1.はじめに
インドにおいては、2014年の現行会社法施行時より、一定の要件を満たす会社に、企業の社会的責任(CSR)を果たすために、一定の金額を拠出する義務が課されている。当該義務の導入時は、義務を達成できなかった企業に対して、達成できなかった事実を対外的に公表する義務を課すに留まっていたが、2019年改正(Companies (Amendment) Act, 2019)(以下「2019年改正法」という)において、義務違反に対する罰則が導入されることで規制が強化された。この度、2021年1月22日に施行された改正会社法(Companies (Corporate Social Responsibility Policy) Amendment Rules, 2021)(以下「2021年改正法」という)によって、更なる規制強化が図られた。
本稿では、CSRに関する上記義務に関する規制の内容を概観したうえで、近時の法改正及び2021年改正法による規制強化の内容を紹介する。
2.CSR活動に関する義務の概要
以下のi. 乃至iii. の要件を一つでも満たすインド企業(以下「対象企業」という)は、直近3会計年度の純利益の2%以上をCSRに関する活動に支出しなければならず、かつ、その内容を取締役会報告書及び対象企業のホームページを通じて開示しなければならないとされている。
i. 純資産が 50 億ルピー以上の会社
ii. 総売上が 100 億ルピー以上の会社
iii. 純利益が 5000 万ルピー以上の会社
また、対象企業は、非公開会社(Private Company)を含め、3 人の取締役(うち 1 人は独立取締役でなければならない。)で構成される CSR委員会を設置しなければならず、CSR 委員会が CSR に関する活動につき取締役会に提案し、取締役会が提案された活動の承認及び履行を行うこととされている。
3.近時の改正
2019年改正法においては、CSR活動に使われなかった拠出金の取扱いに関する追加ルール及びCSRに関する会社法上の義務違反に対する罰則が導入された。
また、2020年改正(Companies (Amendment) Act, 2020)においては、COVID-19対策となりうる事業をCSR活動として認める等、COVID-19対策への貢献を促す改正がなされた。
4.2021年改正法
この度の2021年改正法による変更のうち、重要なものは以下のとおりである。
①CSR活動の対象とならない活動の列挙
CSR活動の履行義務を負う企業(以下「対象企業」という)による以下の活動は、CSR活動から除外することが明示された。
- 業務の通常の過程で行われる活動(但し、ワクチン、医薬品又は医療機器の研究開発に従事している企業が、2020年度から2023年度にCOVID-19に関連してこれらの活動を行う場合は例外とされる。)
- インド国外で行われる活動、政党への寄付行為、及び他の法律に基づく義務を履行するために行われる活動
- 対象会社の従業員に利益をもたらす活動
- 製品又はサービスのマーケティングのためのスポンサーシップ活動
②CSR活動に関する諸経費
CSR活動に関する管理上の諸経費(Administrative Overheads)について、対象企業のCSRに関する支出の5%を超えないようにする必要があることが明示された。
③CSR活動による利益の取扱い
CSR活動により利益が発生した場合、かかる利益はCSR活動と関係のない活動に使用することはできないとされた。すなわち、当該利益は、(i)進行中のCSRプロジェクトへの再投資、(ii)対象企業のCSRポリシーも基づく活用、又は(iii)政府の指定する基金に送金する必要があることが明記された。
④拠出金に関するルール変更
2019年改正により、CSR活動のために拠出されたものの、当該会計年度のうちに使われなかった拠出金については、原則として、当該会計年度が終了してから6か月以内に会社法別表7に記載されているファンド(例えば、Prime Minister Relief Fund)に移し、かつ、使われなかった理由を年次報告書に記載しなければならないとされていた。2021年改正により、対象企業の取締役会での承認決議を条件に、3会計年度以内の任意の会計年度に持ち越すことができるようになった(但し、CSR活動による利益の持ち越しは認められない)。
⑤CSR委員会によるモニタリング義務の強化
CSR委員会が担う義務として、企業のCSRの活動の詳細な年間行動計画の策定及び当該計画の取締役会への勧告義務が追加された。当該年間行動計画には、CSRプロジェクトのリスト、CSRプロジェクトの実行方法、資金利用の方法及び実施スケジュール、監視報告のメカニズム等が含まれる。
⑥開示義務の強化
企業がウェブサイトを有している場合、CSRポリシーに加え、CSR委員会の構成及び承認されたCSRプロジェクトを開示する義務が追加された。
5.実務への影響
2021年改正法は、対象企業に対しより厳しいコンプライアンス遵守を求めるものである一方、CSR活動の対象とならない活動の列挙、諸経費の上限導入等、これまで不明確であったCSR活動の枠組みが一定の範囲で明確化されたという意味では、歓迎すべき改正ともいえる。SDGsに関する世界的関心の高まりと相まって、CSR活動を推進する企業が高く評価される中、CSR活動に関する義務の不遵守に対しては金銭的ペナルティ及びレピュテーションリスクが伴うため、インドで事業を行う企業はCSR関連法規の適否及び遵守状況を今一度検証することが望ましい。
以上
TMI総合法律事務所 インドデスク
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