1.はじめに
インド政府は、2020年2月11日、同年4月1日から全ての医療機器が医薬品・化粧品法(Drugs and Cosmetics Act, 1940。以下「DC法」という。)に定める医薬品として分類されることを内容とする医療機器に関する改正規則(Medical Devices (Amendment) Rules, 2020。以下「MD改正規則」という。)を発表した。MD改正規則は、「医療機器」に該当する場合に、輸入業者および製造業者に登録を求めるものである。そして、「医療機器」の具体的内容については、医療機器の定義に関してDC法3条(b)(iv)に基づき発行された2020年2月11日付け通知(以下「定義に関する通知」という。)により特定することで、登録を要する医療機器の対象を明確にしており、もって医療機器に対する規制を明確にしたものである。MD改正規則は、インド国内およびインド市場への参入を計画しているヘルスケア企業を活性化させるものとして注目に値する。
本号では、MD改正規則の主要な内容を解説する。
2.MD改正規則の概要
(1) 規制の背景
「メイク・イン・インディア」を掲げ経済改革を推進しているインド政府にとって、医療機器産業は重要な役割を担っており、インド国内で製造販売される医療機器の最低品質を確保するために、すべての医療機器を規制する法律は必要不可欠であった。しかし、DC法および2018年1月に発効した同法に基づく医療機器規則(2017 (MD Rules))の下では、規制される医療機器は限定されており、規制当局の承認が必要か否かについても曖昧さが存在していた。
(2) 規制内容
ア 医療機器の包括的定義
定義に関する通知により追加された「医療機器」とは、概要、ソフトウェア・アクセサリを含む器具・装置・インプラント・材料又は他の物品を含む機器であり、薬理学的、免疫学的、代謝的手段により、人体又は動物の本来の作用では達成できない作用が生じるもので、特に人体又は動物に使用されることを製造者が意図したものであって、下記の使用目的の1つ以上を意図するものをいうとされている。
①病気・疾患の診断、予防、モニタリング、治療又は緩和
②怪我・障害の診断、モニタリング、治療、緩和又は介助
③解剖学的・生理学的検査、置換、修理、又はサポート
④生活支援又は生命維持
⑤医療機器の消毒
⑥受胎調節
イ 医療機器の登録
医療機器の定義に該当する場合、輸入業者および製造業者は医療機器を登録する必要があり、この申請は、中央医薬品基準管理機構(Central Drugs Standard Control Organization)が提供するオンライン・ポータルを通じて行う必要がある。また、登録完了時に発行される登録番号は、医療機器のラベルに記載しなければならない。具体的な登録内容は、医療機器を製造又は輸入している会社の名称および住所、製造場所、医療機器の詳細(名称、モデル、番号、メディカルのクラス、材料、大きさ等)である。また、輸入業者が登録を行う場合には、原製造国からの自由販売証明書(Certificate for Free Sale)を提供する必要がある。
なお、MD改正規則の経過措置として、2020年4月1日から18か月間は、登録は任意とされているが、期間経過後は登録が義務付けられる。
※自由販売証明書(Certificate for Free Sale)とは、日本で製造される医療機器については、日本で薬事登録が完了していることの証明書をいい、医薬品医療機器等法の規定に準拠して、厚生労働省の監督のもとに製造され、かつ、日本国内において製造販売することを認められていること等を証明するものをいう。特定非営利法人海外医療機器技術協力会(OMETA)又は独立行政法人医薬品医療機器総合機構を窓口に厚生労働省から発行される。
3.MD改正規則の影響
MD改正規則により、医療機器の品質はMD改正規則の基準に準拠する必要があることになり、医療機器の安全性を向上させることになる。また、該当する医療機器の全てに登録が必要となる結果、従来のように医療機器について規制当局の承認が必要か否かを判断する必要がなくなった。さらに、医療機器の水準がグローバル基準に準拠されることになり、インド国外のヘルスケア企業を引き付け、外国直接投資(FDI)を促進させることが予想される。
4.コメント
MD改正規則によりインドでは約1700の医療機器が登録の対象となると推定されている。MD改正規則では、特定の医療機器を規制対象としてピックアップするのではなく、包括的な定義を設けることで、インド国内で販売されているすべての医療機器を規制対象とすることを目的としたものといえる。他方で、眼鏡や車いすなどの製品も医療機器の定義に含まれるかどうかは定かでない。したがって、インド国内で医療機器を製造している企業およびインドに医療機器を輸出している企業は、自社の製品がMD改正規則の下で医療機器として該当するか否かを確認する必要がある。
以上
TMI総合法律事務所 インドデスク
茂木信太郎/三田村大介/仲居宏太郎
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