第1 はじめに
2020年5月1日、モディ首相は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴うインド全土のロックダウン期間を、5月18日まで延長することを宣言した。かかるロックダウンの影響は、外国企業によるインドへの投資にも及んでおり、4月18日、インド商工省産業国内取引促進局は、2017年統合版外国直接投資政策(2017 Consolidated FDI Policy。以下「FDIポリシー」という。)の改正(以下「本改正」という。)を公表し、4月22日付けで施行した。
本号では、インド政府による5月以降の主要な新型コロナウイルスの対策措置を概説した上で、本改正について詳述する。
第2 インド政府による新型コロナウイルス対策措置
インド政府が5月以降に行った主要な新型コロナウイルス対策措置のうち、日系企業に影響を与えるものは、以下のとおりである。なお、インド政府が本年4月までに行った主要な新型コロナウイルス対策措置については、「インド最新法令情報‐(2020年4月号)〈続〉新型コロナウイルスと不可抗力(Force Majeure)条項」のとおりである。
http://www.tmi.gr.jp/global/legal_info/india/2020/india-4-6.html
- 5月1日、インド政府は、新型コロナウイルス感染拡大に伴うインド全土のロックダウンに関して第3期のガイドライン(以下「第3期ガイドライン」という。)を公表した。第3期ガイドラインでは、感染者の数等に応じて地域を、レッド・ゾーン、オレンジ・ゾーンおよびグリーン・ゾーンに区分し、地域ごとに異なる規制内容を定めているが、全てのゾーンについて、引き続き、国内・国際航空路線・鉄道・公共バスによる旅客の移動、映画館・ショッピングモールの利用等を原則的に禁止している。なお、感染リスクが低いグリーン・ゾーンでは、50%の乗車率での公共バスの運行を許可するなど、徐々に経済活動を再開させている。
第3 外国直接投資規制の改正
1 インドにおける外国直接投資規制の概要
インドにおいて、外国直接投資、すなわち非居住事業体又は非居住者がインド内国会社の資本に対する投資を行う場合、対象事業分野ごとに、外資比率の上限や、必要な手続が定められている。投資対象の事業分野により、手続が異なるため、インドへ投資する際には、FDIポリシーを確認し、規制の内容を確認する必要がある。
2 本改正について
(1)本改正の内容
従来は、事業分野ごとに設定された外資比率を上限として所定の要件に従って当局の事前承認を要さずに投資が許容される、いわゆる自動承認ルートの利用が可能な事業分野であっても、パキスタンおよびバングラデシュの事業体又は居住者によるインドへの投資については、例外的に全ての事業分野において、当局の事前承認が必要とされる、いわゆる政府承認ルートを採る必要があった。
ところが、本改正により、以下の国々の主体についても、全ての事業分野について、当局の事前承認が必要となった。
- インドと国境を接する国の事業体である場合
- 当該投資により利益を受ける者(beneficial owner)が、インドと国境を接する国の居住者又は市民である場合
本改正により、パキスタンおよびバングラデシュに加えて、新たに、中国、アフガニスタン、ネパール、ミャンマーおよびブータンの事業体又は居住者によるインドへの投資についても、全ての事業分野において、一律に政府承認ルートを採る必要が生じることとなった。
(2)本改正の背景
現地では、本改正の目的は、新型コロナウイルスの感染拡大により、大きな打撃を受けたインド経済の減速に乗じて、日和見的に、インド企業への出資を買収しようとする外国企業の動きの抑制にあり、本改正により、中国も政府承認ルートの対象に含まれることから、本改正は中国企業・居住者によるインド企業の買収・出資比率増加を警戒したものであると報じられている。
なお、本改正を受け、4月20日、在インド中国大使館は、本改正はWTOの無差別原則に違反し、投資の自由化という一般的な潮流に逆行するものであり、このような差別的措置を改善することを希望する、などとの声明を発出している。
第4 まとめ
本改正後であっても、日本を含むインドと国境を接していない国々の企業は、FDIポリシーにおける自動承認ルートは維持され、その範囲では政府の承認を要さずにインド投資を行うことが可能であるため、本改正の日系企業に対する直接的な影響は少ないものと考えられる。しかしながら、本改正により、中国企業によるインドへの投資の要件が厳格化されたため、中国企業によるインドへの投資が減少し、その結果、相対的に、日系企業を含むインドと国境を接しない国による投資が増加する可能性がある。
以上
TMI総合法律事務所 インドデスク
茂木信太郎/宮村頼光
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