1.はじめに
2013年インド会社法(Companies Act, 2013。以下「会社法」という。)は、ビデオ会議方式による取締役会を原則として許容しつつ、政令により例外を定めることができる旨規定している(会社法第173条第2項)。かかる政令として、2014年、インド企業省(Ministry of Corporate Affairs。以下「企業省」という。)は、一定の重要議題に係る取締役会をビデオ会議方式により開催することを禁止する規則(以下「2014年規則」という。)を施行した。
その後、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて数度にわたりなされた企業省による特例的な緩和措置を踏まえて、2021年6月15日、企業省は、2014年規則を撤廃する規則(以下「本規則」という。)を施行し、ビデオ会議方式による取締役会を無期限かつ全面的に解禁した。
本号では、2014年規則の内容及び本規則の施行に至る経緯を概説したうえで、本規則が日系企業を含む外国企業に対して与えうる影響を検討する。
2.2014年規則の概要及び本規則の施行に至る経緯
(1)2014年規則の概要
2014年規則は、会社法第173条第2項の例外として、以下の事項に係る取締役会をビデオ会議方式により開催することを禁止していた。
①年次計算書類の承認
②会社法第134条第3項所定の取締役会報告書(Board’s Report)の承認
③事業内容説明書(Prospectus)の承認
④計算書類の検討に係る監査委員会会議
⑤合併、会社分割、又は企業買収に関する事項の承認
2014年規則の趣旨は、特に重要な議題に係る取締役会を現実に開催させることで、公正かつ慎重な意思決定を確保する点にあると考えられる。
(2)本規則の施行に至る経緯
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、2020年3月19日、企業省は、2020年6月30日までの期間限定で、2014年規則にかかわらず、一切の議題について取締役会をビデオ会議方式により開催することを特例的に認めた。その後、かかる特例の期間は数回延長され、本規則により2014年規則が撤廃され、ビデオ会議方式による取締役会が無期限かつ全面的に解禁されるに至った。
3.本規則の影響
本規則により、取締役会における一切の議題をビデオ会議方式により審議及び決議することが可能となった。その結果、例えば、日系企業を含む外国企業からインドの合弁会社に派遣されている取締役が一時的にインド国外に出張しているような場合に取締役会を欠席せざるを得ない、といった事態は減少すると考えられる。そのため、本規則は、特にインド国外に移動する機会の多い外国人取締役の行動範囲に対する地理的な制限を緩和する効果が期待され、インドに現地子会社を有する又はインドの合弁会社に参加する日系企業を含む外国企業にとって好ましいものといえる。
その一方で、ビデオ会議方式によって、特に企業買収等の重要議題について、現実に会議を開催するのと同じように公正かつ慎重な審議ができるか、重要な機密情報が流出するおそれがないか、通信の安定性や手続の透明性を確保できるか、といった懸念点も存在する。そのため、本規則に基づく実務の定着により、今後明らかになる長所及び短所を注視する必要があると考えられる。
以上
TMI総合法律事務所 インドデスク
平野正弥/奥村文彦
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