担保の取り方、取引先の信用状況の管理体制を見直しておくことが望ましい。また、取引先が申立てを行った場合には、債権の届出や異議の期限が短いことから、速やかに現地の専門家に相談できる体制を整えておくことも重要である。