第1 はじめに
2020年 9月4日、インド中央政府は、2020年中央消費者保護局(誤解を誘引する広告の防止及び宣伝広告の調査義務)ガイドラインの案(draft of the Central Consumer Protection Authority (Prevention of Misleading Advertisements and Necessary Due Diligence for Endorsement of Advertisements) Guidelines, 2020。以下「広告ガイドライン案」という。)を公表した。広告ガイドライン案は、不公正な取引慣行を防ぎ消費者の利益を保護することを目的とする法律である2019年消費者保護法(Consumer Protection Act, 2019)に基づき、中央消費者保護局が策定したものである。なお、広告ガイドライン案は、パブリック・コメントを経て今後修正が加えられる可能性があり、また、具体的な施行時期は未定である。
近年、インドでは、虚偽広告や誇大広告等の信頼性の低い悪質な広告により消費者が被害を受ける事例が増加している。実際に、消費者の約5割が、広告内容に信頼性はないと回答したとのアンケート結果もあり、インド政府としても、悪質な広告から消費者を保護するための施策を実施することが急務であった。本号では、このような施策の一つとして制定された広告ガイドライン案の概要を紹介する。
第2 広告ガイドライン案の概要
1 適用対象
広告ガイドライン案は、その媒体にかかわらず、全ての広告に適用される。また、自己の製品・サービス(以下「製品等」という。)の広告を行う製造者・サービス提供者のみならず、広告代理店やエンドーサー(以下、総称して「製造者等」という。)にも適用される。なお、エンドーサーとは、一般的に、芸能人やスポーツ選手等、世間に対して強い影響力を有する人物が、当該影響力を利用して広告を行う場合の当該人物を指す。
2 製造業者、サービス提供者および広告代理店の義務
製造業者、サービス提供者および広告代理店は、主に以下の義務を遵守する必要がある。
(1)宣伝文句が、真実かつ誠実であり、誤解を与えるものではないことを保証すること
(2)中央当局の要請に応じ、全ての宣伝文句が証明可能であることを保証すること
(3)個人、企業等の許可を得ずにこれらの名称を記載し、信用を失墜させるような広告ではないことを保証すること
3 エンドーサーの義務
エンドーサーは、主に、宣伝文句が客観的に証明可能であることにつき相当な注意を払う義務を負う。
4 正当な広告と認められるための要件
全ての広告は、正当な広告とみなされるためには、以下の要件を満たす必要がある。
(1)真実かつ誠実な説明であること
(2)製品等の機能・品質を誇張し、消費者に誤解を与えるものではないこと
(3)法律に基づき生ずる消費者の権利を製品等の特徴的な機能であると説明しないこと
(4)事実でないにもかかわらず、適切な情報又は科学的見解に基づき社会に広く受け入れられているとの宣伝文句としないこと
(5)広告された製品等を購入しなかった消費者に対して、当該製品等を購入しなければ危険が生じるとの誤解を与えないようにすること
(6)インドにおける社会通念上の公序良俗に違反せず、また、公衆への重大な又は広範囲な危害を引き起こし得る内容を含まないこと
なお、広告が、上記要件を満たさない場合であっても、当該不遵守が過失に基づくものであり、また、広告主が不遵守を治癒すべく迅速な対応を採った場合などには、当該広告は無効とならない。
5 模倣広告の禁止
広告は、消費者に誤解を与えること又は混乱を生じさせることを避けるために、レイアウト、キャッチ・コピー、スローガン、視覚効果、音響効果等の点において、他の広告、プロモーションとの間で過度に類似するものであってはならない。また、広告は、製品等の製造者の名称を消費者に誤認させるものであってはならない。
6 比較広告の条件
対象となる製品等を競合する製品等と比較する広告は、事実に基づき、正確であり、かつ立証可能でなければならない。また、製品等又は商標権を模倣又は複製するものでないことが必要である。
7 免責文言の条件
免責文言は、広告上の重要な宣伝文句と矛盾してはならず、また、広告上の誤解を生じさせ得る宣伝文句を修正するために用いてはならない。
第3 おわりに
広告ガイドライン案は、他に、違法な製品に関する広告、誇大広告、無料との宣伝文句を用いる広告、青少年に対する広告についても規制しており、インドにおいて広告を行う際には、これらの規制に留意する必要がある。また、広告ガイドライン案は、製品等の製造者等による広告のみならず、エンドーサーがツイッターやブログなどを通じて行う宣伝にも適用される点に特徴がある。広告ガイドライン案の制定により、インドにおいて消費者保護が促進されることが期待される。
以上
TMI総合法律事務所 インドデスク
茂木信太郎/小川聡/宮村頼光
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