【入所】当事務所では青山学院大学名誉教授の半田正夫弁護士を顧問として迎えました
2012/08/14
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この度、縁あってTMI総合法律事務所にお世話になることになりました。以下に自己紹介させていただきます。
私は、1961年に北海道大学法学部助手に採用されて研究者としてのスタートを切りました。民法の専攻でした。しかし当時、我妻栄教授の全盛期で友人と議論をしていても誰かが「我妻先生はこう言っている」といえばそれで議論は終了という状態でした。つまり我妻先生の著書である「民法講義」はいわばバイブルで、それを侵すことは憚れるというのが常識の時代であったといえましょう。民法の助手になったとはいえ、なにを研究テーマとしていいかわからず、毎日図書館の薄暗い書庫をウロウロしていたところ、たまたま手に取ったのがドイツの著作権法の権威であったウルマー教授の著作権法に関する著書でした。パラパラめくったところ、そこに「著作権は財産権と人格権とが渾然一体となった権利である」という記述を発見し、電気で打たれたようなショックを受けたものです。民法の常識では、財産権は譲渡も相続もできるが、人格権は一身専属権であって譲渡も相続も許されない権利であり、したがって両者は水と油であって決して融合することはないと考えられていたからです。ウルマーの見解はこの常識を根本から覆すものでした。なるほどこのような考え方もあるのかと、目からウロコが落ちる思いがしました。地球にいれば地球の全体を見ることができないが、地球を離れて宇宙の彼方からみれば地球の全体像が見えるのと同じように、民法から離れて別の法分野から民法を見れば新たな視野が開けるのではないかと思いいたったのです。まさに天の啓示です。早速、著作権に関する文献の収集に当たりましたが、日本のものは実務家の書いた簡単な入門書程度のものが数冊あるのみで、学術的な著書がまったくないことに気づかされました。やむなくウルマー教授の著書から読み進めることにしましたが、著作権法の知識のまったくない状態なのに、いきなりドイツの体系書を読むという無謀きわまりないことをはじめたので、いたるところで意味不明の箇所にぶつかったり、また前後の文脈からなにを意味するかはわかるものの、適訳となる日本語がないために、みずから造語をしなければならないなど、まさに杉田玄白の「蘭学事始」さながらの苦労を余儀なくされました。その際に造語した訳語でいま日本語として定着した専門語が数多くみられるのはうれしいかぎりです。このようにして苦労してまとめたのが、「著作権の一元的構成について」と題する論文で、これが私の学会デビュー論文となると同時に、法学博士の学位取得論文となったものです。時あたかも、わが国の著作権法が全面改正された時期に遭遇するという幸運も手伝って、数少ない著作権法学者として脚光を浴びることになったのです。
著作権法を勉強したことは、本来の念願であった民法の研究にも大きな影響を与えました。民法を従来の通説などに惑わされることなく純粋に公正な目で眺めることができるようになったからです。このような過程で生まれたのが、「不動産の二重譲渡へのひとつのアプローチ」と題する習作で、おそるおそる発表したこの習作が意外にも2、3の大家からお褒めのことばをいただき、これに勢いを得ていわゆる公信力説なる考えをまとめるにいたるわけです。通説に真っ向から挑むこの考えは、現在では若手を中心にしだいに同調者を増やしていることに、私としては一応の満足をしているところです。
大学の教員としての奉職は48年ほどになり、その間、常勤・非常勤を問わず、教壇に立った大学は24校にのぼりますが、やはり本務校としての青山学院における41年間はとりわけ思い出深いものがあります。「和をもって貴しとなす」をモットーにゼミ主催のすべての行事に全員参加を強制するということで集めたゼミの卒業生は590名に達し、結束力の固さは週刊誌にも取り上げられたほどで、現在でも会合があれば多くの参加者がおり、私の貴重な財産となっております。
1999年から4年間、大学長を経験しました。なんの抱負もないまま選任されたので当初は戸惑いましたが、4年の間に20数個の改革を実施することができました。なかでも最大の改革はキャンパス移転という大事業でした。大学というところは議論百出して結論出ずというのが実態ですが、これをわずか数ヶ月で強権に拠らずに全学部合意という形で実現することができました。そのためには学部教授会に出席して説得するということも何回か経験しました。その後は、経営者側にまわり、常務理事、理事長として学校経営のむずかしさを知るという貴重な経験もいたしました。
学外においても、著作権法との関係で学者以外の多くの著名人の知遇を得ることができたことも私の誇りとなっています。
いまここにわが国でも有数の規模と実績を誇るTMI総合法律事務所にお世話になることになったのも、このようなつながりによるものです。執務室から見回しますと、広いオフィスに多くの優秀な弁護士・弁理士はじめスタッフが整然と執務しているさまが一望でき、そのビッグ・ローファームのたたずまいに大いなる感動を受けている毎日です。通常の学者にはないいろいろな経験を積んできた私ですが、実務経験はなく、しかも10年ほどの間、法律からも離れていたこともあり、皆様の足手まといになることもあるかと存じますが、なんとかがんばりたいと思いますので、ご指導のほどよろしくお願いしたいと存じます。