【入所】当事務所では検事総長を退官された樋渡利秋弁護士を顧問として迎えました
2010/10/28
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40年余の検察官の任務を終えました。司法試験受験を志した時は自由な弁護士を目指したのですが、司法修習を終えるころには検察官になろうと考えていました。やはり世の中の矛盾や不正義に正面から対峙したいとの思いが少なからずあったからでしょう。それから20数年間、東京を中心とした各地の地方検察庁の一線で捜査・公判の検察官活動を続けて来ました。特捜・公安・一般刑事とそれぞれ3分の1ずつ位の割合だったと思います。自分の思いとは別に、社会への貢献という意味では何ほどかの役割すらも果たせなかったのではないかと忸怩たるものを感じますが、この間扱った事件にはそれぞれの思い出があるのも事実です。この場で一つ一つを明らかにすることもできませんが、いずれ皆様と親しく語る機会もあるでしょう。
検事としての最後の10年余は、司法制度改革とともに歩んできたとの思いです。その当時は法務省の勤務経験のほとんどない、したがって最高裁事務総局や日弁連と交渉や対話をした経験も皆無の私に何故この役割がと訝りながら、平成11年6月に命ぜられたのが、それまで全く関心のなかった司法制度改革審議会の事務局長というポストでした。当然に戸惑いましたが、だんだん「目から鱗」の心境になり、私自身にとってとても良い経験になりました。その間の積もる話は別の機会に譲るとして、この審議会の意見書を受けてこの改革に本格的に取り組むこととなった司法制度改革推進本部事務局の面々も含め、我々この改革に携わった仲間の一致した思いは、この改革を通じて我が国社会の在り方を変えていきたいということだったのではないでしょうか。だからこそ今でも毎年集まって熱い思いを語り合っているのだと思います。私たちが目指す新しい我が国の社会の姿とは、少し畏まって言えば、「国民一人ひとりが、自律的で社会的責任を負った主体として互いに協力しながら自由かつ公正な社会を築き、それを基盤として国際社会の発展にも貢献する」というものでしょうか。そのためには、法の下ではいかなる者も平等・対等であるという「法の支配」の理念を我が国社会全体にあまねく広げなければならず、またこれを担うべき法曹は、単なる法律の知識が豊富であればよいというものではなく、人間としての幅広い教養と豊かな感性を身に着けていなければならないと考えるのです。新しい制度である裁判員裁判では、裁判員に選ばれた国民はその社会的責任を果たそうと真摯に努力しているように見受けられます。その姿勢に感動すら覚える方も少なくないでしょう。他方、法曹の中には、未だに改革のゆくえに戸惑いを感じる方々も少なくないようです。改革は緒に就いたばかり、一気呵成に理想が実現できる訳がありません。しかし理想や夢を追いかけることに躊躇し、安穏な現実に縋りつこうとする社会には発展は望めそうにありません。
わが父祖の地薩摩に今も変わらず噴煙を吹き上げ続ける桜島には、「わが胸の燃ゆる思ひにくらぶれば煙はうすし桜島山」(平野国臣)の歌碑があります。このような若者が多数輩出したからこそ明治維新が成し遂げられ、人々は今でもそのロマンに感動するのでしょう。次代を担う若い人たちに、これまでの経験を伝え、これからの夢を語り合うことができれば、最後の務めのいくばくかは果たせるのではないかと思っているところです。