1.はじめに
2021年8月25日、インド民間航空省(Ministry of Civil Aviation)は、2021年ドローン規則(Drone Rules, 2021。以下「本規則」という。)を公布し、同日付で施行した。本規則は、2021年3月12日に公布された2021年無人航空機システム規則(Unmanned Aircraft System Rules, 2021。以下「旧規則」という。)に置き換わるものである。規制が煩雑であると批判されていた旧規則に対し、本規則は、当局に提出すべき書式の種類を削減するなど、旧規則よりも大幅に規制を簡略化するものである。
本号では、本規則の内容を概説したうえで、本規則が日系企業に対して与えうる影響を検討する。なお、本規則では「ドローン」ではなく「無人航空機システム」(Unmanned Aircraft System)という定義語が用いられているが、本号では便宜上「ドローン」という表現を用いる。
なお、本規則の原文には、以下のリンク先からアクセスすることができる。
本規則原文(英語版は24頁目以降)
https://egazette.nic.in/WriteReadData/2021/229221.pdf
2.本規則の概要
(1)適用範囲
本規則は、インドにおいてドローンを所有若しくは所持、又はドローンの賃貸、運航、譲渡若しくはメンテナンスに従事する全ての者、及びインドにおいて登録又は運航される全てのドローンに適用される。ただし、本規則はドローンの民間利用を規制するものであるため、インド陸海空軍に所属する又は利用されるドローンには適用されない。
(2)プラットフォームの一本化
本規則により、インド民間航空総局(Directorate General of Civil Aviation)がオンラインで運営するデジタル・スカイ・プラットフォーム(Digital Sky Platform。以下「本プラットフォーム」という。)が設置された。ドローンに関する許可の大半は、本プラットフォームから取得できるようになる予定である。
(3)機体の分類
本規則は、総重量を基準として、ドローンを以下の5種類に分類している。ドローンの分類に応じて、適用される規制の内容が異なる。
①ナノ・ドローン:250グラム以下
②マイクロ・ドローン:250グラム超2キログラム以下
③スモール・ドローン:2キログラム超25キログラム以下
④ミディアム・ドローン:25キログラム超150キログラム以下
⑤ラージ・ドローン:150キログラム超
なお、ドローンの総重量が500キログラムを超える場合、本規則ではなく1937年航空機規則(Aircraft Rules, 1937)が適用される。
3.本規則の主な規制及び罰則
(1)認証の取得
インドにおいてドローンを運航するには、本プラットフォームを通して認証を取得する必要がある。また、本規則の施行後、インド政府は、かかる認証に代替できる外国の認証について通達を公布することができると規定されている。
ただし、以下のいずれかの場合には、かかる認証取得義務が免除される。
①総重量25キログラム未満のドローンを、専ら教育、研究、設計、試験又は娯楽目的で、目視可能な範囲内で運航する場合(本規則第13条第2項第(a)号及び第3条第1項第(n)号)
②ナノ・ドローンを運航する場合(本規則第13条第2項第(b)号)
③連邦政府若しくは州政府が認定した研究・教育機関、インド商工省産業国内取引促進局(Department for Promotion of Industry and Internal Trade)が認定した新興企業(Startup)、又は物品サービス税識別番号(Goods and Service Tax Identification Number)を有するドローン製造業者など一定の者が、後述するグリーン・ゾーンに含まれる自己の敷地内又は管理地内において、研究、開発又は試験目的でドローンを運航する場合(本規則第42条。上記③の運航を、以下「特定研究開発目的運航」という。)
(2)機体の登録
インドにおいてドローンを運航するには、本プラットフォームを通して機体を登録し、識別番号(Unique Identification Number)を取得する必要がある。また、ドローンの売買、賃貸借又は贈与等を行うには、本プラットフォーム上で譲渡人、譲受人及び識別番号を所定の書式に入力する必要がある。ただし、かかる機体登録義務は、特定研究開発目的運航には適用されない(本規則第42条)。
(3)運航空域規制
本規則は、インドの空域全体をグリーン・ゾーン、イエロー・ゾーン、及びレッド・ゾーンの3種類に分類している。グリーン・ゾーンにおけるドローンの運航には事前許可を要しないが、イエロー・ゾーン及びレッド・ゾーンにおけるドローンの運航には事前許可が必要となる。なお、空域の分類が変更された場合であっても、当該変更から7日間が経過するまでは当該変更の効力は発生しない。
ドローンの操縦士は、ドローンの運航を開始する前に、運航予定空域に適用される規制を本プラットフォームにて確認する義務を負う。また、ドローンの事故が発生したときは、事故発生後48時間以内に、本プラットフォームを通して当局に報告する必要がある。
(4)ライセンスの保有
ドローンを運航する操縦士は、当該ドローンの分類に対応した有効な遠隔操縦士ライセンス(Remote Pilot License)を保有することを要する。当該ライセンスは、本プラットフォームに掲載されている場合に限り有効となる。また、当該ライセンスは10年間有効で、更新することができる。ただし、かかるライセンス保有義務が免除される場合として、①ナノ・ドローンの運航(本規則第36条第(a)号)、②非商業目的によるマイクロ・ドローンの運航(本規則第36条第(b)号)及び③特定研究開発目的運航(本規則第42条)が規定されている。
(5)賠償責任保険への加入
本規則は、ドローンによって第三者の生命又は財産に損害が発生した場合の賠償責任をカバーする対人・対物賠償責任保険への加入を義務づけている。なお、加入すべき保険の内容については、1988年自動車法(Motor Vehicles Act, 1988)が準用される。ただし、かかる保険加入義務は、ナノ・ドローンには適用されない(本規則第44条第1項但書)。
(6)違反に対する罰則
本規則に違反した場合、違反の内容に応じて、最大10万ルピーの罰金を科される可能性があり、また、当局からの許認可が停止され若しくは取り消される可能性もある。ただし、本規則は、本規則に対する違反が免責される場合として、天候その他の回避不能な事由など、当該違反者のコントロールが及ばない、又は当該違反者の認識若しくは過失がない事由によって引き起こされたことが証明された場合を規定している(本規則第49条第3項)。
4.本規則の影響
ドローンの活用は、測量、物流、点検、報道など多種多様な業務の精度向上及び効率化につながると期待されている。また、ドローンの活用によって技術革新及び経済活動が促進されれば、測量、物流、点検、報道等のドローンを直接活用する業界はもちろん、それ以外の業界を含む経済全体にも恩恵をもたらす可能性がある。そのため、本規則は、ドローンに関する規制を大幅に簡略化することでインドにおけるドローンの活用を促進するものであり、インドにおいて自らドローンを活用する日系企業のみならず、インドにおいて事業を行う日系企業全般にとっても好ましいものといえる。
以上
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